「ラブシーンは、感じるままに動いた」。さとうほなみが演じた愛の逃避行。

インタビュー

世界最大級のストリーミング配信Netflixが、今年初めて打ち出す日本発のオリジナル映画、それが廣木隆一監督の『彼女』だ。高校時代に恋い焦がれた同級生から、夫殺しを持ちかけられる永澤レイ役に水原希子。レイからの好意を自覚して、人としての一線を超えさせる篠田七恵役にさとうほなみ。10年ぶりの1本の電話から、美容整形外科医としての恵まれた環境も、愛情深いパートナー(真木よう子)との生活も手放してしまうレイ。長年DVを受け続け、夫を殺害したレイと逃亡という道を選ぶ七恵。原作は2007年から5年にわたって連載された、中村珍の漫画『羣青』。あまりにも濃厚で、危険で、激しい道行きに、私たちは否応なく巻き込まれてしまう。この“事件”ともいうべき作品に参加した、さとうほなみに話を聞いた。

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シャツ¥38,500/キディル(サカス ピーアール)、キャミソール¥25,300/ジーヴィージーヴィー(ケイスリー オフィス)、ックレス¥462,000、ピアス¥891,000、リング¥319,000/以上メシカ(メシカ ブティック 日本橋三越本店 本館6階)

撮影中はずっと、レイといる時の七恵の感情のままでした

――『彼女』では自己肯定感の低い七恵の感情のねじれ方を等身大に表現していて、役者としてすごい領域に行かれたんだなと感じました。中村珍さんの原作とは違う女性像になっていますが、七恵のパーソナリティをどのように感じましたか。

七恵には信頼できる人が元々いなかったんだろうなと感じました。家族もいないし、友だちもいない。夫に暴力を振るわれ、心を許せる人が全くいない状態が、すごく長い時間続いている女性。自分自身のプライドもあって、他人に本音や弱音を出せないままずっと生きてきた。少なからず、共感できる部分もあって、そこを大事に演じたいと思いました。

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【2月24日(水)18時解禁】場面写真_Netflix映画『彼女』 (6).jpg

さとうは夫からのDVに悩む女性、七恵を演じた。

――さとうさんが演じた29歳のパートの前段階として、レイと出会う高校時代の七恵は、陸上選手として活躍する直前、それが絶たれてしまう悲運に見舞われます。そういう状況にコミットできるところはありましたか?

私自身、ああいう何かを諦めるという経験はないんですけど、七恵の場合はケガを負って、身体的に陸上を諦めなくてはいけなくなった。でも、諦めきれない感情もあって、自暴自棄になったりもして。そこでレイに弱みを見られて、高校生活を続けるためにお金を援助され、そこにすがらなきゃやってられないという状況に陥る。でも、絶対に助けられたくないんです。高校生パートは、レイを南沙良さん、七恵を植村友結さんが演じているのですが、リハーサルでは廣木隆一監督のご意向もあって、希子ちゃんと私とで高校生パートを全部、演じさせてもらっているんです。学校で言葉を交わす場面も、レイに借りたお金を返す場面もリハーサルで「好きなように演じていいよ」と。廣木監督からの「こういう過去を背負って、君たちはいまここにいるんだよ」という過去の見えないところのエチュードを身体に入れる作業を大事にしてもらったので、すごく自由に演じることができました。

――七恵は夫から凄まじいDVを受けているという設定なので、全身あざだらけのボディメイクがすごくて驚きました。これは、全シーン、準備されたということですよね?

そうですね。肌を見せる場面の時は、毎日、特殊メイクの宗理起也さんに、撮影前に1時間半ほど、痛そうな痣を前身、スプレーで作ってもらっていました。

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【2月24日(水)18時解禁】場面写真_Netflix映画『彼女』 (2).jpg

本作は車やバイクでふたりが逃避行を続けるシーンが続く、ロードムービーだ。

――レイは惚れた弱みを七恵に感じていますが、レイも七恵に過去に学費を援助してもらった負い目がある。恋愛って、対等な場所から始まらないとうまくいかないので、七恵の背負っている境遇に泣きましたが、恋愛における力関係をどう感じましたか?

その前に、そもそも私は七恵を演じていて、これは恋愛だなって捉えていたことが一度もなくて。レイがいなかったらお金を借りることもなかったし、それを返すために早々に結婚して、夫からお金を出してもらうこともなかっただろうし、それが原因でDVを受けることもなかったかもしれない。そういう連鎖への嫌悪感もあるだろうし同時に、レイは忘れられない、特別な存在でもあったと思う。ただそれは恋愛の好き嫌いではなく、一緒にいて、彼女の気持ちを、そして自分の気持ちを試したくなる存在だと思うんです。レイには家族がいる、でも私は独りでつらい。撮影中はずっと、レイといるときの七恵の感情のままでいたのですが、その感情を恋愛というふうには捉えていなかったです。

