ボローニャで暮らすワイヤーアーティスト、小林千鶴が語ること。

インタビュー

ふわりと宙に浮かんだ気球やドレス、皿の上の野菜やキノコ……。ワイヤーを使い独自の世界を作る注目のアーティスト、小林千鶴。イタリアの北部、ボローニャに住み、‟森の家”で夫と3人の娘と暮らしながら生まれるワイヤーアート。7月に東京で開催された個展のため来日した小林に、その創造の秘密を聞いた。

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ドレスをワイヤーでファンタジックに表現した。「空間に絵を描く感覚」という小林。

旅先のニューヨークでワイヤーと出合った。

―― 子どもの頃から作ることに興味があったんですか?

ずっと作ることは大好きでしたね。料理をしたり、縫物をしたり……。ワイヤーで作り始めたのは、13歳の時です。

―― 13歳の時にどんなきっかけが?

当時、父の転勤でアメリカのカリフォルニアに住んでいました。ニューヨークのホイットニー美術館で、アレクサンダー・カルダーの作品と出合ったんです。ワイヤーや木の破片などさまざまな素材を使い、サーカスを再現した作品です。それを見て感動して、すぐにワイヤーやペンチを買って、旅行中に作り始めたんです。それが最初ですね。

―― カルダーの作品を見て、何か閃いたんですか?

何でしょうね。素敵、これなら作れるかも、と思ったのかも(笑)。当時作ったもので、いまでも残っているものがあるんです。ジャン=ポール・ゴルチエのトルソー形の香水。あの瓶の形をワイヤーで作って和紙を張り、照明を入れたんですよ。

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華奢な印象の小林。ワイヤーとペンチを日常的に使うので、手のひらはごつごつとしていた。

―― その後、アーティストの道へ進んでいくんですね?

大学は、武蔵野美術大学で金属工芸を専攻しました。でも、この道で食べていけると思わなかったんです。卒業後はコール ハーンに勤め、その後PR会社で、ピエール・ガニェールの日本での立ち上げを担当しました。30歳を前にして、やっぱり何か作りたくなって、1年間海外に行かせてくれって両親を説得し、イタリアに行ったんです。

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羽根が飾られた椅子やピアノ、気球など、約50点が飾られた個展会場。

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きっかけはアペリティフ?

―― 2008年から始まったイタリアでの生活。どんなスタートだったんですか?

最初の1年間は、学生ビザを取り、デザイナーのところで4カ月、研修をしたんです。仕事帰りにアペリティフに行くんですよ。語学もそこで覚えましたね。ボローニャに行った初日にバールに行き、いまの夫に会ったんです。夫は「会った瞬間にこの子と家庭を築きたい」と思ったそうです(笑)。

―― 運命的な出会いですね。イタリアでワイヤーアーティストとして活躍する、最初のきっかけは何ですか?

アペリティフに行くと、オステリア(イタリアの居酒屋)のテーブルの上に紙が置かれるんです。その紙に出会った人の似顔絵を描いたりしていたんです。似顔絵をワイヤーで立体にしたら「ワインを扱う店、エノテカで展示しない?」って言われて……。それから、ブティックやホテルなど、口コミで少しずつ広がっていきました。ボローニャの高級ホテルの12部屋を飾りたいって依頼され、ベッドのヘッドボードに飾るドレスなどを作ったんです。

―― アーティストとしてやっていけると手ごたえを感じた作品はありますか?

ブティックでのインスタレーションですね。子どもと大人の洋服を作っているブティックだったんですが、「不思議の国のアリス」をテーマに展示をしたんです。耳をケージの形に作り、たくさん吊るしたんです。その下に洋服を飾ったり、頭を入れられるようにしました。このコラボレートがおもしろかったんです。「SINME」のドレスをモチーフに制作しましたし、コラボレーションは、ふくらませていきたいテーマです。

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女優の板谷由夏がディレクションする、「SINME」のブラウスをかたどったもの。風をはらんだようなボリュームブラウスに鳥が飛ぶ。

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モチーフは、「SINME」のロマンティックなレースドレス。裾にワイヤーで花を満開に咲かせた。

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森の家、夫と3人の娘とロバとヤギ。

―― 生活されているボローニャは、どんな街ですか?

