ウェス・アンダーソン監督の友人、野村訓市が語る『犬ヶ島』

インタビュー

第68回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞し、日本でも待望の公開となったウェス・アンダーソン監督の最新作『犬ヶ島』。この作品を語るにあたって欠かせないのが、監督の長年の友人である野村訓市の活躍だ。共同原作者であり、作品の舞台である日本を正しく描くためのコンサルタント、そして小林市長の声も担当したキー・パーソンに話を聞いた。

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(写真左)野村訓市:1973年、東京出身。国内外でカルチャー、建築、音楽、ファッションに関するライター・エディターとして活躍。本作では共同原作/キャスティング・ディレクターを務める。(右)ウェス・アンダーソン:1969年、米テキサス州ヒューストン出身の映画監督・脚本家・俳優・映画プロデューサー。

日本を舞台にすることで出てきた、たくさんのアイデア。

― ウェス・アンダーソン監督との出会いはいつ頃ですか?

「ソフィア・コッポラの紹介で会ったのが13~4年前。でも、誰だか知らない状態で会っていたし、本人もいちいち説明するような人ではないですし、メールで“ちょっと会おうか”というところから始まって、そのまま何日か一緒に遊んでいた時に『僕の映画を観る? 映画を作ったんだ』と言われて、ウェス・アンダーソンなんだとわかって(笑)」

― 野村さんはソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』やアンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』にも出演されていますが、この『犬ヶ島』にはスタッフとしてもクレジットされています。どのようにして関わっていったのですか?

「まずウェスから3年前の2月にメールが来て、『日本の映画を作るから手伝ってくれ』と。彼の映画はすごく好きですし、いつか日本の映画を撮りたいと言っていましたし、ファンとして、ウェスが日本の映画を撮ったらすごく楽しいだろうな、どんな風に撮るんだろうなと思って。それはソフィアが撮った映画とは違ったものになるだろうし。なのですごく嬉しかったんですけど、“関わるとしたら大変そうだなぁ”と思ったんです。そして、やることが雪だるま式にどんどん増えて、『友達の手伝いというレベルではなくなってきた』と思いながらも引けなくなった、という感じですね」

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メイキング写真より。

― 原作はどのようにできていったのですか?

「ウェスは最初のアイデアで、ゴミ捨て場に溜まる犬というシーンを考えていて、そこから “なんでその犬たちがそういう状況に置かれたのか!?” と掘り下げて話を作っていって。犬が主人公という原案からうまく話が広がらなくなった時に、ロマン(・コッポラ)もジェイソン(・シュワルツマン)も日本に来たことがありますし、舞台が日本だったらいいんじゃないかな、と思い付いたらしく。この2つをくっつけてみたら、アイデアがみんなから出始めて、『じゃあ、日本の映画にしよう!』となった時に、僕に声がかかったという」

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ウェス独特の世界観や会話を、日本語のセリフにする難しさ。

— 監督から、日本について次々と質問されたそうですね。

「すごく細かいので、余計なところで変な知識を持っているなぁと思いましたね。どこで知ったんだ?と思うような『何年代のこういうユニフォームがあったはずだ』とか、話が送られてきて『英語のセリフだとしたら成り立つけど、日本語だったら成り立つと思う?』とか。そこから『一度、全部日本語にしてみてよ』となって(笑)。ウェスの世界観や会話のセリフにはとても特徴があるから、それをただそのまま短く日本語にすると、そこでのユーモアといった彼らしさがなくなっていく。なので、それをどう翻訳していくかが大変でしたね。それができたら次に、映画では犬は英語を喋って日本人は日本語を喋るんですけど、尺を見るために絵コンテを使って1本分を先に撮ることになったんです。それでウェスが全部犬の声を録音して、日本人の声は僕が全部録ることになって、渡辺教授から何から全部喋りました(笑)」

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交換留学生のトレイシー(声:グレタ・ガーウィグ)と科学者助手のヨーコ・オノ(声:ヨーコ・オノ)の場面

― ヨーコ・オノさんの分も?

