思いのこもった主演作が公開! 吉村界人インタビュー。

インタビュー

いま最も注目を集める若手俳優のひとり、吉村界人。2015年に撮影された主演映画『ハッピーアイランド』がついにスクリーンに登場する。本人の強い希望もあって出演が叶ったという本作について、いま思うこととは。

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どんな時代背景においても、吉村界人が演じると、作られた若者像ではなく、「ああ、こんな奴、いるよね」と好き嫌いを越えて、納得させられてしまう。昨年末には、『モリのいる場所』(18年)、『悪魔』(18年)、『サラバ静寂』(18年)、『ビジランテ』(17年)での好演で第10回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞も受賞。そんな彼が15年に参加した渡邉裕也監督の初監督作『ハッピーアイランド』がようやく公開される。

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福島県出身の渡邉裕也監督は自身の祖父を思い、『ハッピーアイランド』を製作。フィクションでありながら、震災後の福島の人たちのリアルな声を伝える。渡邉監督と吉村界人は同世代でもある。

『ハッピーアイランド』は、11年の東日本大震災で起きた福島原発事故の風評被害に悩まされる福島県の農家の葛藤を描いた作品だ。福島県須賀川市出身の渡邉裕也監督が、事故後も黙々と野菜を作り続けていた祖父の姿に喚起されて作った物語。バイト感覚で福島の農家の手伝いにやってきた東京育ちの主人公を通して、吉村界人は何を思って、感じたのか。

心が変わると、自ずと顔も変わってくる。

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――渡邉監督に伺ったところ、製作費は『カメラを止めるな!』(17年)よりもさらに安い250万円、俳優の撮影期間は6日間というタイトなスケジュールで撮られた作品だそうですが、同時に『ハッピーアイランド』には福島県出身者にしか描けない当事者の事情や心情がきちんと描かれていると感じました。吉村さんはこの小さな作品になぜ、出ようと決めたのですか?

渡邉監督とは、僕が出演していた何かの撮影現場で彼が助監督を務めていた時に、「いつか、自分が初監督をする時には出てほしい」という話をした記憶があります。『ハッピーアイランド』は震災によって起きる問題を扱っているんですけど、僕、東京生まれの東京育ちで、小さい時から渋谷にいて、東京の外のことって全然、わからないんですよね。でも、わからない僕が演じることで等身大になるのかな、こういう問題に対して自分は表現することしかできないんだなと思って、それで当時の事務所に強くお願いして、やらせていただきました。

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東京で暮らす真也(吉村)は、飲み屋の店主に勧められ、福島の農家で働き始めるが……。

――吉村さんが演じた真也は東京育ちの23歳で、仕事が長続きせず、相当にチャラい青年で、軽いバイト感覚で福島県の農家の手伝いに行くのだけれど、現地に行くと、どんどん顔が変わっていって、そこがとてもおもしろかったです。

撮影は郡山に近い、須賀川市というところで2月に行われたんですけど、地元の農家の人を演じた萩原聖人さんと実際、包丁を持って、ブロッコリーの収穫の仕事をしてみたんです。すごく寒いし、畑はものすごく広いし、朝5時に起きて、短い時間でどんどん収穫して出荷しなくちゃいけなくて。そういう環境に身を置くことで、お芝居といえども、自分の心が変わるんですよね。心が変わると、やっぱり自ずと顔も変わってきます。僕は核家族で育って、福島の大家族の雰囲気とか、毎晩、家族みんなで一緒にワイワイ言いながらご飯を食べるとか、そういうのとは真逆だったから、それがものすごく温かく感じられた。

あと、当時は震災が起きて3年ぐらい経った後でしたけど、テレビで中継される場所ってすごく被害が大きかったところばかりじゃないですか。でも、撮影が行われたのは内陸部だったから、目立った被害とか、目に見える影響は実はあんまり感じられなかったんです。でも、住んでいる人たちの中には見えない影響や不安があって。

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普段は暗いので、テンションを上げてやっています。

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――映画の中で、真也が村の人たちに、なぜ、風評被害があるのに、野菜を作り続けるのかと、いろいろと問いかける場面がありましたね。実際、あそこは現地の方たちが参加されてやり取りをしたと聞きました。印象に残っていることはありますか?

