編集KIMのシネマに片想い

2018年アカデミー賞、ここに光を当てたい  前編

編集KIMのシネマに片想い

こんにちは、編集KIMです。

ここ何年か、米国アカデミー賞に関してブログ記事を書いています。「ドレスアップとスピーチ」だったり、「女優フォーカス」だったり、ライブ放映されるWOWOWの試写ルームに数時間こもってLAの様子を観察しながら、毎回テーマを考えます。

ゴールデングローブ賞のように女優たちのドレスが真っ黒だったらおもしろくないな、とか、#MeToo運動のことを司会者がずっと喋り続けたらどうしよう、などとスタートする前から不安に思っていました。
が、実際に始まってみれば、今年はとっても多彩に社会の問題に触れていて、つまり問題視することの偏りがないように感じられました。人種にも、性差にも、貧困にも、LGBTにも、国力の差、トランプ政権のやり方にも、絶妙に触れていて、かつ、そこに引っ張られすぎずスムーズに進んだように、私は思えました。このような意見は同意を得られないこともあるかもしれませんが……。

これまでは、米国アカデミー賞の持つこういう傾向にあまり触れずに書いてきました。が、今回は少し触れて、あくまで個人的なものですが、意見述べつつ、WOWOWでライブで観ているからこそ、映画評論家の町山智浩さんや瀬々敬久監督のコメントや意見に感じたところや、何より、華やかな面だけでなく「なんだか気になるちょっとしたコト」に光を当てて書いてみようかと思います。

気になった!! 17歳が主役の小規模な映画。

今回、特に気になっていた作品から触れます。ノミネートはされたけど無冠に終わった一本、『レディ・バード』です。

この作品は、フィガロがずっと応援してきたグレタ・ガーウィグという映画人の監督作であり、作品賞候補9本の中の唯一の女性監督作。彼女はニューヨークを舞台にした『フランシス・ハ』(2012年)の主演を務め、ノア・バームバック監督と脚本を共同執筆。バームバック監督とはプライベートでもパートナーです。16年には『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』でナタリー・ポートマン演じるジャクリーン・ケネディの付き人を演じていました。
『レディ・バード』は作品賞のほか監督賞と、主演女優賞にシアーシャ・ローナン、助演女優賞にローリー・メトカーフがノミネートされ、女性が主役の女性のための作品です。

02レディバード.jpg

03レディバード2.jpg

04レディバード グレタ・ガーウィグ①.jpg

05レディバード4.jpg

田舎からニューヨークの大都会へ出てくるティーンエイジャーの心境を描いた青春コメディ。ガーウィグは脚本賞にもノミネート。全米スマッシュヒット作。『君の名前で僕を呼んで』の大注目若手俳優、ティモシー・シャラメも出演。
『レディ・バード』 ●監督・脚本/グレタ・ガーウィグ ●出演/シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、ティモシー・シャラメ ●2017年、アメリカ映画 ●94分 ●配給/東宝東和 ●6月より公開予定
©2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24

206グレタ Rvivie.jpg

グレタ・ガーウィグ監督はロジェ ヴィヴィエの「ボワット・ドゥ・ニュイ」クラッチとティファニーのネックレスが同じアクアブルー。近年の女優ラッキーカラー、イエローのロダルテのドレスを纏って、フューシャピンクの口紅を塗った春の訪れのようなルックだ。先に紹介したヘッドフォンをした撮影現場の監督と比べてみて! シャツ姿もドレス姿も両方チャーミング。


207シアーシャ カルバン.jpg

CALVIN KLEIN BY APPOINTMENTのピンクのシルクファイユのベアトップドレスを着用したシアーシャ・ローナン。子役時代から注目されていたが、ガーウィグ監督のおかげで演技派に仲間入り。©Getty Images

レッドカーペットで「尊敬する映画人は?」との質問にガーウィグ監督はアニエス・ヴァルダと答えていました。89歳でもあんなにエネルギッシュだ、と。自身と同じ女性映画監督であり、ヌーべルバーグを駆け抜けた映画作家で、パートナーも同じ映画監督の故ジャック・ドゥミという……フレンチシネマの憧れの存在です。
ちなみにアニエス・ヴァルダは今回のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞で『顔たち、ところどころ』でノミネート。こちらは9月に日本公開予定です。フィガロジャポン5月号で6ページにわたってヴァルダの特集も掲載します、お楽しみに! 

もうひとつの気になる作品が、脚色賞を受賞した切ないティーンの恋とアイデンティティ探しを描いた『君の名前で僕を呼んで』。

ティモシー・シャラメ-GettyImages-927258884.jpg©Getty Images

08君僕メイン.jpg

09君僕サブ1.jpg

こちらも17歳を描いています。『17歳のカルテ』という映画もあるし、欧米の映画では17歳って特別なんだなあ。アジアもそうか。初恋に関しての映画です。
『君の名前で僕を呼んで』 ●監督/ルカ・グァダニーノ ●出演/アーミー・ハマー、ティモシー・シャラメ ●2017年、イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ映画 ●132分 ●配給/ファントム・フィルム ●4月27日より、TOHOシネマズシャンテほか、全国にて公開 ©Frenesy, La Cinefacture

