ハリウッドも注目、ルル・ワン監督作『フェアウェル』。

インタビュー

インディーズ映画ながら全米で大ヒットし、第77回ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞するなど賞レースを席巻した『フェアウェル』。監督のルル・ワンは、いま最もハリウッドで注目されるアジア系監督となった。日本への初来日を切望していたが、新型コロナウィルス蔓延の影響により断念。今年3月、自主隔離中の自宅から、インタビューに応えてくれた。

200400_lulu-wang_01.jpg

スカイプ取材に応じてくれたルル・ワン監督。photo : ELIAS ROMAN

とてもパーソナルな物語。

200400_lulu-wang_02.jpg

ニューヨークで暮らす主人公ビリー(オークワフィナ/右)は、中国に住む大好きな祖母ナイナイ(チャオ・シュウチェン/左)が余命3カ月と知らされ、中国へ会いにいくことに。

――『フェアウェル』のプロモーションで海外を回っていたため、現在は自宅で自主隔離中()だそうですね。

この状況は、とてもシュールな感じがするわ。ひどい世の中になっていて、怖いとも思うけれど、幸いにも新作の準備ができるので、家に閉じこもっているのは悪くはないわ。『フェアウェル』のプロモーションで1年間、世界中を旅していたから、いまは家にいられることがうれしいし。とにかく、とても静かな生活を送れている。

*2020年3月のインタビュー当時。

――パートナーのバリー・ジェンキンスさん(『ムーンライト』(16年)で知られる映画監督)も、ほかの場所で自主隔離されているとか。

それは先週まで。バリーは撮影から戻ってきたばかりで医師の勧めによって別々に自主隔離生活を送っていたけれど、いまは一緒にいますよ。

――それはよかったです! ところで『フェアウェル』は、インディーズ映画として作られましたが、その後、気鋭の映画会社A24で配給され、全米で大ヒットしました。ニューヨークで育った中国系移民のビリーが、余命を宣告された中国に住む祖母を訪ねることから始まる物語ですが、あなたのおばあさんとの関係からスタートしたと聞いています。ビリー役にはあなたのどういった部分が反映されているのでしょうか?

『フェアウェル』は、とてもパーソナルな映画なの。ビリーは中国生まれだけど、とてもアメリカナイズされているキャラクター。そういうところには、私が反映されているわ。私と祖母との親密さや、関係性もこの物語を通して見せたいと思ったの。たとえば、ナイナイはいつもクッキーを焼いているような優しいだけのおばあちゃんじゃない。もっとひとりの女性、人間味のあるキャラクターとして描くことが重要だった。

200400_lulu-wang_03.jpg

『フェアウェル』はアメリカでわずか4館の公開でスタートしたが、口コミで話題となり上映館数が飛躍的に増加。3週目には全米トップ10入りを果たすという快挙を成し遂げた。

――死というテーマも含まれていますが、この作品はユーモアたっぷりでコメディ調です。カメラワークとか編集のリズムとか、とても独特でおもしろいですね。これらのテクニックはどこからきたのでしょうか。

私は、軽さと重さの両方をしっかりと描きたいと思ったの。この映画は生と死に関する物語であって、家族の中にも死が存在する。同時に喜びもある。ユーモアの軽さや情念の重さ。カメラワークや音楽でも、そういったコントラストを意識して演出した。音楽の使い方も、ユーモアを誘発するような使い方もあれば、教会の音楽のようなスピリチュアルな声を使ったり。カメラワークでいえば、スローモーションを使ったりしている。スローモーションはメロドラマ的だしね。

この映画を観た人たちを見ていると、同じシーンを見ても、笑う人がいるいっぽう、哀しいと感じる人もいる。たとえば、ハオハオ(ビリーの従兄弟)が泣いているシーンは、わざとメロドラマ的に撮ったの。一緒に泣いてしまう、という人もいるけれど、あまりにも彼が泣くものだから、かえって笑ってしまうという人もいる。意図的にそう演出しているんですけれどね。

200400_lulu-wang_06.jpg

ビリーと家族は、ナイナイに会う口実として、従兄弟のハオハオ(右)の結婚式を中国で挙げることにするが……。

――ビリーを演じるオークワフィナは、ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞を受賞しました。『オーシャンズ8』や『クレイジー・リッチ!』(ともに2018年)で頭角を現した注目すべき新進女優ですが、彼女とはどのように出会ったんですか? また、ビリーという役を練り上げるうえで、彼女から影響を受けた部分はありますか?

