白石和彌監督と松岡茉優が語る、『ひとよ』と家族のこと。

インタビュー

ある日、母は重大な事件を起こし、子どもたちのもとを去った。その“ひとよ”の出来事によって運命を変えられ、もがきながら大人になった3人の子どもの前に、15年ぶりに母が帰ってくるーー。

原作は、桑原裕子率いる劇団KAKUTAの同名舞台。母役には大女優・田中裕子、子どもたちに鈴木亮平、佐藤健、松岡茉優。脇を固める佐々木蔵之介、筒井真理子ら共演陣に至るまで主役級の名優を束ね、『孤狼の血』の白石和彌監督が15年前の事件に囚われた家族の物語を描いた新作映画『ひとよ』。今年も『麻雀放浪記2020』『凪待ち』そして本作と乗りに乗る白石監督と、20代演技派No.1の呼び声高い松岡茉優の掛け合いも楽しい対談をお届けする。

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15年前に起こった“ひとよ”の出来事により、家族の人生が激変。音信不通となっていた母が突然、三兄妹のもとに帰ってくるところから物語が始まる。

白石 家族の絆と言われても、僕には複雑な思いがあって、血縁の家族をテーマにしたものから逃げていたというか、ずっと疑似家族を描いてきたんです。でも長谷川晴彦プロデューサーが、どうしてもこれをやりたいと話をくれて、ひとつ前に進むためにもやっておかないとなと思ったんです。

松岡 映画監督として、やっておかないとな、なんですか?

白石 僕と弟は母に育てられたんですが、僕が上京している間に弟が音信不通になって。それで母の葬式にも呼べなかったり。その後、弟と再会して話もするようになったけど、子どもの頃の兄弟にはもう戻れない。そういう久々に会った感じの距離感、気まずさとかは映画ににじみ出ているかなと思いますけど。現場でも感じましたか。

松岡 ええ、ええ、そういう感じ出してらっしゃいました(笑)。

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左から、稲村家の次男・雄二を演じる佐藤健、長女の園子を演じる松岡茉優、長男の大樹を演じる鈴木亮平。

――松岡さんが演じたのは、悩める兄弟と15年ぶりに帰ってきた母との間に立ち、双方を気遣う園子役。男兄弟に比べ、自分の心の傷は語りませんが、松岡さんの演技によって園子の心の傷が浮かび上がり、とても切なくなりました。

白石 そう、園子の傷って実はあまり映画の中で描いていないんだけど、所々に垣間見られて、そこに気付き出すと彼女を見つめているのがつらくなりますよね。

松岡 スピンオフですね。ありがとうございます!(笑)

白石 松岡さんには、悲しみを持ちながらもポジティブに生きている感じを表現してもらえるだろうと期待していたんですが、想像以上でした。あと、このこじれた家族の潤滑油になってくれたというか、いろんな部分で松岡さんに助けられた現場でした。

松岡 いやー、恐縮です。

――具体的にどのような部分で助けられたのですか。

白石 いくら彼らが役者として入り込んでいても、ちゃんと兄妹に見えるかなと不安に感じることもあって。でも、お墓での(鈴木)亮平君と松岡さんのシーンの1発目から、松岡さんが兄妹であるリアリティとか空気感を作ってくれて。やっぱり役者ってすげぇなと思った瞬間でしたね。

松岡 クランクインの日ですね。うれしいです(笑)。でも昨日、母とお茶していた時、『ひとよ』のプレスを読みながら「どうして茉優ちゃんには物悲しい役しか来ないの? 私のせい?」って母が(笑)。母のこと大好きだし、「違うよ、違うよ、違うよ」って言いながら、確かにあまりハッピー、ラッキーな役はやってこなかったかもと。

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『ひとよ』現場での白石和彌監督。

白石 試写で観た方からも「松岡茉優、やっぱすさまじいですね」っていう意見がけっこう多いんですよ。

松岡 恐縮です。園子って、考えてみたら私が演じてこなかった役回りだったんですが、出来上がった作品を見て、「私がいちばん得意なのはこれかも」って。『ひとよ』は、ある種ちょっと職人さんみたいな感じで「このうつわ、作りてぇな」というか、台本を読んでワクワクして、この役やってみたいと思ったんです。で、完成作を観た後に、本当に出演させてもらってありがとうございましたって思いました。本当にラッキーでした。

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田中裕子さんが私たちを引き上げてくれた。

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三兄妹を守るために罪を背負うことを決めた母親こはる役を、田中裕子が圧倒的な存在感で演じている。

――母を演じる田中裕子さんとの共演はいかがでしたか?

