編集KIMのシネマに片想い

「人」を観るのが好きなら、西川美和監督作品を。

編集KIMのシネマに片想い

この連載のタイトルでさえ、「シネマに片想い」ですから、好きな映画作家に会える時の編集KIMの緊張は甚だしいワケです。畏怖まじりあう敬愛でしょうか......KIMの西川監督への想いは。

10月14日から公開される、本木雅弘主演、西川美和原作・脚本・監督『永い言い訳』。フィガロジャポン11月号(9・20発売)で6ページにわたり、ふたりの対談が掲載されています。その取材時に、やっと西川監督に会うことができ、KIMは心から感じるものがありました。同時に本木雅弘さんのユニークネス、面白さにも感じ入りました。

160920main.jpg©2016「永い言い訳」製作委員会

『永い言い訳』●原作・脚本・監督/西川美和 ●出演/本木雅弘、竹原ピストル、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里 ●2016年、日本映画 ●配給/アスミック・エース ●10月14日より、TOHOシネマズ新宿ほか、全国にて公開

この対談は、書店に並んでいる本誌で味わっていただくことにして、西川監督の過去の作品も紹介したいと思います。

対談時の西川監督の言葉の中でもっとも印象的だったのは「映画というのはそのままの現実を映しても、登場人物の内面は伝わらない。だから映画の嘘、演技の嘘をつかなくてはならない」というくだりでした。あるがままではなく、それを映画として見せるにはどうしたらいいか。どの映画作家でも考えることでは? と言う人もいるでしょうが、「人」を描く場合、どう見せるか、「人と人」の何を見せることによって、伝えたいことを表現するか、それは作り手の果てしない戦いだ、と思うのです。KIMの個人的な見方ですが、西川監督の映画は、人の中にあるさまざまな側面の表裏を、でんでんだいこのように両面の音を響かせながら見せてくれる。

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『蛇イチゴ』のラストの幻想的な赤い実。それは、宮迫博之演じる兄の、ひと粒の善意や詫びのようにKIMの心に届きました。映画は善の音を打ってから、終わっていく。ただし人生には続きがあって、太鼓が音を鳴らし続ける間は、裏面の悪意や騙しの音も鳴らすのです。裏側のような結果には、この先至らず誰々さんは善人になりましたとさ、というような安易さには、西川監督の映画は決して流れない。「人」という生き物のあり得ない姿は描かれないのです。

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©2002「蛇イチゴ」製作委員会

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『蛇イチゴ』

●監督・脚本/西川美和 ●出演/宮迫博之、つみきみほ、平泉成、大谷直子 ●2002年、日本映画 ●DVD \4,104 発売・販売:バンダイビジュアル

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先がある。人の生きざまには、その先がある。でも同時に変わらない本質もある。

西川監督のどの作品にも、これを感じます。『ディア・ドクター』は、笑福亭鶴瓶という有名人の、誰もが100パーセント「好い人」と思っちゃう顔立ちや佇まいを意欲的に活用して、映画の中で謎の種を撒きちらします。正直者と嘘つきのどちらのレッテル側につけばいいのか、まわりに暮らす人たちも、ドクターの失踪後わからなくなってしまう。唯一、自分の病について家族にも隠している人物は、何かを感じている。善悪がはっきりしない、人がつく優しい嘘は、「共犯者の気持を持ってくれている人」のほうが寛容な心で受け入れてくれる。最後のシーンを包む光は、コトの真実以上に、人と人の間にはsomething importantがあるのだと感じさせてくれます。

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©2002「DEAR DOCTOR」製作委員会

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『ディア・ドクター』

●原作・脚本・監督/西川美和 ●出演/笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、八千草薫 ●2009年、日本映画 ●DVD \4,104 発売・販売:バンダイビジュアル

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『ゆれる』を観た時の衝撃は、いまでも忘れられません。西川美和映画、私の初体験でした。オダギリジョーさんと真木よう子さんの絡むシーンで、オダギリさんの「舌出せよ」というセリフの卑猥でドSな感じがたまらなかった......。ここまでやっちゃうんだなー、やらせちゃうんだなー、と感心しました。脂抜きされたような、でも濁った脂が体内に残っていそうな香川照之さんもスゴかった。事件なのか、事故なのか、現場にいた人物の意図だけが、その境を決めるような状況で、登場人物たちは緊張を強いられます。儚い青いトーンの画面の中で。

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©2006「ゆれる」製作委員会

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『ゆれる』

●原案・脚本・監督/西川美和 ●出演/オダギリジョー、香川照之、真木よう子、伊武雅刀、新井浩文 ●2006年、日本映画 ●DVD \4,104 発売・販売:バンダイビジュアル

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ワルになっちゃうことで、人生がふっきれることもあるのかも。平凡でこぢんまりとした人生を歩む若い夫婦が、自分たちの店が火事で焼け、その炎に焼かれたかのごとく、違う方向のスイッチが入って突っ走っていってしまう。土壇場のぎりぎりの人間たちが、コミカルにスリリングに生き延びていく。とっても現代的な悲喜劇だなあ、とKIMは感じました。もう持っていた夢がなんだったかもわからなくなっちゃう。いまの時代って、そういう足元の危うさがあって、躓いただけなのに、気づいたら自分が大怪我負っただけでなく、他者にもすごい怪我させてしまっていた――そんな落とし穴に、気づかないうちに墜ちちゃっているというような登場人物の動きに、ドキドキする作品です。

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©2012「夢売るふたり」製作委員会

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『夢売るふたり』

●原案・脚本・監督/西川美和 ●出演/松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈 ●2012年、日本映画 ●DVD \4,104 発売・販売:バンダイビジュアル

 

ぜひ、2016年9月下旬現在、書店に並んでいるフィガロジャポン最新号の268ページから273ページに広がる西川美和監督の言葉を読んでください。映画の素晴らしい「相方」であった本木雅弘さんと交わす対話は、新作『永い言い訳』を辿りながら、ふたりの創造者が何を思って「人」を眺めているのか、がわかってきます。

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