最新アルバム『EYES』について、WONKの4人が語る。

インタビュー

昨今は自らレーベルを立ち上げて活動するバンドは珍しくなくなってきた。そのなかでもWONK(ウォンク)は最初から英語の歌詞で歌って早くから海外ツアーを行い、また自らのレーベル「EPISTROPH(エピストロフ)」を立ち上げてから海外のレーベルと契約するなど、その活動には目を見張るものがある。もちろん忘れてならないのは、個々の活動も盛んで、その向上心の高い4人の才能が楽曲に詰まっていることだ。最新アルバム『EYES』は近未来的映画を想起させるような、全22曲に及ぶストーリーテリングの大作となった。

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左から、荒田洸(Dr, Sound Prog)、長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Piano, Key & Synth)、井上幹(Ba, Gt, Synth & SE)。

偶然にも、いまの世相を反映した内容に。

――前回、EPの『Moon Dance』発売時に取材した時は、すでにこのコンセプトアルバム『EYES』のことが念頭にあり、それゆえ『Moon Dance』はそのアルバムのトレイラー的な作品であるというお話でした。もう一度、コンセプトについて聞かせてください。

荒田洸(以下荒田) さまざまな価値観が交差する現代社会に向けたコンセプトアルバムです。SNSの普及で多くの人が自分の価値観を共有できるようになった昨今、自分が親しいコミュニティや自分に都合のよい情報で周りが塗り固められている状況が多くなってきているように感じられて。でも、自分の価値観とは合わないように思えるものも自らの人生においてきっと何かしらの糧となるはずで。さまざまな“EYES”を受け入れて、人生を通して考え続けることの意味を提示し、聴き手になにかしらのアクションが起きることを望んで制作しました。

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荒田洸 Hikaru Arata(Dr, Sound Prog.)
WONKのリーダー。ソロ活動のほか、浪人アーケストラにも所属。ラッパー唾奇(つばき)のサウンドプロデュース、レーベルEPISTROPHのkiki vivi lilyなどのプロデュース、Charaとのコラボなどでも活躍。

――発表前にシングル「Signal」「HEROISM」をリリースしていますが、アルバム制作はスムーズに進みましたか?

井上幹(以下井上) 曲先行ではなく、ストーリー先行だったので、ストーリーを組んでから、それを分割して曲にして嵌めていきました。構想が最初にあったので曲を作るのは大変でしたけど、流れ的にはわりとスムーズに進んだと思います。

――歌詞でそのストーリーの世界観は描きやすかったですか?

長塚健斗(以下長塚) そうですね、書くことが大枠では決まっていたので。

江﨑文武(以下江﨑 僕らは、もともとひとりが作詞作曲をするバンドではないので。今回初めて共通するテーマとアルバム全景で描くことというのを明確に決めたので、そういった意味で下書きがしっかりある状態で、曲作りおよび作詞作りに臨めたかなという感じがありますね。

WONK「HEROISM」

――新型コロナウイルスの影響はありました?

荒田 根幹ではなくて、制作のところではありましたね。いつもはみんなが立ち会っている長塚のボーカル録りに立ち会わないとか。

江﨑 楽曲の下地は感染拡大が問題になる前に出来上がっていました。

長塚 歌詞にしても、自分はそこに関して意識して書いたってことはあまりないですね。それより楽曲ごとの場面で起こるというか、芽生えてくる主人公の心情のほうを大事にしていました。それを書いてからコロナとかSNS上で起きていることとかに繋がった部分があった、みたいな、そういう感じです。

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長塚健斗 Kento Nagatsuka(Vo)
個人として冨田ラボやKing Gnuなどに参加するほか、ビストロ料理を中心にシェフとしての腕前も一流で、商品開発やイベントを開催。EPIST
ROPHではオリジナルブレンドコーヒーやフレグランスのプロデュースも。

――ただ、歌詞を見ていると、現状ととてもリンクする箇所が多くて。主人公を描くにしても、ボーカリストの言葉としてもメッセージをきちんと出さないといけないということでプレッシャーもあったのでは?

