瑞々しい感性が光る、フランス映画界期待の新星が登場!

インタビュー

パリ郊外の団地に母親と幼い妹、弟と暮らすマチューは、幼い頃にふとしたきっかけでピアノに出合う。ある日、駅に置かれた“演奏自由”のピアノを弾いていた彼を見かけた、名門音楽学校コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)のディレクター、ピエールは、その才能に強く惹かれ、彼に本格的なレッスンを受けるように勧める––。

音楽を通して繋がった小さな出会いから、ひとりの青年の人生が開けていく。
『パリに見出されたピアニスト』は、感動的なサクセスストリーであると同時に、リアルなパリを切り取った、魅力的なパリのポートレートともいえる。本作で本格的にスクリーンデビューを果たした新鋭ジュール・ベンシェトリにインタビュー。彼を“見いだした”フランス映画界の俊英、ルドヴィク・バーナードも同席した。

190918-jules-benchetrit-01.jpg

バーナード監督とともに来日したジュール・ベンシェトリ。 photo : TADASHI OKOCHI

音楽は誰にでも、平等に開かれているもの。

――ジュール、この物語はフィクションですが、実話かと思うほどのリアリティがありますね。この脚本を最初に読んだ時には、どう思いましたか。

ジュール・ベンシェトリ(以下、J) 感動的な物語で、心から気に入りました。それぞれのシーンで、ここでこういうふうに演じるんだな、と思い浮かべながら読むことができたんです。これは絶対に成功する、素晴らしい作品だとすぐに思いました。

――バーナード監督が実際に駅で見たピアニストから発想を得たそうですね?

ルドヴィク・バーナード(以下、L) ヨーロッパの大きな駅では、誰でも弾けるようにピアノが置いてあることがよくあります。私が見たのは若い青年で、ショパンのソナタの演奏が素晴らしかった。それを見た時、これは僕がずっと描きたかった音楽についての、それもクラシック音楽についての映画の題材にぴったりだと思ったんです。いままで漠然と作りたいとは思いながら、クラシック音楽をどう扱っていいのか、よくわかりませんでした。いいテーマが見つかったと思いました。おそらくこういう話は、少年や少女たちの身に実際に起こっていることだと思います。そういう意味では、ほとんど実話と言ってもいいくらいです。

190927_pianist_04.jpg

駅に置かれたピアノを弾いていたマチュー(ジュール・ベンシェトリ)を、音楽学校でディレクターを務めるピエール(ランベール・ウィルソン)が発見するところから、物語は始まる。

――ピアノが媒介になったことで、青年の成長物語がとてもロマンティックな物語になりましたね。映画中、あなたはまるで本物のピアニストに見えますが、音楽経験はあったのでしょうか。

J いいえ、まったくありませんでした。楽器は何も弾けないんです。それどころか、この作品に関わるまで、クラシック音楽もほとんど聴いたことはありませんでした。けれど、今回聴いてみて、クラシック音楽をとても好きになりました。

190927_pianist_08.jpg

ある事件をきっかけに、マチューはピエールが務める音楽学校でピアノのレッスンを受けることになるが……。

――映画の中でも、パリの郊外に住んでいるマチューの仲間たちは、ラップを聴いているので、実は、マチューはクラシックピアノをやっているといえない、というシーンがありますね。

J 確かに、低所得者層が多く住む団地などではラップなどの音楽がよく聴かれているとは思います。でも、ラップが好きな若者でも、クラシック音楽の音調とかメロディからインスパイアされて、ラップに取り入れている人もかなりいます。なので、クラシックはそれほど閉じているジャンルだとは思いません。確かに階級によって、音楽の趣味が分かれるという現実もあるかもしれません。でもこの映画では、若い人たちだからこそ、そういうジャンルの垣根を打ち破っていけるということを描いています。ラップが好きでも、シューベルトやベートーヴェンやラフマニノフを、ふとした拍子に発見して好きになることがあるかもしれません。

190927_pianist_05.jpg

ピエールと、“女伯爵”と呼ばれるピアノ教師エリザベス(クリスティン・スコット・トーマス)に見守られ、マチューは次第に変化していく。

――マチューは、裕福ではない階級の出身ですね。いまフランスでは、また階級社会の問題が注目されています。今年のカンヌ国際映画祭で上映された『Les miserables』(原題/2019年)は郊外のボスケを舞台にしていました。また、バーナード監督が助監督を努めたマチュー・カソヴィッツの『憎しみ』(1995年)もパリ郊外を舞台にしていましたね。

L どんな社会でも格差は存在します。教育の面でも。日本はわかりませんが、フランスの場合、たとえば音楽でいうとコンセルヴァトワールは、誰でも入学できるし無償です。でもそのことを若い人たちは知らない。扉は開かれているのです。この映画を通して、そういうことも認知してほしいと思いました。

