attitude クリエイターの言葉
ソフトで巨大な、パステルカラーの彫刻を作る理由。
インタビュー
新たな感性の扉を開くのは、触れて体感するアート。
エヴァ・ファブレガス|アーティスト
うねるように空間いっぱいに広がる巨大なロープ状の物体は、パワフルながらもお菓子のようなパステルカラーでどこかキュート。それらに身体を委ねると、いままで経験したことのない新たな感覚が芽生えてくる。そんなユニークなアートを作り出す、エヴァ・ファブレガス。現在開催中の『ヨコハマトリエンナーレ2020』にも出展している。
「私の作品に触れたり抱きしめたりすると、まるで包み込んでくれるような心地よい反応を感じられるはず。その体感は、人間ではない物質との新たな関係性を生み出す。『ヨコハマトリエンナーレ2020』のテーマ〝AFTERGLOW -光の破片をつかまえる〟とも呼応しているの」
大型のソフトスカルプチャーや身体を包み込むようなインスタレーションを通して、人間の身体や欲望が工業デザインからどのような影響を受けているのかを探究する。『ヨコハマトリエンナーレ2020』にて10月11日まで出展中。
※新型コロナウイルス感染症対策のため、『ヨコハマトリエンナーレ2020』では作品に触れられない場合がありますので、ご了承ください。
アートによって考える、身体と人工物の関係性。
「作品に触れることで、身体と工業デザインとの関係性を再構築してもらいたいと考えている。工業生産のプロセスを経て、ソフトで柔軟性のある人工的な素材を使って作られた作品と物理的な親密さを築くことで、受け手は愛情や優しさを感じることができると思う」
その結果、自然素材のものと人工的なものとの境界線はあやふやに、生物的さらには性的な制約から解き放たれて自由な発想へと導いていく。
「加えて、それが現代のデザインや建築などの工業生産物、テクノロジーと人々との関係の補塡に繋がっていけばいいと考えている」
エヴァの作品は、鑑賞するだけではなく直に触れることによって解きほぐされた気持ちが、新たな自分の発見へと誘ってくれる。
「インスピレーションは、アートとはまったく違う個人的な経験から生まれてくる。たとえば、ナイトクラブに遊びに行った時とかね。その後、考えを深めてリサーチを重ね、すべて繋がった時に形が出来上がる」
スペイン生まれのエヴァだが、大学で美術を学ぶために訪れたロンドンが「驚くほどアートについて自由に語れる快適な場所」だったと言う。以降、ロンドンをベースにマイペースに制作を続けている。3月から続いたコロナ感染予防の都市封鎖にも、それほど影響は受けなかったとか。
「もちろん不思議な経験だった。生活のすべてを規則に合わせなくてはならないなんてね。ドローイングやオブジェの制作をして過ごしていたからいつもと変わらなかったけれど、『ヨコハマトリエンナーレ2020』オープニングの参加を断念したのは残念。日本に行ったら、文化や人々、東京が大好きになったと思う。近い将来、訪れるのを夢見ているの」
1988年、スペイン・バルセロナ生まれ。バルセロナ大学でファインアートを学んだ後、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート&デザインで修士号を取得。2017年のバルセロナのミロ美術館での個展など、ヨーロッパ各地で個展を開催し、高い評価を得る。
*「フィガロジャポン」2020年9月号より抜粋
interview et texte : MIYUKI SAKAMOTO