ベルエポックが舞台の美しき冒険譚、『ディリリとパリの時間旅行』

インタビュー

『キリクと魔女』などマジカルな映像で知られるアニメーションの名匠、ミッシェル・オスロ監督。その6年ぶりとなる最新作『ディリリとパリの時間旅行』が日本でも公開される。ペルエポックのきらびやかなパリを舞台に、小さな女の子、ディリリが冒険を繰り広げる奇想天外な物語。時代背景や作品に込めたメッセージについて、オスロ監督に聞いた。

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19世紀末から第一次世界大戦(1914年)が始まるまでの、「ベルエポック(良き時代)」と呼ばれた時代が舞台。ディリリ(左端)はオレル(自転車に乗っている人物)ともに、大冒険を繰り広げる。背景は写真を加工していて、リアルな街のなかでアニメーションが動くという、摩訶不思議な雰囲気を醸し出している。

ニューカレドニアからやって来たディリリは、心優しい青年、オレルを相棒にパリの街へ。「男性支配団」と名乗る犯人たちによる、少女の誘拐事件の真相を追いかけることになる。時間によって表情を変えていくパリの風景は、観る者を華やかな時代へと一瞬にして誘ってくれるかのように美しい。いっぽうで時代を彩った文化人たちが次々と登場して、事件の謎に迫るディリリに手を差し伸べる物語には、監督から世界中の女性たちへのエールが込められている。

――ベルエポックについて綿密にリサーチする中で、新たに発見したことや驚いたことはありますか?

ベルエポックについて興味を持ったきっかけは衣装だったんですが、もちろんいろいろな気づきがありました。調べていくうちにあの時代のパリには多くの天才、そして素晴らしい仕事をした人が集結していたという事実に驚かされました。1900年頃は、著名人の個人情報を公開するガイドブックのようなものもありました。セキュリティ的には問題がありそうですが、一般の人が迷惑をかけることがなかった時代です。

音楽家、画家、彫刻家、作家、哲学者をはじめ、パスツールのような生化学者、先進的かつ自由な発想を持つ物理学者のマリ・キュリー、ブラジル出身で飛行船を発明した(アルベルト・)サントス=デュモン……こうした人たちがいました。当時のパリはイギリスよりも自動車産業が発展していましたし、飛行機を飛ばすのも早かったんです。アメリカのライト兄弟は特許を取ったようですが、フランス人はそこまで秘密主義ではないからか、一般の人も新しいことにトライできる状況でした。飛行機が麦畑に落ちることがあっても住民は挑戦者に親切に場所を開放していて、挑戦者のひとりであるサントス=デュモンも、製図が欲しい人には気前よくあげていたようです。

なぜベルエポックが華やかな時代になったのかを分析して僕が考えついた結論は、言論の自由があったから。新聞、雑誌も自分たちの考えを自由に表現しようという気風に満ちていた時代だったからこそ、華やかな時代になったのだと思います。

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クロード・モネ(左からふたり目)やピエール=オーギュスト・ルノワール(右)など、ベルエポックを彩る芸術家やセレブリティとディリリは出会っていく。名乗らず登場するキャラクターも多く、風貌やシチュエーションから人物を想像する楽しみもある。

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――ディリリはまったく物怖じすることなくパリの街を歩き、多くの天才たちと次々に出会っていく、勇敢で聡明で礼儀正しい女の子ですよね。キャラクターを造形するうえでモデルになった人はいますか?

美しい言葉遣いで行儀のいい子どもは何人か見たことはありますが、何よりも僕自身がディリリのようになりたいという願望がインスピレーションの源です。フランス語がわかる人にはすぐ伝わると思うのですが、ディリリは本当に素晴らしいフランス語を話しています。彼女はニューカレドニアに住んでいた頃にはルイーズ・ミシェル(一時期、ニューカレドニアに流刑されていた革命家、文学者)からフランス語を習い、船の中で伯爵夫人に出会って美しい言葉を耳にしている。だからフランス語の汚い言葉やふざけた言葉を知らないままなんです。

