attitude クリエイターの言葉
「ミスフランスになりたい!」という、"青年"の夢を描いた注目作。
インタビュー
性から解放されアイデンティティを問う、ジェンダーニュートラルな新星。
アレクサンドル・ヴェテール|俳優
LGBTQ の議論が活発化する中、ジェンダー表現の多様性にはますます注目が集まっている。ジャン=ポール・ゴルチエのレディスコレクションで注目を浴びたアレクサンドル・ヴェテールは、ジェンダーニュートラルなモデルとして活躍するひとりである。そんな彼が初主演した映画が、『MISS ミス・フランスになりたい!』だ。
「僕のインスタグラムを見て、監督のルーベン・アウヴェスが連絡をくれた。彼は当初、トランスジェンダーについての作品を作るはずだったのだけれど、何度か会ううちに僕のキャラクターをおもしろいと考え始めて、アンドロジナス的な青年が本当の自分を見つけるまでの物語に変えたんだ」
この映画は、25歳の青年が「ミスフランスになりたい!」という夢を実現しようと葛藤する青春ドラマだ。性転換をしたいわけではないが、女性のような化粧やドレスで装いたいという願望は、ヴェテール自身も子どもの頃から持っていたと言う。
「僕が育ったのは南フランスの小さな村だったから、目立つのが嫌で。女装をするのは、お祭りの時などに限っていたよ。高校を卒業してパリで造形美術を学び始めてから、芸術の世界こそが自分自身であることを許される寛容な世界だと気がついたんだ。安全だと感じて、自分らしい表現ができるようになった。今日の社会の中で、男性はどのように自分の中の”女性らしさ”を受け入れるのか、自分の”男らしさ”がほかの人と違っていた場合、どのように自分の居場所を見つけるのか……。この作品は、アイデンティティという問題を新たな視点で提起していると思う」
ボクシングジムで働くアレックスは、チャンピオンになった元仲間との再会をきっかけに、幼い頃の夢であるミスフランスに挑戦する。男であることを隠して応募し、予選を突破するが……。『The Gilded Cage』(2013年)で注目された俳優ルーベン・アウヴェスの監督2作目。『MISS ミス・フランスになりたい!』は2月26日よりシネスイッチ銀座ほか全国にて公開。
© 2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS –FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS
自分自身を知っているから、偏見にも傷つかない。
もちろん、偏見にさらされることもないわけではない。
「でも、犠牲者にはなりませんね。嫌な目にあっても、考えたうえで自分ならではの表現をしているという自負があるから、深いところにある自我は傷つかない。僕という人間を揺るがすまでにはいたらない。そういった闘いはずっと続けていくべきです。この映画は、僕が抱えていた問題の答えをくれたような気がする。主人公も成長するけれど、僕自身も大きく成長したと思う」
日本アニメのファンで『ハウルの動く城』(2004年)が大好きだというヴェテールは、時折、片言の日本語を交えてチャーミングに話しかけてくる。端正な美しいルックスとは裏腹に茶目っ気がある人懐っこい性格で、映画界でもさらなる人気者になるに違いない。
1986年、フランス・ヴァール県生まれ。学生時代にジャン=ポール・ゴルチエのレディスのショーに出演したことをきっかけにジェンダーレスモデルとして注目される。Netflixの『エミリー、パリへ行く』などドラマにも出演。
*「フィガロジャポン」2021年4月号より抜粋
interview et texte : ATSUKO TATSUTA