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ポン・ジュノ監督が語る、世界が共感した「恐怖」とは。
インタビュー
ブラックユーモアで格差を斬り、カンヌの最高峰に輝く。
ポン・ジュノ|映画監督
『パラサイト 半地下の家族』で今年のカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督。ハリウッドスターの競演も話題となった『スノーピアサー』(2013年)やNetflixオリジナル『オクジャ/okja』(17年)など、海外での製作を経て10年ぶりに母国で撮った本作は、実力派監督が揃う韓国映画界でも初のパルムドール受賞という快挙となった。
低所得者層の一家が富裕層の一家に雇われることから、物語は始まる。格差社会を揶揄するブラックユーモアたっぷりだが、後半は驚くような展開に発展。その予想がつかない見事な脚本こそが、本作の命だ。
「構想を練り始めたのは13年で、3、4年かけて頭の中で熟成させた。15年にはあらすじを製作会社に提出して、貧しい一家が金持ちの一家に侵入していくという骨格はすでにあったんだ。でも後半を考えたのは、17年に脚本が出来上がる最後の3カ月間。後半の展開の鍵となるアイデアが閃いたのは車を運転している時で、いまでもiPadに興奮して書き殴ったメモが残っているよ」
“貧富の差”というテーマは珍しくないが、本作はその先の資本主義社会の暗部に一歩も二歩も踏み込む。邦題に副題としてつけられた“半地下の家族”は、それを見事に言い表しているといえるだろう。
「ソン・ガンホ演じるキム・ギテク一家が暮らすのは半地下の家。窓はあるけど、そこから見えるのは人の足や車のタイヤ。町を消毒するガスが入ってきたり、大雨の洪水になれば汚水に浸る。一日の何時間かは日も当たるし、地上で暮らしていると思えるだろう。でも一歩間違えば、地下に落ちてしまう恐怖に苛まれる」
世界の人々が共感する、他人事ではない“恐怖”。
思えば、今年公開されたヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『ジョーカー』やジョーダン・ピール監督の大ヒット『アス』は、社会の低辺に生きる者の逆襲という共通項があり、地下に葬られ社会から忘れ去られるという恐怖が根底にある。
「恐怖とは、今日の格差社会を描くうえで重要な要素。本作の初期タイトルは、『デカルコマニー』だったんだ。『アス』の予告編を見ていたらデカルコマニー(合わせ絵)の描写があって、確かに共通点があると思った」
後半の意表をつく展開は作品を楽しむために明かさないでほしいというが、実際に真っ白な状態で観るべきであることは間違いない。アカデミー賞ノミネートも確実視される現在。更なるサプライズを期待したい。
1969年、大韓民国生まれ。延世大学卒業後、映画制作を学び、『ほえる犬は噛まない』(2000年)で長編監督デビュー。代表作に、実在の事件を題材にした『殺人の追憶』(03年)、メガヒット作『グエムルー漢江の怪物ー』(06年)など。
父を筆頭に誰も定職を持たず、半地下でその日暮らしの貧しい生活をおくるキム一家。ある日、長男のギウが、IT企業の社長であるパク氏の娘の家庭教師に採用される。それを機に、キム一家はパク一家の豪邸に足を踏み入れていく。ブラックなユーモア満載の社会派サスペンス。『パラサイト 半地下の家族』は、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて2020年1月10日より公開。
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*「フィガロジャポン」2020年2月号より抜粋
interview et texte : ATSUKO TATSUTA