80年代メキシコの物語に、現代女性へのメッセージをのせて。

アレハンドラ・マルケス・アベヤ｜映画監督

鬼才の揃うメキシコ映画界だが、2019年のアリエル賞（メキシコのアカデミー賞）で13部門ノミネート、主演女優賞など4部門受賞の快挙を達成したのは、新進女性監督アレハンドラ・マルケス・アベヤの2作目『グッド・ワイフ』だった。1982年、歴史的な債務危機に襲われたメキシコのブルジョア妻たちの生きざまを描いた社会派ドラマで、マリア・グアダルーペ・ロアエサ・トヴァールの小説からインスピレーションを得ている。

実業家の夫と3人の子どもと豪華な生活を享受していたソフィア。しかし夫の会社の経営が悪化。取り巻きたちは彼女から離れ、これまで侮蔑していた新興成金の妻アナ・パウラに取り入り始める。ついにソフィアも彼女のパーティに出席することになり……。『グッド・ワイフ』は7月10日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開

「この物語を通して、“いま”についても語れると思いました。なぜなら、あの頃もいまも変わっていないことが多いから。主人公のソフィアは、お金と力のある男性の側にいることで、自分にも力があると思い込んでいる女性。そういう女性はいまも多くいて、この映画の登場人物と同じような会話をしているんです」

原題の『Las Niñas Bien』は、スペイン語で“よい女の子”を意味する。「ソフィアは、まさに大人になれない女性の象徴。富を失ったことが彼女の人生にもたらすもの、そして彼女がいかに変化していくのかを描きたかった。少なくとも、女性は自分の人生に対して自分で決断を下せるようにならなければいけないことを伝えたかったんです」

瀟洒な邸宅で開かれるパーティ、会員制のテニスクラブやスパでの社交など、80年代の富裕層のゴージャスなライフスタイルもこの作品の見どころである。社交界の女王であるソフィアは、ニューヨークで購入した肩パッド入りの高価なドレスやジュエリーを身に着け、スタイルアイコンとして君臨している。

ステイタスを演出する、肩パッド入りのドレス。

「衣装は、時代に忠実に描こうと思いました。私の母親世代がやっていたことを取り入れたかった。当時は、ヨーロッパの王妃など、有名人のスタイルを真似るのが流行っていて。ソフィアの肩パッド入りのドレスもそうです。着心地のよさよりも、自分をいかに素晴らしく見せるかが重要だったんです」

80年代生まれのアベヤは、ソフィアが住む世界とはまったく別世界で生きているように見えるが……。

「私の母はソフィアのように伝統的な家の出身なので、そんなに遠い世界の話でもないの（笑）。でも父はヒッピーな人。本人は認めないけど、フェミニストで、男女平等の価値観を教えてくれた。私が映画界に入った理由のひとつは、女性が少ない世界だったから。自分たちの居場所を勝ち取るため、闘い続けています」

＊「フィガロジャポン」2020年8月号より抜粋

【関連記事】
グレタ・ガーウィグが描いた、現代の『若草物語』。
巨匠クストリッツァがウルグアイの元大統領を撮った理由。