それはたくさんありました。話した中で、これまで40〜50年、福島から一歩も出たことがない人がいて、僕が東京生まれだと知って「東京っていい場所?」って聞いてこられたんです。「福島に住みたいと思う?」って。僕は、「いや、福島に住みたいとは思わないですね」と答えたんですけど、「なんで? 福島、なんでもあるじゃん」って言われたんですよ。

わずか6日間ですけど、福島に行って実際に寝泊まりしてみると、基本、車がないとどこにも行けないし、僕の泊まっていた家には(携帯電話の)電波が届かなくて、ちょっと歩かないと圏内にならない場所だったんです。それでも、この人は「何でもある」と言っている。「あ、ここまで“豊かさ”の価値観が違うんだな」ってはっと気付いて、自分が乏しい人間なんじゃないかと思いました。僕は東京でこれもあれもあって、Wi-Fiはどこでも通じて、携帯でいつでもSNSを使えて、飯屋も服屋もたくさんあって、それでもまだ物足りないと思う自分がいる。毎日を過ごす中で、俺の方が貧しいな、ここの人たちのほうが心が豊かなんだな、って思いましたね。

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きつい農作業に嫌気がさした真也は、はじめは地元で保育士として働く里紗(大後寿々花)への下心から福島に居残る。

――なるほど。それは吉村さんの実感であると同時に、劇中、真也が抱く実感でもありますよね。映画の中では、彼が自分たちの育てた野菜を他県の人に否定されて、激情に駆られる場面がありましたが、この作品では泣いている場面もすごく多いですよね。

もう、渡邉君(監督)がすごく言うんですよ、泣け泣けって(笑)。彼、すごくカットを割るので、18テイクぐらい泣く時もありました。今日も僕、こんな金髪でパッパラパーな髪型をしていますけど、けっこう真面目で暗いんですよ。真也はウェーイって感じの男の子ですけど、渡邉君に「君がそういう感じじゃなくて暗いのは重々知っているんだけど、頑張ってみんなが思い描いている軽い吉村界人の感じで、普段よりテンション上げてやってくれ」と言われて、そうしているんです。

――吉村さん、普段は暗いんですか?

暗いです。家でも遮光カーテンを閉めて、部屋に閉じこもって、ずっと本を読んでいるタイプです。黒沢清監督の『アカルイミライ』(02年)っていう映画があるじゃないですか、あの映画のオダギリジョーさんみたいに、ずっと家で水槽の中を見ている感じ(笑)。

――ちなみにどんな本を読んでいらっしゃるんですか?

基本、何でも読むんですけど、ここ最近は谷崎潤一郎と三島由紀夫、W村上も好きですね。谷崎でいちばん好きな作品は『痴人の愛』です。

――ナオミですか!

ナオミです(笑)。

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真也は、ボスである正雄(萩原聖人)の農業への誇りに触れるうち、福島と福島の人々を好きになっていく。

――私は一昨年、『モリのいる場所』という映画の撮影現場を取材させていただいた時、吉村さんが樹木希林さんとずっとふたりでおしゃべりされていて、その時、過去の俳優さんについてとても熱心に樹木さんに質問されている姿が印象に残っています。過去の俳優さんや映画についての好奇心が強いんだなと感じたのですが。

興味はありますね。すでに亡くなった方や、もう会えない人のことがすごく気になる。樹木さんのことが好きだったというのもあるし。誤解を招く言い方になるかもしれないけど、僕は同世代の俳優よりも昔の俳優のほうが好きです。信念がある気がして。だから実際に彼らに会ったことがある人に、「実際のところはどうだったんですか?」って聞いています。

――特に会って話をしてみたかった人は?

三國連太郎さん。三船敏郎さんも、どんな佇まいだったのか、その風情を見てみたかった。

――この作品を通して、観客の皆さんに何を伝えたいですか?

正直にぶっちゃけると、やっぱり現地に行かないとわからないことばかりですね。この映画を観たとしても、本質はわからないと思います。肌で感じないと理解できないことがすごくあって、福島に関する映画や、世の中にあふれるいろんな問題を扱った映画を観ても、結局、その時わかったような気になるだけですね。それでも、この映画を観ていただくことで、わずかばかりでも伝わることがあれば、という気持ちはあります。

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ジャケット¥381,500、シャツ¥104,500、パンツ¥190,000/以上アン ドゥムルメステール(Lift étage)

●問い合わせ先:
Lift étage(アン ドゥムルメステール) Tel. 03-3780-0163

Kaito Yoshimura
1993年生まれ、東京都出身。2014年、『ポルトレ PORTRAIT』で映画主演デビュー。以降、多くの映画やTVドラマ、CMに出演。主な近作に、主演作『太陽を掴め』(16年)、『獣道』(17年)、『ビジランテ』(17年)、『モリのいる場所』(18年)、『悪魔』(18年)、『サラバ静寂』(18年)など。
『ハッピーアイランド』
●監督・脚本/渡邉裕也
●出演/吉村界人、大後寿々花、萩原聖人
●2016年、日本映画
●75分
●配給協力/SDP
●3月2日より、ユーロスペース/ユーロライブほか全国にて公開
http://movie-happyisland.com
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