編集KIMのシネマに片想い

香港、ウォン・カーウァイ、90年代......。

編集KIMのシネマに片想い

こんにちは、編集KIMです。

編集者の仕事をしていて、時折、極めて個人的な自分自身の趣味嗜好とドンズバイコールのテーマを手がけられて幸せだなぁ、と痛感することがあります。

間もなく最新号の2018年3月号が書店に並びますが、2017年12月20日発売の2月号、水原希子さんが表紙の「24時間、香港中毒。」は、KIMの愛する香港映画の王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の世界を求めてファッションビジュアルを作る、というアジア映画好きの私が過去と向き合えるような企画でした。

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ウォン・カーウァイ監督と香港映画に魅せられて、1990年代、KIMは香港と香港映画を追いかけました。90年に創刊されたフィガロジャポンは、スタイルマガジンである女性誌としては珍しく、当初から香港映画をはじめアジアの監督や俳優たちにフォーカスしてきた媒体です。作家主義と単館封切りの作品を大事に紹介していた雑誌だからこそ、95年からフィガロに編集者として関われたのはKIMにとって本当に幸せでした!

そしてこの2月、『欲望の翼~デジタルリマスター版』が劇場で公開されます。

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故レスリー・チャンとマギー・チャン。

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マギーと、ラストシーンで遠巻きに映るトニー・レオン。

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アンディ・ラウ、若い!!!

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カリーナ・ラウとジャッキー・チュン。

『欲望の翼』
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●1990年、香港映画 ●95分 ●配給/ハーク ●2月3日より、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開
© 1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited.  All Rights Reserved.

一見まじりあわない登場人物たちのイメージの羅列、追い立てるように、というよりむしろ映画全体のムードをカウントするような意味で使われる数字的な演出――これは『恋する惑星』の冒頭にもつながります。

その後、フランス映画界の鬼才オリヴィエ・アサイヤス監督と結婚するマギー・チャン、永遠のアジア映画ファンの恋人・故レスリー・チャン、その眼差しで女性インタビュアーのハートを射抜くと評判だったトニー・レオン、いまはその妻となったカリーナ・ラウ、アクションスターとして現れ『インファナル・アフェア』シリーズや『桃さんのしあわせ』で演技派へシフトしたアンディ・ラウ、歌声で泣かせてくれるジャッキー・チュン……。
香港映画界のレジェンドのようなスターたちが集まり、そして、この俳優たちにそれまでになかったイメージを付加することができたのが、ウォン・カーウァイの舞台だったのだと思います。

音楽も映像の作り方も、それまでの香港映画とはまったく異なる、シンプルに言えば「おしゃれ」で、「気取った」画面に魅せられました。
撮影がオーストラリア人のクリストファー・ドイル、美術がウィリアム・チョンで、熱を帯びたような色彩や空気感も本当に素敵だった。映画とは、ストーリーを伝えるのではなく、あるイメージや印象を強烈に表現して、土地・時代・人物像を、観客の心に焼き付けるもの、という考え方をいただいた作品でもあります。

「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。」

これは、作品内のセリフです。ウォン・カーウァイ監督は、前もって脚本を準備して役者に渡すということはないのですが(香港映画界全体がそうである、と聞いたことがあります)、後にインタビューできた際に、美しい言葉選びをする人だなあ、と感心しました。04年の映画『愛の神、エロス』というオムニバス映画で、ウォン監督のほかに、ミケランジェロ・アントニオーニとスティーヴン・ソダーバーグがメガホンを取ったのですが、ウォン監督の言葉がいちばん素晴らしかった。コン・リーが出演しているのですが、監督がコン・リーと会って握手しその手を握った時に、「彼女の手があまりにもふっくらと、しっとりとしていて、とてもエロティックなものを感じた。牡蠣のミルクのような豊潤なエロスだった」と語ってくれました。

