犬山紙子がいま思うこと

【犬山紙子】15歳、FIGAROに逃避して

犬山紙子がいま思うこと

文:犬山紙子

中学生の時の私は自分の周りの世界を否定したかった。
私よりかわいい女の子も、私よりも頭の良い女の子も、私よりセンスの良い女の子も、私より素直な女の子も認めるわけにはいかなかった。
認めたら自分は特別じゃなくなってしまう。
なんの根拠もないけど自分は特別だと思いたかった。平凡が一番怖かったのに平凡な自分が嫌だった。なぜ平凡が恐ろしかったんだろう、きっと平凡である自分には魅力なんて何もないと思っていたからだろう。
恐ろしいほどに自信がなかったんだと思う。
何か特別じゃないとそこにいていいって思えなかったんだろう。
そしてひねくれていた。
素直だったら努力を重ねることで自信をつけようとしたんだろう、でも私は逃避する方法を選んだ。努力した先に自分を美しいと思えないことが怖かった。
私は自分を美しいって思いたかったんだと思う。
ただ、まだ自分の美しいの基準がなくて、世間の決めたものに従うしかなかった。

そんな時私がすがった、逃避先がいくつかある。
RPGの世界、そこはワクワクする違う世界が広がり、プレイする人がどんな人でも平等だし、私はいなくて済むし友達も出てこない。
漫画の世界、私が好きなのは狐のお面を被っている何を考えているのかわからない浮世離れした男の子の話だった。そこにも私は出てこないし友達に似たキャラクターは出てこない。
テクノミュージック。気持ちがいいし、歌詞がないから私の世代の子たちの気持ちが歌われて現実に戻らなくていい、私のことは歌われていない。もしくは昭和の歌か難解な歌詞の歌。
そしてハイファッション誌、FIGAROだった。大好きな美しい世界観に私はいないし、友人もいない。

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1996年の「FIGAROjapon」の表紙。

学生服姿に三つ折りソックス姿で宮城のコンビニの雑誌コーナーで立ち読みをする。(ごめんなさい)
お小遣い日に何度も立ち読みしたFIGAROをやっと買うことができた。
学校帰りバスの中でFIGAROを開く。
そこにはどんな動きをしてもどんな角度からも美しいであろう夢のようなチュールのドレスがあった。だれにも媚びない真っ黒な直線のドレスがあった。
そこにはメッセージを発信する強くて自由な女優さんのインタビューがあった。
そこには誰かが着ているからという理由ではなく好きな服を着て好きな場所に佇む人たちがいた。
そこには夢のような旅の景色があり、そこに暮らす猫が自由気ままな姿を晒していた。
私はおでこのニキビや癖っ毛の剛毛や二重まぶたではないことを忘れて美しい世界に逃避した。

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ディオールの2019-20年秋冬コレクションより。photo:Imaxtree

家に帰ってお気に入りのコーディネイトやモデルさん、景色などを切り抜いて自分のノートにコメントを添えて貼り付けるスクラップブック作りをする時間はとにかく楽しかった。将来漫画家か雑誌の編集者になりたいなって思っていた。

今思えばあの頃の私がとても愛おしい。
私だけじゃない、素直になれなくてひねくれてる子なんてたくさんいるんだろう。それが思春期ってものかもしれないし。
あの時「私よりかわいい」とか「私よりかしこい」とか勝手に比較して羨ましかった彼女たちもひねくれていたかもしれない。
世界が狭いと比べちゃうよね、当時の私、そう思っちゃうよね。
当時自分に価値を見出せなかったけど、若く温かい命を燃やしてもがいていた自分はきっと美しかったと思う。色んなことを思い、考え、心を痛め、心を弾ませていた。分厚い膜の中で様々な色を鈍く光らせていたんだと思う。

だからあの時逃避できる先があって本当に良かった、あの時逃避先がなかったらどうやり過ごしたか検討がつかない。全てのことに全力で向き合っていたら潰れちゃっていたんじゃないかな、逃避していた逃避していたって言うけれど、現実とすでに戦っていたんだから。逃避先がないよりも生きるのが辛かったのは確かだ。それに逃避の先に夢を見ていた。

今も私は逃避することがままある。現実に向き合いながらあまりにもきつくなったら推しの住む2次元の世界を覗き、パリコレのランウエイをテレビに流す。FIGAROをめくりDIORのドレスに思いを馳せる。森の中や砂漠の中のホテルに思いを馳せる。全ての世界に自分が登場してしまったら心が忙しくてたまらない、大人になった今も夢は必要だ。

こうやって連載をすることで初めてFIGAROは私の現実になったけど、
それはあの頃の私を抱きしめることなのかなとちょっと思う。

なんだかとてもエモくなってしまった。それだけ思い入れがあるんですね。
そんなわけで、これからどうぞよろしくお願い致します!

犬山紙子

イラストレーター、エッセイスト。1981年、大阪府生まれ。2011年『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス刊)にてデビュー。

日本テレビの「スッキリ」をはじめ、コメンテーターとしても活躍。2017年に1月に長女を出産。

texte:INUYAMA KAMIKO

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