「オノさんが喋るシーンは最初はなかったんですよね。途中からどんどん足されたので、(筆頭執刀医役の)渡辺謙さんが喋るところもなかったですし。最初はもっとソリッドな感じで、そこから長さを見ながらキャスティングをして声を差し替えていき、またそこで台詞の直しを入れたりして。その途中でウェスから、『おまえの声は低いし、悪い市長っぽいから、おまえの声をキープする』と言われたんです。僕は俳優でもないし、声優をやったこともないから、大丈夫なの?みたいな感じだったんですけど。でも悪役かぁ〜と思って(笑)」

― ずっと作業が続いていたんですね。

「全員バラバラのところに住んでいるので、たまにしかみんなと会えない。監督は撮影をやっている時はロンドン郊外にいて、全てがオンラインみたいな感じで、『こういうのを撮ったけど、どう思う?』と、毎日チャット状態で連絡が来る。僕は時差がないと信じられていて、夜中の3時とかにカンファレンスコールが来る(笑)。本当に終わりが見えなかったですね」

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マニアックさとファンタジーとのバランス感。

― 野村さんが担当した小林市長は重要な役ですが、キャラ作りはどのように?

「演説のようなシーンが多くて、監督からは『速く喋ってほしい』という指示があったんですけど、そうするには息を止めて一気に喋る必要があるので、声が高くなりやすい。だから低い声のままで速く、というのは難しかったです。YouTubeなどで、政治家の演説を結構見ました。権力を長く持っている政治家の、後期の方がいいですよね(笑)。こなれちゃってて、言ってることと裏でやってることが違うみたいな人たちのはもちろん見ました。小林市長のキャラクターに関して言えば、ラストには人間らしさが残っていたのが嬉しかったです」

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小林市長(声:野村訓市)と悪役補佐のメイジャー・ドウモ(声:高山明)

― 「ウニ県メガ崎市」、「犬ヶ島」といったネーミングは誰のアイデアですか?

「ウェスからアイデアはもう出ていて、『どう思う?』って聞かれたときに、そこは彼の想像だからいいのではと」

― そうなんですね。アドバイスが難しい判断はどのあたりでした?

「相談されて一番難しかったのは、ウェスは個人的に調べることが好きなので、実際がどうだったとか、自分が参考にしたモデルのディテールとかをすごく気にするんですけど、同時に、この映画は完全に彼が作ったファンタジーというか想像で、“60年代に、もし日本で未来の映画を作ったとしたら” という時代背景もよくわからないし、レトロフューチャーみたいなところもある。例えば “ロボットはあるけどラーメンは40円” とか、それって『鉄人28号』あたりの世界ですよね。なので、そのバランスを取るのがすごく難しかった」

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― 確かに。

「質問される材料が全部揃っていて、それを吟味して、変えるか変えないかというのを決めたら終了、ということだったらいいんですけど、そのやり取りが結局3年間続いて。自分もどこかウェスの中の物差しだったとは思うけど、その日の気分によって、ファンタジー賛成派の自分とそうじゃない自分がいたりして。ブレちゃうとまずいじゃないですか。あと最初に “大変そう” と思った理由のひとつは、海外の方が日本を舞台にした映画を作ると “時代背景がどうだ、なんとかだ” っていうのが出てくる。でも『犬ヶ島』はドキュメンタリーじゃなくてファンタジー。同時に現実の要素や、完全にウェスの想像もあるし、日本の映画で観た自分の大好きなシーンをオマージュしたいというところもある。それをうまく両立させてあげるために、どうサポートできるのかという難しさもありました」

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― 黒澤明監督や宮崎駿監督の名前が出てきていますよね。そのあたりのオマージュとか?