長塚 今作の作詞に関しては自分が書いてそれがそのまま出るというよりは、 この曲ではこれを言おうとして書いたということに関して3人からフィードバックがあったので、難易度的な意味で書く難しさはあったんですけど、表現に対してプレッシャーというのはあまりなかったですね。

――みんなで歌詞の考案に時間をかけたのはどの曲ですか?

井上 「Rollin’」ですね。この曲は、主人公が見ている世界の描写のようなところがあって、「こういうシステムはこの世界にないよね」とか、「これはこの世界にあるから入れたい」とか、そういう話はみんなでけっこうしましたね。

――すごくカッコいい曲ですよね。最初にこのアルバムを聴いていたら、この曲で掴まれてしまい、10回聴いてから次の曲へ行きました。

全員 (笑)

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井上幹 Kan Inoue(Ba, Gt, Synth & SE
作曲・編曲のほか、レコーディングやエンジニアを務める。ベース演奏のほか、レコーディング・ミキシングでも多々活躍。そのほか、ゲームのSE/BGM制作やサウンドデザインも行っている。

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余白を持たせ、問いを立てたアルバム。

――それ以外の曲では?

江﨑 全体的に今回脚本を監修したのが井上だったので、歌詞に関する言及は井上がいちばん多かったのですが、歌詞の中で脚本を描ききらないようにするというか、歌詞に余白を持たせるみたいなことは俎上に上がっていました。そこまで言ってしまうと、リスナー側が想像を働かせる幅がないから、「もう少し抽象的な表現に変えよう」とか、そういう話はしていました。

――確かに。

江﨑 アルバムタイトルの話にも繋がってきますけど、このアルバムはもっと社会学的な現象なども取り扱っているため、タイトルをもう少し僕らが抱えている問題にフォーカスして付けることもできたんです。でも、『EYES』というかなり抽象的な、いろんな意味で捉えられることができる言葉を据えたのは、聴き手に対する僕らのメッセージ性もあると言えども、僕らから伝えたいことは必ずしも一方向から見たものではないということをどの曲でも提示したくて。そのために工夫したというのが、すべての曲に共通していることかもしれない。

――曲が先にできているとわかっていても、歌の内容がいまの世相にとても関わっているので、深く思い入れて聴いてしまうんですよね。

 

WONK「Rollin’」

井上 「Rollin’」もものすごく反響がありました。いまの世相を反映しすぎているからなのか、みんな思うところがあるみたいで。たまたま同期してしまった感じですね。

荒田 余白を残すっていうのはいいね。人によって感じ方が違うし、そこから人々が思うことがあるだろうし。アルバム全体として「考え続けることが大切」ということは言いたくて、僕ら作る側としても作りながら考えるきっかけにもなったし、受け手側の人たちも聴いて「Rollin’」のような感じで何か考えて、思考停止に陥らないでいてくれたらいいなと思います。

江﨑 バンドの楽曲には、たとえば「世界を平和にしよう」というようなメッセージを持っているようなものが多いと思うんですけど、僕らの今回の作品でやりたかったことは、たとえるなら「世界を平和にするにはどうしたらいいのか?」という問いかけに近い。問いを立てるアルバムになるように、その工夫にいちばん手がかかった気がします。

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江﨑文武 Ayatake Ezaki(Piano, Key & Synth
個人としてKing Gnuやmillennium paradeなどに参加するほか、作曲家・プロデューサーとしてNaz、birdらに楽曲提供。映画『なつやすみの巨匠』(2015年)では音楽監督を担当。EPISTROPHではデザインを担当し、各種グラフィックを手がける。

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Charaや香取慎吾、m-floなどともコラボする実績。

