attitude クリエイターの言葉

神戸の廃ビルを使ったアートが、人と空間の関係を問う。

インタビュー

日常に潜む非現実的空間を、アートであぶり出す。

グレゴール・シュナイダー|アーティスト

1911xx-attitude1-01.jpg

過去を消すように一面真っ白に塗り潰された壁と廊下、扉にはバイオハザードの標識が掲げられ、屋上には動物の檻……直視できない想像を掻き立てるのは、閉鎖された旧兵庫県立健康生活科学研究所の廃墟ビル。『消えた現実』と題されたこの作品を生み出したのは、第49回ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を当時史上最年少で受賞したドイツ出身のグレゴール・シュナイダー。神戸で開催中の『アート・プロジェクトKOBE2019:TRANS- 』の『美術館の終焉─12の道行き』シリーズのひとつとして展示されている。

人と空間の関係性を問う作品を一貫して創り続けているシュナイダーは「ひとつの街にこれほど長く関わったのは初めて」と、足掛け1年半の神戸との取り組みから、過去の代表作を含めた12作品を作り上げた。

「自分を取り巻く周りの外界すべてを知り得たいと思っても、それは不可能だ。僕が外界を“第二の皮膚”と呼ぶように、自分の皮膚すべてを見ることができないのと同じ。それでも人は描いたり撮ることで知ろうと試みるが、僕は空間を模倣や再現することで、それをやりたいんだ」

彼の処女作で代表作でもある『家 u r』(1985年〜現在)では、両親の所有する空き家の部屋の中にまったく同じ部屋を複製した。ほかにも残虐な拷問で悪名高いアメリカ軍のグアンタナモ収容所を再現した『白の拷問』(2005 年)やイスラム教徒の聖地カアバ神殿を模した『キューブ』(05年)など、いずれも謎と矛盾に満ちた世界に迫るための装置だ。「作っていく過程で理解できることもあるし、何度複製しても、初めて見たと感じる時もある」

人は見ているようで、何も見ていないもの。

模倣するのは、目に見える物質的なものだけではない。堆積された過去の記憶や感情、空気の手触りも含まれ、よりフィジカルに直截的に鑑賞者の感覚に訴えかけてくる。

シュナイダーの作品は、日常に潜む非現実空間とよく評される。

「人は見ているようで、実は何も見ていないもの。引きこもりは社会問題だけれど、隔絶してるのは個人の空間だけでなく、公共の施設にもある。街中にありながら、内部ではウイルスの研究で生物実験していても誰も気にも留めてなかったように」

六本木のワコウ・ワークス・オブ・アートでは、ナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスの生家の作品を展示。戦後、世間と断絶しながら存在し続けた家のプロジェクトは、私たちにあらためて視ることの意味を問う。

Gregor Schneider/グレゴール・シュナイダー

1969年、ドイツ・メンヒェングラートバッハ地方ライト生まれ。12歳から作品を制作し始め、16歳で初個展を開催。ドイツの美術大学で学んだ後、国際的な注目を浴びる。『瀬戸内国際芸術祭2019』にも作品が展示されている。

1911xx-attitude1-02.jpg

神戸のアートプロジェクトは、やなぎみわとの異色のコラボ。六本木の個展では、ナチスの国民啓蒙宣伝大臣の家を題材にインスタレーションで構成。『アート・プロジェクト KOBE 2019:TRANS- 』は神戸市内3エリアにて11月10日まで開催中。『SUPPE AUSLÖFFELN けりを付ける(スープを飲み干す)』は、六本木のワコウ・ワークス・オブ・アートにて11月9日まで開催中。

【関連記事】
ミラノを驚かせたデザインが、大阪の街に集結!
サウンドとヴィジュアルが五感を揺さぶる、黒瀧節也の初個展。

*「フィガロジャポン」2019年12月号より抜粋

interview et texte : AKIKO WAKIMOTO

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。