松岡 一生のうちで田中裕子さんの娘役になれるなんて思ってもみなかったことだったので、うれしかったですね。

実は今回、私、初めて完成作を観て落ち込まなかったんです。いつも「退場! やめてしまえ!」って思うんですけど、初めて思わなかった。佐藤さん、鈴木さんのおふたりとも先輩だから失礼な言い方になっちゃうかもしれませんが、3人ともがいままででいちばんよかったのではないかなって。それは、田中裕子さんが私たちを一段違うレベルまで引っ張り上げてくれたからだと思うんです。監督どうでしょうか。

白石 ほんとにそう思います。それは監督としても一緒ですから。今回のことは、ここからの財産になっていくだろうなと思います。

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久しぶりに揃った3人がバーで語らうシーンを見守る白石監督(左)。

――松岡さんと田中裕子さんの新旧の女優対決はスリルもありましたね。

松岡 私と比べてくださるんですか? でも、天秤、ガショーンって傾きます! ただ今回、私はアタッカーよりレシーバー向きなんだと気付いたんです。たとえば「(佐藤健演じる)雄二はこう来そうだから、じゃあ私がこうしたらやりやすいかも」って、自分の役の追求よりも、ほかの人が「こう来るだろうから、こうしよう」って考えるほうが私は多い。感覚的に。でも、田中さんは「こう来るかな」って想像しても、毎シーン、どのパターンにも当てはまらないんですよ!

白石 ああ、それはわかる。

松岡 だから想定内だったお芝居はひとつもなくて。予想外すぎて、キャストだけじゃなくて現場もちょっとざわつくような。「そうなりますか?」っていうことが本当に多々あって。多々というか、全シーン。しかも奇をてらったとかそんなことではなくて、「あ、そうなの!? となると?」って、ものすごい餌をもらった魚みたいに、「あ、じゃあこうしてみようかな」みたいな欲が出てくる。常にワクワク、毎回新鮮なんです。だから、監督も予想と違うことが多かったと思うので、どうやって物語の枠組みの軸がブレないようにしたんだろうって気になっていました。

白石 確かに松岡さんが言うとおり、裕子さんって毎回「ああ、そう来るんだ!」ってなるんだけど、じゃあ大枠から外れているか、トリッキーかというと、そうでもなくて、よくよく考えたらスタンダードかもねっていう。なので、僕の目指しているいいところにはちゃんと居てくれるんです。

――シリアスなドラマの中に、田中裕子さんが時々挟み込むちょっとコミカルなシーンがありますが、あれは……。

松岡 あれ、台本では全然コミカルじゃないんですよ。現場で、こっちがビックリします。笑えないのに笑っちゃう(笑)。

白石 まあまあ直球を投げてきたな、みたいな感じ。

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緊迫したシーンの中でも、田中裕子の細やかな演技が作り出すこはるの人柄と“母性”が感じられる。

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家族にゴロゴロしたものを抱える、すべての人に。

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3人のふとした仕草や佇まいから、兄妹らしさが生き生きと伝わる。

―――芝居のうえでもワクワク楽しかったこの映画を、どんな方に届けたいですか。

松岡 何となく家族に、あまり色鮮やかでない思いを抱えている人が観て、許されてほしいと思って。私の中にもフワッ、フワッと家族ということは浮上してくるけれど、TV番組「しあわせ家族計画」みたいな家族ラブなんてないから、いいんだよって。家族について、何かゴロゴロしたものを抱えている人たちみんなに観てほしい。

白石 確かにそうかも。訳ありであればあるほど響く映画。

松岡 そうそう。ピンときた方はこちらまで(笑)。

――白石監督作は男優たちがこぞって出演したがることで有名ですが、蒼井優さん主演の『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)では女性の物語も語れるところを証明しました。今後、松岡さんとまた組んで女性主演の映画の企画は?

白石 女殺し屋とか。

松岡 主演は嫌です(笑)。レシーバーでいさせてください。今回、「白石組に来たぞ」っていう私の精一杯のハードボイルド演技は、ケンカしてるシーンでタバコを捨てるところ。私の『孤狼の血』をぜひ観てほしいです!

白石 あと、女囚ものとかもいけそう。

松岡 やりたい!

白石 いつかやりましょう(笑)。

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白石和彌 Kazuya Shiraishi
1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映画塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、数々の作品で助監督を務め、2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編デビュー。13年、ノンフィクションベストセラーを原作とした映画『凶悪』が第38回報知映画賞監督賞など各映画賞を総なめして一躍脚光を浴びる。以降も手がけた作品が毎年のように賞レースを席巻、6年間で60以上もの受賞を果たす。主な監督作品に『日本で一番悪い奴ら』(16年)、『孤狼の血』(18年)、『止められるか、俺たちを』(18年)、『麻雀放浪記2020』(19年)、『凪待ち』(19年)など。


松岡茉優 Mayu Matsuoka
1995年生まれ、東京都出身。2008年に本格デビューし、『桐島、部活やめるってよ』(12年)、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13年)などで注目を集める。映画初主演作『勝手にふるえてろ』(17年)では第30回東京国際映画祭東京ジェムストーン賞・観客賞の2冠獲得。第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した『万引き家族』(18年)では自身も第42回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。主演作『蜜蜂と遠雷』(19年)が公開中。
 

『ひとよ』
●監督/白石和彌
●出演/佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介、田中裕子
●2019年、日本映画
●123分
●配給/日活
11月8日(金)より、全国にて公開
https://hitoyo-movie.jp
© 2019「ひとよ」製作委員会

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interview et texte : REIKO KUBO

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