オークワフィナとはニューヨークのカフェで初めて会ったの。すでに脚本を読んでいてビリーという役にはとても興味を持ってくれていたわ。クイーンズ出身の中国系アメリカ人だけれど、あまり中国語は話せなかった。私が最初にビリーというキャラクターを書いたときは、もっとビリーは中国語が話せるという設定だった。なぜなら、私はかなり中国語を話せるので。でも、いちばん重要だったのは、ビリーが(祖母に中国に会いに行った時に)まったく違う環境に置かれる、ということ。ビリーは、アジア人のルックスをしているけれど、ほかの親類と同じような中国人ではなく外国人なんだ、ということが観客にもひと目でわかるようにしたかった。完全にアメリカナイズされていて。そのあたりは、オークワフィナに拠っているところが大きい。彼女の身振りや話し方は、伝統的な中国人とはまったくかけ離れているので。親族たちが、ビリーが中国語をうまく話せないということをコメントする、というシーンも、オークワフィナからインスパイアされたものよ。

---fadeinpager---

作品の成功がもたらしたものとは。

200400_lulu-wang_05.jpg

余命のことをナイナイに知らせまいとする家族は、知らせるべきだと考えるビリー(中央)をハラハラしながら見守る。

――この作品が成功したことで、あなたの周りではどんな変化が起こりましたか?

まずは、いままで以上に素敵な企画の話がくるようになったわ。それはとてもうれしいこと。また、私自身の仕事とは別に、この映画はコミュニティに大きなインパクトがあったと思う。特に、アジアのコミュニティを描いたアメリカの映画が、興行的に成功したということは大きいわ。『パラサイト』(19年)と同じ年に公開ということもあり、アメリカ映画界に対して、よりインターナショナルで多様性のある物語を観客は求めているんだというメッセージが伝わったと思う。もっといえば、『パラサイト』は外国語映画だけれど、『フェアウェル』はアメリカ映画なのに、登場人物たちは違う言語を話したり、白人ではない人々の物語。そういう映画が観客の心に響くのだというところも大きい。

200400_lulu-wang_04.jpg

ビリーの父ハイヤン(右)を演じるのは、ベテラン俳優ツィ・マー。ワン監督は「中国系アメリカ人版のビル・マーレイのよう」と評する。

――先日、グレタ・ガーウィグにインタビューしたのですが、グレタやあなたのような素晴らしい女性監督が実績を残したにもかかわらず、今年のアカデミー賞の監督賞に女性監督の名前がなかったのはとても残念だという話もしました。あなたはどう思いますか。

私もアカデミー賞の監督賞部門に女性の監督がノミネートされたかったことをとても残念に思っている。私は、自分自身が誰かを雇用するような立場で仕事をしているわけではないので、どのくらいこの業界が女性にドアが開かれてきたかは、具体的にはわからないけれどね。ハリウッドはショービジネスだから、興行成績や賞はとても重要なこと。興行成績がいいことは、いろんな意味で助けになるの。『ハスラーズ』(19年)や『フェアウェル』など女性監督の作品がこれだけ当たったということは、私たち女性監督の助けになることは間違いないわ。スタジオに、女性監督や女性が主人公のストーリーが当たることを認識してもらうためにもとてもいい。

映画賞にも同じような効果があると思うわ。賞にノミネートされたり、受賞したりした監督に依頼しようとするプロデューサーは多いし、契約時においても、アカデミー賞や大きな賞にノミネートされたり、受賞したりという実績は、金銭的にも優遇され、クリエイティブな面での自由でも優遇される。たとえば、ファイナルカット(最終編集権)も得られるとか。金銭的な面やクリエイティブな面でメリットがあると、また受賞するような作品を撮れるような、自由や資金を得ることができるといういい循環が生まれる。正直、女性監督や非白人の監督は、長い間、そういったものに辿り着くことは難しかったので。そういう意味でも、ヒットや賞はとても重要よね。

200400_lulu-wang_07.jpg

家族のついた優しい「嘘」により、状況は思わぬ方向に向かっていく。本作はワン監督の実体験に基づいた物語だ。

ルル・ワン Lulu Wang
1983年、中国・北京生まれ。アメリカのマイアミで育ち、ボストンで教育を受ける。クラシック音楽のピアニストから映画監督に転身。数本の短編を監督後、『Posthumous』(原題/14年)で長編映画監督デビュー。2014年のインディペンデント・スピリット賞において、チャズ&ロジャー・イーバート・ディレクティング・フェローシップを受賞。「Variety」誌の“2019年に注目すべき監督10人”のひとりに選出される。長編映画監督2作目となる本作は、19年のサンダンス映画祭ドラマコンペティション部門でプレミア上映され、数々の賞を受賞。
『フェアウェル』
●監督/ルル・ワン
●出演/オークワフィナ、ツィ・マー、ダイアナ・リン、チャオ・シュウチェンほか
●2019年、アメリカ映画
●100分
●配給/ショウゲート
●10月2日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開
http://farewell-movie.com
© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【関連記事】
悩みながら生きていく仲間や家族を描いた『mid90s』。
河瀨直美×深田晃司対談 映画祭の未来に向けて。

interview et texte : ATSUKO TATSUTA

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。