イタリアで最古の大学があり、学生も多いんです。街の端から端まで自転車で15分くらい。ちょっと外に出ると、角で友達にあったり、なじみの店があったり、オープンな雰囲気ですね。

―― キノコや野菜やモチーフになった作品は、ボローニャの自然から着想を得たものですか?

ふだんはボローニャの旧市街で暮らしているんですが、30キロほど離れた郊外の丘の上に、‟森の家”があるんです。森の家は1000平方メートル、森は7ヘクタールくらいあって、季節感があるんですよ。咲くものも実るものもたくさんあって、グラデーションが本当にきれい。森にポルチーニ茸やカラカサ茸が生えるので、キノコ狩りに行くんです。いまはワイルドプラムが食べきれないほど実っています。イタリアの桜の木は、サクランボがなるので、木に登って食べたり……。摘み草料理もするので、かごを持って草を摘みに出かけたりしますね。

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皿の上にのった野菜や、キノコ。すくすく伸びる植物。ボローニャでの豊かな暮らしが作品に反映される。

―― ボローニャの森の家では、ロバとヤギも飼われているとか?

ロバもヤギも夫からの誕生日プレゼントだったんです(笑)。ロバをもらった時は、柵がなかったので、「ロバ逃げるよね、どうするの?」って(笑)。時々、ロバが逃げて、何回か通報されました。ロバって頑固だけど、利口なんですよ。

―― 3人の娘さんの子育てをしながら、制作活動をするのは大変ですか?

子どもと一緒に早めに寝て、普段は4時から5時、忙しい時は2時か3時くらいに起きて、そこからずっと制作することも。寝る時間がなくても、達成感があるんですよね。女性はマルチタスクができますから(笑)。なんとかなるものですよね。

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木馬をモチーフにした作品。5人家族の暮らしから作品が生まれる。

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シャクヤクのランプシェード。2.8ミリの太いワイヤーを使って制作。

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空間に絵を描く感覚で。

―― どんな風にオーダーされることが多いんですか?

ここに空間があるから作って、とか。イタリアは空間が多いんですよ。大きく考えるから作品もどんどん大きくなっていきますね。土足だし、手すりなど金属のものも多い。錆びてもそんなに気にならないし。

―― 作品を作る時は、最初に下絵やイラストを描いて制作を始めるんですか?

オーダーメイドのものは別ですけれど、何も描かずに、すぐにワイヤーで作り始めますね。ドレスだとだいたい1週間くらいです。

―― 今日の個展で、白い壁に描かれた絵のように見えた作品がありました。何か作品を制作する際に、意識されていることはありますか?

空間に絵を描くような感覚なんですよ。なるだけ少ない線で、立体感を出していくんです。だから、ボリュームがあるものを作っても圧迫感がない。あるようなないような感じで、どんな風に飾られるかによって、見え方が変わってくるんです。だからこそおもしろいですね。

―― 手元に残しておきたいと思う作品はありますか?

大きな作品だと、1体目はアーカイブとして残しておきます。最初は、ワイヤーを足し算したり引き算したりしながら、試行錯誤をして作るんです。クジラのしっぽが小さくなったりして、完璧な形ではないんですが、それが愛着が湧いていい。その時に聴いていた音楽とか、よく覚えていますね。

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白い壁に映りこむ、影も作品の一部。

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気球やピアノが、影とともに白い壁に映し出され、幻想的に。

―― これからどんなものを作っていきたいですか?

お店に並ぶものより、パーソナルなものを作るのが好きなんです。たとえば、ファミリーツリー。家族のストーリーを聞いて、それを絵にし、壁掛けの木の形にするんです。木のいちばん下が、ふたりの出会い、それから結婚し、子どもたちの趣味や、飼っていた犬……、いろいろな話を聞いて立体化するんです。その中に、その人のお気に入りの歌のフレーズや、心に響く言葉を入れるのが好き。そうすると、作品がその人のものになるから。そんなパーソナルなものを作っていきたいですね。

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小林千鶴
イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで製作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、2014年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。10月よりmadameFIGARO.jpにてボローニャの生活を綴るブログがスタート。

photos:YUSUKE ABE (YARD), texte:MAKI SHIBATA

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