映画がフランスで公開された時、批評家の中には意地悪な見方をする人がいて、「ディリリがあまりにも美しいフランス語を話すから退屈だった」と言われました(笑)。いまのフランスの若者たちの話し方は機関銃のようなので、僕はきちんとしたフランス語を話すべきだと主張しています。ゆっくり話して理解し合えるのが、言葉でのコミュニケーションの真髄だと思っていますから。

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夕暮れ時のエッフェル塔の下で。華やかな時代の華麗な衣装も見どころだ。

――この映画には肌に色や性別によって差別される世界が描かれています。悲しいことに、これは現代と地続きになっているテーマですね。

これはまさに、女性たちを不当に扱う男たちに対抗するために作った映画です。階級を問わず世界中に家庭内暴力、とりわけ男性から女性に対しての暴力があふれている現実があります。戦争で死んでいる人よりも、普通の生活をしながら命を落としている女性や少女たちの数の方が多いんです。そういう女性たちの境遇を聞くと、死んだ方がましなのではないかと思うような仕打ちを受けている人もいます。

私の映画作りは、新作を発表するまで6年ほどかかりますから、それに見合うような“絶対にこれを描きたい”と思えるテーマを見つけることがとても大事です。いまの時代の大きな問題とともに、21世紀の人間のあり方を描いた映画になったと思います。

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――パリの美しい風景は、監督自身が撮影した写真を基に作られているそうですね。写真を加工したリアルなパリを背景に、グラフィカルなキャラクターが生き生きと動くことで、楽しい効果を生んでいるように感じました。

毎回、作画もストーリーもおとぎ話のように軽やかなものを作りたいと思っていますし、実写的な人物よりもデッサンのような人物の方が好みなんです。現実の人間のように動く人物よりも、イラストやデッサンが動いている雰囲気の方が軽やかに感じますよね。テーマはリアルで重い部分もあるので、軽やかなキャラクターを登場させることによってファンタジーの要素を持ち込みたいという思いもあります。

女の子たちがペダルを漕いで飛行船を動かすシーンも、まったくリアルではないですよね。プロペラを回転させるほどの筋肉は、彼女たちにはないでしょうから(笑)。ほかにも、オペラ座の地下にある美しい湖。そんな湖があったらいいな、白鳥の形をした船が下水道に浮かんでいたらいいな……と、想像をふくらませていきました。

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オペラ座の地下にある、宮殿のような水路。白鳥の船に乗っているのは、実在のオペラ歌手、エマ・カルヴェ。

――監督のルーツともいえるアフリカを描いた『キリクと魔女』、中世のイスラムが舞台の『アズールとアスマール』、そして本作の舞台はベルエポックのパリ。次回作の舞台はどこになりそうですか?

異なる時代の3つくらいの物語が入った作品にしたいと思っています。その中には、古代エジプトに存在した黒人のファラオ王朝の物語が入ります。来年11月にルーヴル美術館とのコラボレーションで黒人のファラオについての特別展を予定しているのですが、映画も作りましょうということになりました。分厚い資料がルーヴルから届いているので、興味があるところだけを見ています(笑)。あとは18世紀のトルコの物語を入れて、風景も衣装も今回のパリのように美しく描きたいですね。オリエンタルなテーマを、大好きな影絵で描く作品になりそうです。次回作は6年ではなく2年で撮ろうと決めているので、周りに宣言することで自分にプレッシャーをかけています(笑)。

『ディリリとパリの時間旅行』予告編

 

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Michel Ocelot

コート・ダジュール生まれ。ギニアで幼少時代、フランス西部のアンジェで思春期を過ごす。芸術を勉強した後、独学でアニメーションを学ぶ。プロとしての初短編作品『3人の発明家たち』(1979年)で英国アカデミー賞(BAFTA)を受賞。初の長編作品『キリクと魔女』(1998年、日本公開は2003年)で、世界的に知られるようになる。影絵を用いた作品など短編アニメやテレビアニメを多数制作し、セザール賞をはじめ数多くの賞を受賞。

『ディリリとパリの時間旅行』

監督・脚本/ミッシェル・オスロ
音楽/ガブリエル・ヤレド
声の出演/プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイほか
2018年 フランス・ベルギー・ドイツ映画 94分
配給/チャイルド・フィルム
8月24日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開
https://child-film.com/dilili

© 2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTE FRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS – SENATOR FILM PRODUKTION

texte:MIKA HOSOYA

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