「シーンだったりアイデアの元だったり、間の取り方とかなんですけどね。監督は海外でよく宮崎監督のことを話していて、例えば “『千と千尋の神隠し』がすごく好きで、あの話はものすごくドラマチックなシーンや伏線がたくさんあるわけじゃないけれど、あの間がすごく良くて、それだけでとても感情移入するから、自分的にはそういう間の取り方に影響を受けた” と言っていましたね」

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“ウェス組”の雰囲気を日本人キャストにも。

― 野村さんは日本人のキャスティングを担当したのですか?

「そうです。メインのキャラクターはセリフが長いし、録り直しもあったので、アメリカ在住の日本人俳優が担当していて、監督がスタジオでそれを録っている時に僕も呼ばれて、その場でまたちょっと言い回しを直したりしていました。その後の日本で録ったキャストに関しては全部僕がキャスティングしましたね」

― どのように決めたのですか?

「ウェスの映画に出演している俳優さんって、みんな互いをちょっと知っていたり、長く働いたりしていて、“ウェス組” というような集まりになっているので、日本でもそういう雰囲気が出せたらいいなと思ったのがひとつ。それと、ひと言くらいしかセリフがないとしても、そこはちょっと面白くしたいと思っていましたね。ウェスと話して『じゃあ、この科学者は何歳でどんな奴にしよう』といったことを全部決めて、その年齢に合う人で、自分が知っていて役に合いそうな人に声を掛けていきました。(村上)虹郎はまだ10代だったので、ヒロシ編集長の声の張りとか若さとかに合うと思って、彼に頼んだり」

― エンドロールを見ていたら、松田龍平さん、松田翔太さん兄弟をはじめ、いろんな方が参加していて豪華ですよね。それを知ってから、もう一度確認を兼ねて観たくなるような。

「日本の映画なのでいろんな人に出て欲しいというのがあったし、『誰がどの声をやっているか』というのを探すくらいの遊びがあってもいいと思って(笑)」

― 吹き替え版のキャスト選びにも関わっているのですか?

「吹き替え版は一切タッチしてないんです。ただ、吹き替え版を作る話を実現させるのにはかなり尽力しました。8歳くらいの子でも観られる映画だと思うけど、情報量がすごく多いので、吹き替えのほうが逆に楽しめるんじゃないかなぁ」

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― 野村さんから、この映画のここを伝えたい!というのはありますか?

「ヴィジュアルとかそういうことに反応される方が多いと思うし、いろんなレイヤーがあって発見することもいろいろあって面白いし、“ストップモーションすごいね” “表情が豊かだね” とか、いろんな見方があるんですけど、実はウェスが一番大事にしているのは物語だと思うので、彼が伝えたかった “犬と男の子の素敵な物語” を楽しんでもらえたら、僕は一番嬉しいですね」

昨今アメリカを中心に、ファッションでも音楽でも映画でもCultural appropriation(文化の盗用、文化の剽窃)という議論が持ち上がることの多い中、日本を舞台としたウェス・アンダーソンの映画に野村訓市が“日本を正しく描くためのコンサルタント”として参加したことは非常に意義のあるものになった。アンダーソン監督の頭の中にあるものをそのまま具現化するような、現実の要素に想像やオマージュも混在した複雑構造のファンタジー映画に、どれが適していて、どう描くのがいいのかなどを判断していくことは本当に難しい。余談ながら、そのようなことを考えながら小林市長を見ていると、チャーミングに思えてくるほどだ。野村訓市へのこのインタビューを読んでから『犬ヶ島』を観ると、さらにこの映画の面白さも凄さも増すだろう。 

『犬ヶ島』
監督:ウェス・アンダーソン
声の出演:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨハンソン、ヨーコ・オノ、ティルダ・スウィントン、野田洋次郎(RADWIMPS)、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ
配給:20世紀フォックス映画
©2018 Twentieth Century Fox
2018年5月25日(金)字幕版/日本語吹き替え版 同時公開
http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/

texte:NATSUMI ITOH

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