>>『いますぐ抱きしめたい』

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『欲望の翼』でおおいに注目されたウォン監督でしたが、実はその前作『いますぐ抱きしめたい』(88年)がKIMの大好き!な1本でもあります。行き場がなく、器用に生きることができない登場人物、そして、互いに恋ごころを抱いていても実現できない男女、という2大ロマンティック要素が、男の世界として描かれています。ウォン監督第1作目です。
こちらは、撮影がドイルではなく、アンドリュー・ラウなんですね。香港のチンピラたちの疾走感を表現する画面がすごくカッコよかった。
アンディ・ラウの兄貴とジャッキー・チュンの弟分、アンディといとこ同士なのに惹かれあうマギー・チャンも究極的にチャーミングです。マギーは「戸惑い」の似合う女優ですよね……。

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『いますぐ抱きしめたい』 
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●1988年、香港映画 ●96分 ●DVD \1,543
発売・販売: NBCユニバーサル・エンターテイメント

アンディ・ラウとマギーの逃避行の場所となるのはランタオ島。
余談ですがこの近くの島、坪洲島を2月号70-71ページで紹介しています。昨今の香港映画で、『王家欣』(原題 14年)という作品の舞台になっている島です。

>>『恋する惑星』

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現在、フィガロの連載「活動寫眞館」でモノクロ写真を撮影してくれている齊藤工さんに最初にインタビューした15年、齊藤さんが挙げてくれた「ロマンティックな映画」の1本が『恋する惑星』でした。その時に、「いま、若い人たちの間で『恋する惑星』が再評価されているんですよ」と齊藤さんから聞きました。なるほど!それはうれしい!と思ったことを覚えています。ウォン監督作の中でも、初々しい気持ちが描かれている作品だし、2組の男女がまじりあいそうでとことんはまじらず、いつも、探し合っているような「青春映画」の風体です。構成の巧みさと、香港の路地のエネルギーがスクリーンいっぱいに広がる、甘酸っぱい映画でもあります。
ここでも、「その時、彼女との距離は0.1ミリ」という金城武のセリフがあって、数字によってぐっと観客を惹きつける監督の演出が利いています。プレノン・アッシュといういまはない配給会社が手がけていましたが、金城武がプロモーション来日し、その時、アフリカでの仕事を終えてきたと彼は言っていたことが妙に記憶に残ってます。スムースな肌質、ライオンのたてがみみたいにロン毛で、サファリのようなアースカラーのニットを着ていました。

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観光名所になった香港島側のエスカレーターのシーン。

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トニー・レオンのブリーフ姿が、当時、香港映画女性ファンの間で騒動でした……

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金城武の刑事役。携帯電話がない時代だからこその、男女のすれ違いが印象的。

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このブリジット・リンのドンズバルックで、水原希子さんを旺角(モンコク)の市場で撮影しました。

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『恋する惑星』 
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●出演/フェイ・ウォン、トニー・レオン、金城武、ブリジット・リン ●1994年、香港映画 ●103分 ●Blu-ray¥2,700 DVD \1,620 発売:アスミック・エース 販売:KADOKAWA
©1994, 2008 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

『恋する惑星』のテーマ曲でもあるクランベリーズをカバーしたフェイ・ウォンの曲が大好きで、その後、紅磡(ホンハム)でのフェイ・ウォンのライブにも行きました。同じ90年代半ばに生まれたクランベリーズの楽曲がしみるイギリス映画が、マイケル・ウィンターボトム監督作『バタフライ・キス』。いまはトレンドとなったLGBTシネマで、本当に切ないストーリーです。映画ポスターのアートワークも素敵なのでぜひご確認を!