――水原希子さんは、今回の映画では過酷なシーンを乗り切ったまさに戦友というべき存在かと思いますが、レイの印象が特に変わったシーンがあれば教えてください。

希子ちゃんは今回、初めましてだったんですけど、太陽みたいな存在でした。明るくて、自分の意見をしっかり持っていて、すごく周りの様子を見てくれているし、話も聞いてくれる。“水原希子太陽説”は会う前も、会ってからも変わらないんですけど、レイとしては、ふたりで逃げている間に、レイが真木よう子さん演じる恋人の美夏さんに連絡する場面の後の顔が忘れられないですね。あの電話で「レイは全部を捨てたんだ」と実感したんだと思うんです。でも、七恵にとっては、それは寝入っている間の出来事で、そんなことを知る由もない。でも、電話を切って、七恵のためにサンダルを持ってきてくれた時に、レイの顔つきが明らかに変わっていたんです。レイが覚悟を決めた顔で次に進むって伝わるものがあって、忘れがたい場面になりました。

――廣木監督はこれまで『ヴァイヴレータ』や『やわらかい生活』、『軽蔑』など、数々の女性映画を撮っていますが、どういう監督でしたか?

今回、廣木監督と初めてご一緒したんですけど、やり終えた後で、いろんな方から「怖い監督」だと聞いて、先に聞いておかなくてよかったと思いました(笑)。私にとっては、すごく役者ファーストで、役者がやりたいことをやるべきだと尊重してくれる方でした。このシチュエーションで七恵は何を考えているか、私に委ねて考えさせてくれるので、リラックスもしましたし。一度、スタッフが大勢いる中、自分の世界に入り込んでいて、独りになりたかった時があったんですけど、その時も監督が、誰も使っていない部屋に案内してくれました。すごく大切にされたので、厳しい、怖いっていうのはなかったですね。

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メイン場面写真_【2月24日(水)18時解禁】場面写真_Netflix映画『彼女』 (1).jpg

罪を犯したふたりの、行きつく果てとは?

――『燃ゆる女の肖像』『アンモナイトの目覚め』に続き、女性同士のメイクラブの描写がとても説得力のあるものですが、どういうアプローチをされたのでしょうか?

廣木監督が「どれくらい時間をかけてもいいから、ふたりのやりたいようにやっていい」と言ってくれました。レイと七恵と、本当にお互い、あなたしかいない、ただただ幸せな時間を共にしている、ということになった時、自然と七恵自身の感情として、レイにしてもらっているだけじゃなく、彼女に返す、してあげるという動きが出てきました。あれは、段取りではなく、自然と出てきた感情が起こした場面になりました。

――最近、女性同士の共闘、連帯を大切に描く映画が増えていますが、いまのさとうさんの発言を借りると、『彼女』はシスターフッド映画ともいえると思いました。さとうさん自身は、最近、刺激を受けたシスターフッド映画はありますか?

『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』ですね。それまで勉強しかしてこなかった女子高生ふたりが、高校最後のプロムパーティで弾けようとする。そこからいろんなことに巻き込まれていくんだけど、それでも一緒にいて、仲が良くて、離れられない。大親友でもあるけどライバルでもあって。このふたりの関係性が、見ていてとても不思議なんですけど、すごくかわいいなって思って。話自体、とてもかわいくて、大好きな映画です。

――私はゲスの極み乙女の初期の頃からのファンでもあるのですが、ミュージシャンとしてのほな・いこかと、俳優のさとうほなみはいま、どのような相互関係にあるでしょうか?

ああー。ドSという設定の初期のほな・いこかを頑張っていた頃から知っていただいているんですね、ありがとうございます(笑)。川谷絵音さんのすごく長いMCを止めたり、楽屋で休日課長に強く当たってみたりなどの役割の時期もありましたが、バンドも長くなり、いまはSというキャラクターはどこかに飛んでいきました。今回、『彼女』を先に見て、その後に、ミュージシャンとしての私を知っていただくケースもあるかもしれないし、今後も俳優としていろいろやっていきたいと思っています。俳優としての作品が増えることを願っていますし、曲も知っていただけるとすごくハッピーです。

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1989 年生まれ、東京都出身。2012年からバンド・ゲスの極み乙女。のドラマー「ほな・いこか」として活動開始。17年に「さとうほなみ」として女優活動を開始。ドラマ『まんぷく』(19年、NHK)、映画『窮鼠はチーズの夢を見る』(20年)ほか、舞台などでも活躍中。

 『彼女』
●監督/廣木隆一
●出演/水原希子 さとうほなみ 真木よう子 鈴木 杏 田中哲司 ほか
●原作/中村珍『羣青』(小学館IKKIコミックス)
●2021年、日本映画 
●142分
●Netflixにて全世界独占配信中 www.netflix.com/彼女
●問い合わせ先:
サカスピーアール
tel:03-6447-2762

ケースリー オフィス
tel:03-5361-1074
www.k3coltd.jp

メシカ ブティック 日本橋三越本店 本館6階
tel:03-6262-7688

 

photos:YASUYUKI EMORI intervie et texte: YUKA KINBARA stylisme: YUDAI ICHINOSAWA(TEN10)coiffure et maquillage : MAKIKO NONAKA

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