attitude クリエイターの言葉
死をリアルに描く、気鋭の映画監督。
インタビュー
若くして才能を発揮しながら、監督デビューまで時間をかけた理由とは。
シャノン・マーフィ|映画監督
『ベイビーティース』が、初監督作品にしてヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出されたシャノン・マーフィは、いま最も注目すべき監督のひとりだ。大学在学中から才能を発揮し、演劇、テレビ界で10年間活躍した後、満を持して映画界に乗り込んできた。
重病に侵されている16歳のミラは、学校帰りに不良少年モーゼスと出会い、初めての恋に落ち、自分を腫れ物扱いしない彼に夢中になっていく。父と母は、素行の悪いモーゼスを気に入らないが、この危うい恋を見守る決意をする。第76回ヴェネツィア国際映画祭でトビー・ウォレスが新人俳優賞を受賞。『ベイビーティース』は2月19日より新宿武蔵野館ほか全国にて公開。
喜劇と悲劇を混在させて、死をリアルに描いた。
「ずっと初監督する題材を探していて、『ベイビーティース』の戯曲に出合ったの。キャラクターに個人的にも共感したこともあったけれど、設定も興味深かった。死が迫っている若い女性がいて、周囲がそれに対してどんな風に対応していくのか。その複雑で多様な部分を、映画でもっと掘り下げたいと思った」
『ベイビーティース』は、重病に侵された高校生ミラの最初で最後の恋を描く。常に死の世界と隣合わせでありながら、キラキラと輝くような恋の一瞬を切り取った珠玉の青春映画であり、そんな主人公を見守る家族のドラマでもある。
「こういう話は、深刻にヘビーに描きがちだけれど、私はむしろ厳しい現実を前にして、ユーモアや明るさが生まれるというほうがずっとリアルだと思った。喜劇と悲劇が混在しているという感じね」
それにしても若い頃からその才能を絶賛されてきたにもかかわらず、監督デビューまでこんなに時間がかかったのはどういうわけなのだろう。
「戯曲を書いたリタ・カルネジェイスと一緒に7年間、脚本を練ったの。彼女とはとてもウマがあってうまくいったわ。それからミラ探しにも時間がかかった。エリザとはキャスティングディレクターの推薦で会って、いい俳優だということはすぐにわかったのだけど、私自身がミラというキャラクターをどうしたいか突き詰めていなかったから、結局オファーしたのは出会って1年後だった。エリザは俳優としての技術もあるし、彼女を信頼して任せればいいと思えるようになったのよ」
アートとは、じっくり時間をかけて熟成させるべき、というのが彼女の考え方のようだ。
「みんな脚本を早く上げろとか、よく言うけれど、急がせすぎだと思う。本物を作ろうと思えば、当然、時間がかかるはず」
高校時代を過ごした香港の演劇クラスの先生に、「あなたは監督向き」と言われて以来、監督は天職だと思っている。
「先生は、単になんでも自分で決めたがるし、生意気だと言いたかっただけかもしれないけどね(笑)」
オーストラリア生まれ。幼い頃から香港など国際的な環境で育ち、オーストラリア国立演劇学校やAFTRSで学ぶ。卒業制作で発表した短編映画『Kharisma』(2014年)が、カンヌ映画祭で高く評価され、話題となった。
*「フィガロジャポン」2021年3月号より抜粋
interview et texte : ATSUKO TATSUTA