【フィガロジャポン35周年企画】 ヴィンテージ家具に囲まれた、パリジェンヌのインテリア術。
Interiors 2025.12.15

アールドゥヴィーヴルへの招待 vol.6
2025年、創刊35周年を迎えたフィガロジャポン。モード、カルチャー、ライフスタイルを軸に、豊かに自由に人生を謳歌するパリジェンヌたちの知恵と工夫を伝え続けてきました。その結晶ともいえるフランスの美学を、さまざまな視点からお届けします。
パリ発のファッションブランド、セザンヌの創業者であるモルガン・セザロリー。ヴィンテージを愛してやまない彼女は、テーブルウェアやランプ、ファブリックなどを扱うライフスタイルブランド、レ・コンポザンの創業者でもある。そんなモルガンのパリ左岸のアパルトマンを訪問。エレガントで温かみのある部屋作りの秘訣とは?

ヴィンテージとアート、パリのエスプリがつまったモルガン・セザロリーのアパルトマン。
モルガン・セザロリー/Morgane Sézalory
パリジェンヌのリアルクローズとして愛されるファッションブランド、セザンヌの創業者。2013年にフランス初のオンラインショップとしてスタートし、2015年にパリ2区に実店舗をオープン。2024年、待望の日本語サイトがオープンし、日本からもオンラインでの購入が可能に。https://www.sezane.com/jp-ja
夫と子ども3人とともに暮らしているモルガン・セザロリーは「人生には、何事においても調和が大切」と話す。家の中にある厳選されたヴィンテージ家具の数々は、個性的でありながら、巧みなバランスで配置されていて、自然とエレガントな調和をもたらしている。
「旅先ではもちろん、ネットやアンティークショップ、クリニャンクールの蚤の市のポールベール・セルペット地区やオークションハウスのドゥルオーなど、ヴィンテージ品は常に探しています。最近もロサンゼルスで購入した古い家具を船便で送ったばかり。私は、家具を買う時は直感で選ぶ派。家のどこに配置するかを前もって考えることもしません。きっと、自宅やショップ、会社のどこかに置けるはずだし、もしどこにも置けなかったとしても、いつかの模様替えに備えて倉庫で保管すればいいから」

リビングにはデスクと書棚が並ぶ側に見事な暖炉が残されている。暖炉の上にはレ・コンポザンの電気ランプとシェード「Tango(タンゴ)」とジョルジュ・ブラックの版画が置かれる。

ローテーブルの上にはお気に入りの花を生けて。
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夫婦の寝室に併設された小さな部屋に置かれたキャビネットもそんな家具のひとつ。
「いつかどこかで主役になるだろうと思って、4~5年の間は会社に置いていましたが、ついに家の中で置き場所を見つけました! 壁紙もこのキャビネットに合わせて探したもの。こうしてすべてがピタッとうまくはまった時は、最高に幸せな気分なんです」

夫婦の寝室。照明と電源が組み込まれたベッドボードはモルガンがデザインし、特注したもの。アントワネット・ポワソンの壁紙のブルーと木の組み合わせが心落ち着く空間を演出する。
モルガンは色彩、量感、素材をバランスよく組み合わせる能力に長けていて、それはセザンヌの成功にはもちろん、ライフスタイルブランド、レ・コンポザンの製品デザインにも生かされている。
「レ・コンポザンはセザンヌの世界観を補完する目的もありますが、何より自分が楽しむために始めたプロジェクト。店や会社、住居、友人の家のインテリアデザインを手がけているうちに、自分が思い描くデザインの照明やクッションなどを自分で作りたくなったんです。さらに、オリジナル以外にも家具や食器、小物などのヴィンテージ品もセレクトしています。『過去と現在の忘れ物』というブランドのキャッチコピーも、レ・コンポザンにぴったりな言葉だと感じています」