と、書いていた翌日、クランベリーズのボーカル、ドロレス・オリオーダンが急死した……と情報が。90年代の大好きな音楽の記憶がよみがえるとともに、いま、あまりにも悲しい想いでいっぱいです……。

【関連記事】クランベリーズのドロレス・オリオーダン、早すぎる死を悼んで

>>『天使の涙』

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2月号のためにウォン・カーウァイ監督作を見直して、新たな発見が最も多かったのが『天使の涙』でした。日本での封切り当時、ライ・ミン(レオン・ライ)が運動苦手そうな人の立ちまわりだな、とか、ミシェル・リーは演技下手だな、とか、そんな粗探しをしていた気がします。それだけ、『恋する惑星』への思い入れが強くて、KIMはむしろ期待外れと感じていたのかもしれません。でも、今回香港でのファッション撮影でいちばんリファレンスとして多く使われたのは『天使の涙』でした。ミシェル・リーが扮するちょっとフェティッシュなファッション、カレン・モクの色彩のあるカジュアル感などを、スタイリストのワタナベ・シュンさんが参考にして挙げてくれました。
映画のラストシーンがまさに香港、を再認識させてくれたのです。疾走するバイクで長いトンネルを抜けて、香港の曇り空を見上げるミシェル・リーと金城武。その時代や土地を、こういうカタチで表現してくれるのって、まさに「映画的」と感じてしまいました。そして、ウォン映画に多出するモノローグを、レオン・ライはとても切なくやりきっていました……。運動苦手そう、と妙な偏見を抱いてしまってゴメンナサイ、です。

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このバイクの二人乗りのラストシーンです。ここを抜けると、香港の灰色の空を見上げる。極めて、シネマティック!!!

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ミシャル・リーのベタな美人ぐあいが、いま観るとむしろ効果的でした。美しい人が堕ちていく、というニュアンスがいい。

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『天使の涙』 
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●出演/レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、カレン・モク ●1995年、香港映画 ●99分 ●Blu-ray¥2,700 DVD \1,620 発売:アスミック・エース 販売:KADOKAWA
©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED 

>>『花様年華』

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『花様年華』は大人の映画です。不倫の匂いが漂い、マギー・チャンが纏うチャイナドレスの立ち襟は、さらに高さをプラスしたと聞いています。とても長くしなやかなマギーの首の長さからたちのぼる女らしさが、この映画をよりいっそうスタイリッシュに見せています。
撮影は、クリストファー・ドイルのほかに、リー・ピンビンも参加しています。リー・ピンビンは、KIMにとって憧れの撮影監督。絵が美しいアジア映画にリー・ピンビンあり、と言いきってしまっても過言ではないと思います。
過去と影、男と女、すれ違うふたりの顔、というのがキーワードのようになっていて、それはエロスと同時にミステリアスでもある。ここが、ウォン・カーウァイ映画のスタイルの頂点のような気もKIMはしています。

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一緒にいても目を合わせない日陰な関係のふたり。マギー・チャンのしなやかな首元!

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『花様年華』 
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●出演/トニー・レオン、マギー・チャン ●2000年、香港映画 ●98分 ●Blu-ray¥2,700 DVD \1,620 発売:アスミック・エース 販売:KADOKAWA
©2000, 2009 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved. 

 

昨年、『メットガラ ドレスをまとった美術館』(16年)というニューヨークのメトロポリタン美術館の衣装装飾部門の大イベント的な模様を追ったドキュメンタリー映画が公開されましたが、ウォン監督が出演しています。アジア関連の展覧会でウォン監督が演出とアドバイザーを一部を担っていたのです。西洋からも、ウォン・カーウァイの作品世界は憧れを誘うのかも。ご本人は最近めっきり映画監督作がないけれど、2017年のアカデミー賞空く品賞のオスカーを得た『ムーンライト』はウォン映画の『ブエノスアイレス』の影響を色濃く受けていて、それを比較・証明するようなファンサイトまで立ちあがりました。

唯一無二の表現で観客のハートをわしづかみにした映画作家ウォン・カーウァイ。
もう一度、まとめて観てみませんか?

【関連記事】『メットガラ』ファッションは芸術たり得るか?

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