attitude クリエイターの言葉

故国への複雑な思いを包み込む、リー・キットの作品。

インタビュー

都市の孤独や不安を、淡い色と光の作品にのせて。

リー・キット|アーティスト

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アジアのアートシーンを牽引する現代美術家リー・キット。2012年に香港から台北に拠点を移し、揺れ動く故郷と距離をとりながら、自身の作品世界と対峙してきた。ペールトーンの絵画やプロジェクターの映し出す映像と光、家具や日用品が洗練された仕草で配されたインスタレーションは、光と色の綾なす親密さを戦略的に作り出す。そこには、微かなため息のように都市生活者の孤独や不安が表現されている。

「僕にとってアートへの取り組みと現実世界へのアプローチはほぼ同じで、ため息か寒気のようなもの。無関係で異質なものを集めて平凡に見せているけど、すべては貴重なものにもなり得る。できるだけ足跡を残さずに、静かに散歩するように」

スローガンには書ききれない、故国へのあふれ出る訴え。

変わりゆくアジアの状況や自身の信念や感情に直接触れずに、「政治に向き合うこと」を日常の微細な物事の隅々に浸透させようとしてきた。まだ学生だった03年、香港政府が新型肺炎SARS対策として発令した外出禁止令へのささやかな抵抗として、手描きの絵画をレジャーシート代わりに友人とピクニックをしたことはよく知られている。

「普段、香港で僕らはピクニックをしない。布の絵画作品を持ち出すアイデアは、突然浮かんだ。そのうち、フィクションと現実の間に”ある種の”人生を築く行為が、僕独自の作風になるんじゃないかと思えた」

SARSが落ち着き始めた頃を狙い、香港政府は中国に有利な法案を通そうとした。キットは手描きの横断幕を携えてデモに参加したが、単純なスローガンでは、あふれる訴えを表明することはできなかった。

「当時もいまも、行動を起こしつつ静的な作風を維持してきた。半透明になって”ある種の”人生に近づき、距離を保つふりをしてきたと言えるかもしれない」

現在は台湾に拠点を置く。日常生活に染み込んだ政治的緊張感を実感してはいても、社会の問題や不平等を何もかも明らかにすれば、日常生活を壊すことになるだろう。

「政治とともに生活し、それを少しでも改善するために何かをするしかない。個々のレベルでね」

音楽や小説にも似た、謙虚で親密でありながらテンションを緩めない示唆的な芸術表現は、同時代を生きる人々の共感を呼ぶ。怒号をあげる代わりに、淡い色と光に包まれたノスタルジックな空間を貫く気骨によって、彼は”ある種の”人生の存在と不在を私たちに意識させるのだ。

Lee Kit/リー・キット
1978年、香港生まれ。台北を拠点に、世界各地に滞在、制作する。2013年のヴェネツィアビエンナーレ香港代表。18年、原美術館で個展『僕らはもっと繊細だった。』を行い、話題に。

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日本で2年ぶりに新作を発表した『シュウゴアーツショー』。リー・キット本人が来日し、ギャラリーの一室に自身でインスタレーションも行った。原美術館のグループ展でもコレクションを発表する。
リー・キットが出品する『光―呼吸 時をすくう5人』は9月19日(土)から2021年1月11日(月・祝)まで原美術館で開催予定。

*「フィガロジャポン」2020年5月号より抜粋

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interview et texte : CHIE SUMIYOSHI

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