――WONKの音楽はブラックミュージックの昇華型だとたとえられることがありますが、“日本人だからできるブラックミュージック”みたいな意識はありますか? たとえば料理だったら、日本人は幕の内弁当みたいに器用にいろんなものを入れたり、きれいにパッケージできますよね。

長塚 ブラックミュージックというものを、僕らは好きであるけれど何かを背負ってはいないんですよね。本場のアメリカでR&Bソウルを昔から歌っている人やゴスペルをやっている人、ラップをやっている人って、自分の人生を背負ってそれを出している。その音楽形式がたまたまそのスタイルだったということがあるんですけど、僕らは音楽的側面や背負っているカッコよさなどもリスナーとして消費していますけど、どちらかというとWONKはその音楽的なおもしろさに着目している姿勢があるなと思いますね。

井上 幕の内弁当と言われてハッとしたんですけど、そういうことだと思うんです。こっちにはフレンチがあって、こっちにはイタリアンがあって、でも総体としてはおいしいし、作った人の気持ちがこもっているみたいな。僕らって、いわゆるソウルミュージックでも音楽的に“ここがおもしろい”というところを使っている。だけど、そのソウルミュージック本流の人が背負っているものを僕らが背負っているわけではなくて、僕らには別に背負うべきことがあって、僕らが生きている現状で問題意識としているものは、全然見方が違うと思うんです。いろいろなおもしろいものを自分たちの中で消化して、音楽をやれるっていうのは、そういうことだと思うんですよね。

 

Chara×荒田洸「愛する時」

――実際のところ、このアルバムを聴くとわかるように、WONKはブラックミュージックというものにこだわっていないですしね。最近ではCharaさんや香取慎吾さんとコラボして、WONKのイメージが変わった人がいると思うし。

江﨑 Charaさん、香取さん、m-floさんや唾奇(つばき)くんといった方々とご一緒するという、ジャンルの壁を取っ払っていることは僕らのバンドの活動の中ですごく大事にしていることです。今回の『EYES』という作品で“自分と相入れないものは排除する”という傾向はよくないんじゃないかといった、そのように発信していることは自分たちの活動と同期する部分もあると思っています。

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photo : KOHEI WATANABE (UN.inc)

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『EYES』/WONK
デジタルアルバム:6月17日(水)リリース
https://caroline.lnk.to/Eyes_AL_Wonk


アートブック+CD(完全予約限定生産):7月22日(水)リリース
EPISTROPH/Caroline International ¥8,800
※すでに予約受付が終了している店舗もあります。各オンラインショップおよびCDショップごとの在庫については、各店までお問い合わせください。

WONK
日本の音楽を再定義するエクスペリメンタル・ソウルバンド。メンバーそれぞれがソウル、ジャズ、ヒップホップ、ロックのフィールドで活動するプレイヤー/プロデューサー/エンジニアという異色のバンド。
2016年にファーストアルバムを発売以来、国内有数の音楽フェス出演や海外公演を行い、成功を果たす。ジャンルや世代を超えた国内外のビッグアーティストへ楽曲提供・リミックス・演奏参加を行う。19年7月にEP『Moon Dance』をリリース、11月にシングル「Signal」を配信。20年1月リリースの香取慎吾ソロアルバム『20200101』にて「Metropolis(feat.WONK)」を楽曲提供・共演を果たし話題となる。20年4月にシングル「HEROISM」、6月に「Rollin’」を配信、17日に4枚目のフルアルバム『EYES』をリリース。
www.wonk.tokyo

※インタビュアーである音楽ジャーナリストの伊藤なつみ連載「Music Sketch」にて、インタビューの続きを6月19日(金)に公開予定。お楽しみに!

【関連記事】
海外レーベルと契約した、気鋭の4人によるWONKとは?
Yogee New Waves 角舘健悟 / WONK 長塚健斗、濃密な音楽談義。

photos : AYA KAWACHI, interview et texte : NATSUMI ITOH

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