J 監督にまったく同感です。クラシック音楽を含め、音楽はどんな人にとっても平等に開かれているし、音楽をやるうえで格差はないと思います。今回、マチューというキャラクターについてはリサーチをほとんどしませんでした。が、クラシック音楽についてはたくさんしました。テクニック的なものだけじゃなくて、ピアニストたちがどんな動きをするのかとか。マチューは、冒頭からピアノが天才的にうまいという設定でしたから。

190918-jules-benchetrit-02.jpg

マチューと重なる、静かなオーラと繊細な表情が印象的なジュール。 photo : TADASHI OKOCHI

---fadeinpager---

自分を見守り、引き上げてくれた大人たち。

190927_pianist_06.jpg

もともと望んでいなかったレッスンを促す大人たちに、マチューはときに反抗的な態度を取る。

――毎日4時間のレッスンを3、4カ月続けたそうですね。でも、本来ラフマニノフを弾こうと思ったら、20年以上かかるところを、3、4カ月で、実際に弾いていると信じさせるまでになったのはすごいですね。

J 実は、いまでも全然弾けないんですよ。クランクインしてからは、ほとんど練習できませんでしたし。

――どのピアニストをモデルにしたのでしょうか?

J ヴァレンティーナ・リシッツァというウクライナ出身のピアニストの映像をたくさん観ました。マチューのピアノの弾き方は、ちょっと女性的ということだったので。ピアノのコーチもジェニファー・フィッシュという女性にお願いしました。

――マチューというキャラクターからどんなインスピレーションを得ましたか?

J 僕は、彼に対して思い入れが強いんです。優しく、とてもロマンティックなところがあり、成功をしても人間性は変わらないと思います。これからもピエールと一緒にやっていくだろうし、ガールフレンドとも一緒に暮らすでしょう。

190927_pianist_07.jpg

映画の中でマチューにピアノの指導をするのも、女性のエリザベスだ。

――マチューは、ランベール・ウィルソン演じるピエールとクリスティン・スコット・トーマス演じるピアノのコーチ、エリザベスというふたりの大人に導かれて、才能を開花させます。あなたはいま22歳ですが、自分を引き上げてくれた大人は、周りにはいましたか?

J モハメド・アリ(笑)。それと父親ですね。それに、バーナード監督と出会ってからは、とても影響を受けています。バーナード監督は、自分で何でもできるような、自立したところがある。そこが大好きなんです。この映画の制作過程では、ずっと一緒にいて話もたくさんして、撮影に入ってからもずっとディスカッションしていました。それに彼は映画をすごく愛しているんです。だから映画を作っているんでしょうけれど、そうでない人もいますから(笑)。彼の中には、本物の映画愛があるので、そういう人と一緒に仕事をするのはとても心地よいことです。

――モハメド・アリとは?

J 半分、冗談ですが(笑)、ボクシングが好きで、長い間やっているんですよ。

190918-jules-benchetrit-03.jpg

冗談でこたえるチャーミングな一面も。 photo : TADASHI OKOCHI

――マチューは小さい頃から、ジャックという老人からピアノを教えてもらいますね。あなたの祖父であるジャン=ルイ・トランティニャンは名優ですが、彼もまだ演技を続けています。彼から受けた影響は?

J もちろん、偉大な俳優であるジャン=ルイ・トランティニャンからも多くの影響を受けていますよ。でも、一方で父のサミュエル・ベンシェトリからも、人間としてものすごくインスパイアされています。映画についてはバーナード監督から、人生は父から、ですね。

――本作で本格的にスクリーンデビューしたわけですが、俳優は一生の仕事だと決めたのですか?

J たぶん。俳優は、いろんなアイデンティティを演じられるところがいいですね。父方の祖父が、父にたくさん映画を観せたことで、父は監督になりました。僕も子どもの頃から、映画をたくさん観て、登場人物の真似をしたりして遊んでいたんです。それが根っこにあるんでしょうね。

ジュール・ベンシェトリ Jules Benchetrit
1998年フランス生まれ。フランスを代表する俳優のひとり、ジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に、映画監督のナディーヌ・トランティニャンを祖母に持ち、父は映画監督のサミュエル・ベンシェトリ、母は夭逝のフランス女優マリー・トランティニャン。2011年、父サミュエル・ベンシェトリ監督作品『Chez Gino』(原題)でスクリーンデビュー。本作が長編4作品目であり初主演作となる。
『パリに見出されたピアニスト』
●監督/ルドヴィク・バーナード
●出演/ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、ジュール・ベンシェトリ
●2018年、フランス・ベルギー映画
●106分
●配給/東京テアトル
●9月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開
https://paris-piano.jp
©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

【関連記事】
ヴァンサン・ラコストが演じた、等身大のパリジャン像。

interview et texte : ATSUKO TATSUTA

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。