【虹の刻 第10章】村上虹郎×山田智和×岩松了。
虹の刻
フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。
第10回目の文筆家には、劇作家で演出家、俳優、映画監督など幅広く活躍する岩松了が登場。音楽は、トラックメーカーのEVISBEATSが担当。わずかに熱気の残るボクシングジムで蘇る、とある瞬間を描いた「削ぐ」の話。
シャツ¥56,100/コモン スウェーデン(ジェムプロジェクター) パンツ¥42,900/アクネ ストゥディオズ(アクネ ストゥディオズ アオヤマ) シューズ/スタイリスト私物
芝居? 岩松 了
あいつは芝居をしているとか言うけど、誰だって、いつだって、芝居をしてるわけだから別にあいつに限らない、あんたもだよと言うと、オレが?芝居を?と眉をひそめ、そのまま動かなくなって、次に言葉を継ぐのはどっちだという顔をしてこっちを見つめる。
雲行きがあやしい。なぜこんなことになったのか。芝居をしているという理由であいつのことを敵に回そうとしたのはなぜ?芝居をしている、ということが唾棄すべきことだと言い張らなきゃならない流れになったのは、どういう源流からだった?
人の目にどう映りたいかそれがあいつのすべてなんだよ。要するに自分というものが無い!しかもそのことにあいつ自身が気づいてない。
そこら辺か?源流は?
あの時私は何と答えた?自分など誰にも無いと言い、確か人は断じて真実を語れないとかそんなことを言った…そして真実という言葉に照れてみせたはずだ。
今は11時56分、これは真実じゃないのか?オレの口が吐いているが。
いや、それは意味であって真実じゃない!
そして今、目の前にいるあんたはとどめを刺すぞというふうに私を睨めつけて聞いてきた。
一人でボーッとしてる時、オレは、誰に、どんな芝居をしているって言うんだ、え?
答えようとしたがすでに、それを遮るように、頭を指さしてクルクル回してみせたあんた、言葉を吐けばそれだけ敗北に近づくだけだと感じ始めていたのかもしれない。
Tomokazu Yamada
1987年生まれ、東京都出身。Caviar所属。アーティストへの敬意、作品や精神性への共感と愛。光や闇、水などの自然を巧みに取り入れた作品群は、普遍性を持ちつつ私的な感情を描き出す。2018年、米津玄師「Lemon」のMVでMTV VMAJ 2018 最優秀ビデオ賞受賞、19年、スペースシャワーミュージックアワードでBEST VIDEO DIRECTOR受賞。
Nijiro Murakami
1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。オダギリジョー監督、映画『ある船頭の話』が現在公開中。映画『楽園』が10/18に公開。その他に『”隠れビッチ"やってました。』『ソワレ』の公開を控える。
Ryo Iwamatsu
1952年生まれ、長崎県出身。89年、『蒲団と達磨』で岸田國士戯曲賞受賞。90年代より、テレビドラマや映画の脚本家・監督としても活躍。近年の舞台に、2016年『家庭内失踪』(作・演出・出演)、19年『二度目の夏』(作・演出・出演)など。映画出演作に、13年『ペコロスの母に会いに行く』、17年『おじいちゃん、死んじゃったって。』など。
奈良県出身のトラックメイカー。ヒップホップ・グループ、韻踏合組合奈良支部のNOTABLE MCに所属し、2004年脱退。その後、ヒップホップMCとしてはAMIDA、トラックメイカーとしてはEVISBEATS名義でソロ活動をスタート。08年、アルバム『AMIDA』、12年『ひとつになるとき』を発表。客演やプロデュース、CM楽曲製作など幅広く活動。18年『HOLIDAY』をリリース。
アクネ ストゥディオズ アオヤマ tel:03-6418-9923
ジェムプロジェクター tel:03-6418-7910
※この記事に記載している価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の税込価格です。
réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : EVISBEATS , acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : RYO IWAMATSU, stylisme : TAKAYUKI TANAKA, coiffure : NORI TAKABAYASHI(YARD)