ヴィンテージのデスクとノルの椅子の横に置かれた書棚には、アントワネット・ポワソンのボックスや、ジュリー・ジブロ・デュクレイの小さくてカラフルな絵画、ゲノレ・クルクーの彫刻「La Femme(女)」、レ・コンポザンのレターボックスなどがディスプレイされている。
このキャッチコピーは"モダンでありながら懐かしさも感じる"本人のアパルトマンにも通じている。
「私は歴史あるものにいつも魅力を感じます。たとえばキッチンとリビングを隔てている大きなガラス扉。実はもともとダイニングだった場所を現在はキッチンとして使用しているのですが、扉自体がとても美しいのであえてここから撤去しませんでした」
モルガンは既存の要素を生かしながら、部屋のレイアウトを大胆に見直した。暗くて細長く、ダイニングからも離れていたもとのキッチンを夫婦の寝室に組み込み、書斎、バスルーム、ウォークインクローゼット、トイレを併設した場所に生まれ変わらせたのだ。もともとダイニングだった場所はキッチンに改造、食事ができるスペースにした。
「キッチンの設備や機器を隠したかったので奥の壁沿いに大きな木製の棚を置いて、食器をまとめました。グリーンの壁に合うように木製棚の色も吟味し、機能面と美しさを両立させました。私の好きな色はグリーン、ブラウン、ゴールデンブラウン。備え付けの鏡のフレームも壁と同色のグリーンに塗ってシンクの上に据えたり、この3色をあらゆる場所で使って、インテリアの色彩バランスを取っています」

キッチンには家電製品と食器を収納するモルガンがデザインしたオーダーメイドの木製家具がどんと配置される。この上に置かれるのは、レ・コンポザンのキャンドルとボックス、アスティエ・ド・ヴィラットの陶器、ギヨーム・ペルーのアート作品、ヴィンテージのランプ。壁にはヴィンテージのブラケット灯。そして食卓は、ウォーレン・プラットナーがデザインしたノルの椅子、アンティークのテーブル。テーブル上にはアリックス・D・レイニスの食器とレ・コンポザンのピッチャー「Alto(アルト)」

キッチンにはモルガン・セザロリーが明るい日差しを浴びて立っている。
隠し引き出しが仕込まれたモールディングの間仕切り壁、コーナーベンチ、そしてウォーレン・プラットナーがデザインしたKnoll(ノル)のアイコニックなアームチェアがテーブルを囲んでいる。天板と脚が見事な職人技を感じさせるテーブルだ。
「このテーブルは蚤の市で見つけました。かなり大きいので、どこにでも置けるわけではありませんが、この空間にちょうどぴったりだったのです」

カーブのかかったデスクにもミッドセンチュリーなノルの椅子を合わせて。
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リビングも、藁のクッションスツール「Cabana(カバナ)」と、Dedar(デダール)社のファブリックで仕立てたカーテンを組み合わせるなど、ジャンルミックス。
「私はインテリアデザイナーではないので、家具の図面は引けません。でも、ウレタンフォームや段ボールで模型を作って、それをもとに製作してもらうことはできます」と話すが、部屋の中央に配されたローテーブルは、オーダーメイドソファの高さに合わせてモルガンが脚を切りつめたというから驚く。

リビングのローテーブルには、繊細なアンバーの香りが心地よい、レ・コンポザンのキャンドル「Feu de Vie(フー・ド・ヴィ)」が置かれて。
玄関を入ると、使いやすそうで大きな鏡張りのクローゼットが目に飛び込んでくる。
「ずっとここにあったように見えますよね。でもここはただの不便な廊下でした。ちっぽけな中庭に面したステンドグラスの窓があったのはよかったけれど。決断には勇気が要りましたが、窓を諦めてこのクローゼットを置くことにしました。鏡が光を反射して温かな雰囲気をもたらしてくれるし、アーチも作ったので柔らかい印象になりました。家具は服と同じで一緒に暮らすもの。だから、暮らしを快適にしてくれるものでなければならないと思うのです」

入口にあるヴィンテージのついたてが重厚感を醸し出す。モルガンはスタイルや色調、時代をミックスして調和させることが得意。
リノベーションに8カ月もかかったというのに、モルガンは引っ越し作業が終わってしまったことが寂しいと言う。
「今後、"完成"することはありません。私は常に変化させることが好きなんです。いまはとても居心地がいいですが、これで完了とは考えたくなくて。だからコレクションしているアート作品や写真を壁に固定して飾れないのです。いまはただ立て掛けてあるだけ。そうしておけば、いつでも空間を変える楽しみを感じられるから」

ピアノの上にはオランダの画家ブラム・ヴァン・ヴェルデのポスター。

ダイナミックでカラフルなアート作品を飾っても色のトーンが落ち着いているので部屋のムードと調和する。
"調和"に加えて"変化"もまたモルガンの原動力であり、彼女の成功の秘訣なのだろう。現状に満足せず、常に前進する彼女は2027年、パリに約20室のホテルをオープンさせる予定だ。さらにレ・コンポザンのショールームとして400平方メートル以上のスペースもオープン。インテリアデザイナーとしての活躍もヴィンテージの購入も、より一層進化していくことだろう。
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
photography: Matias Indjic (Madame Figaro) text: Vanessa Zocchetti (Madame Figaro)