主演のティモシー・シャラメは主演男優賞ノミネート。全身ホワイト!です。最近のアカデミー賞の男性オスカー候補で、ブラックシャツにブラックタイ、ブラックジャケットというオールブラックは結構います。素材だけでコントラストを利かせるクールな装い。
でも、ティモシーのオールホワイトは、ホントに王子さまか天使でした!スタジオの瀬々監督が、「若い女性たちがティモシーティモシーというのはウザい! なんとしてもゲイリー・オールドマンに取ってもらわなきゃ」とムキになったのはおかしかったなあ。
この作品で見事脚色賞を受賞したのは現在89歳のジェームズ・アイヴォリー。KIMは大学生の頃からアイヴォリー監督作を観て、『モーリス』(1987年)や『眺めのいい部屋』(86年)、『日の名残り』(93年)などに魅せられていました。受賞の時に、アイヴォリーは舞台上で杖をついていて、オスカー像を床に置きました。「脚色である以上、原作者アンドレ・アシマンに感謝したい。これは誰にでもある初恋の姿を描いている」とスピーチで語りました。

>司会はいつも気になる! そして今回の試みで……

---page---

司会はいつも気になる! そして今回の試みで……

司会者は、俳優、コメディアンであるジミー・キンメル。第88回のクリス・ロックの白人至上主義批判や、第79回のエレン・デジェネレスのなんだか散らかった感じよりも、どこかエレガントでした(とKIMは感じました)。 
「今年は名前を呼ばれてもすぐに立たないで!昨年みたいなことが起こるから」
→これは、作品賞が『ムーンライト』だったのに、プレゼンターの『俺たちに明日はない』コンビ、フェイ・ダナウェイ&ウォーレン・ベイティが間違った封筒を手渡され、『ラ・ラ・ランド』と言ってしまってあとからバツの悪いムードがラストで巻き起こったことを揶揄しています。
そして、長~~いスピーチに釘をさすように、今年は最短スピーチを行った人にはKawasakiのジェットスキーをプレゼント!ということでストップウォッチ持ち出したりして……。

ジミー・キンメル GettyImages-927272072.jpg

マット・デイモンとの半分以上に嘘っぽい確執もオモロイ!©Getty Images 

でも、そのせいか、今年はスピーチに感激が少なかった気がします……。プレゼンターが述べた言葉で印象的だったのは、衣装デザイン賞の時のエヴァ・マリー・セイント。

エヴァマリーセイント-GettyImages-927279470.jpg©Getty Images

エヴァ・マリーは『波止場』(54年)『北北西に進路を取れ』(59年)などに出演していた、24年生まれ現在93歳の女優!なのに、ものすごくしゃっきりしていて肌もまなざしも美しい! ノミネート作品の紹介をする前に、「昨年、65年間ともに暮らした夫を亡くしました。いまも近くに彼がいると思うわ。アカデミー賞よりも私のほうが年上なのよ(笑)。毎年アカデミー賞には夫と来ていました。昔は、ヒッチコックと一緒に女優としてドレスを選んだりしたものです……」
なんて素敵なんでしょう、痺れました。そんな彼女が読み上げた衣装デザイン賞受賞作は『ファントム・スレッド』。50年代のロンドンを舞台に、クチュリエの恋愛模様と人生の狂いを描いています。過去3度のアカデミー賞を受賞した俳優ダニエル・デイ=ルイスが主演です。

11ファントム1.jpg

12ファントム2.jpg

13ファントム3.jpg

ポール・トーマス・アンダーソン監督とルイスが再び組む。作品賞でも監督賞でも「僕は個人的に好きなのでポール・トーマス・アンダーソンを応援します」とスタジオで語っていた瀬々監督の切なさがなんだか心に残りました……。
『ファントム・スレッド』 ●監督・脚本/ポール・トーマス・アンダーソン ●出演ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル ●2017年、アメリカ映画 ●130分 ●配給/ビターズ・エンド、パルコ ●5月26日より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国にて公開 ©2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

もうひとつ、「ああ~いいわ、こういうの!」と思ったのは、助演女優賞受賞のアリソン・ジャネイ『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』。
「私はたったひとりでこれを成し遂げました(笑)。それは事実とまったく異なります。脚本が素晴らしかった。マーゴット・ロビーとの出会いで友人というものの定義も変わりました」
日本人っていつも謙遜ばかりしていて、こういうジョーク言える人いないですよね。あえて傲慢な「風味」に演じているだけのこのアリソン・ジャネイは、作品内で演じている役ともかぶるようなところもあって、すごいんです。

14アリソン・ジャネ.jpg

マーゴット・ロビー演じる実在のフィギアスケーター、トーニャ・ハーディングの母親役でアリソン・ジャネイは助演女優賞をゲット。ふだんはテレビなどで活躍しています、「ホワイト・ハウス」とか。©GettyImages

『アイ,トーニャ~』は助演女優賞のみ獲得しましたが、主演のトーニャ・ハーディングを演じたマーゴット・ロビーの美しさには目をみはりました! フィガロでも取材したいですね、6月号あたりで企画中です!

215マーゴット・ロビー.jpg

ロジェ・ヴィヴィエのヌーディな白いサンダルと、細身のシャネルのドレスを纏ったマーゴット・ロビー。『スーサイド・スクワッド』のぶっ飛んだ容貌からは想像もつかない。彼女の隣にいるのは、現在ヒット街道まっしぐらの『ブラックパンサー』に主演しているチャドウィック・ボーズマンです。

16トーニャ メイン1.jpg

17トーニャサブ3.jpg

史上2人目のトリプルアクセルを女性スケーターで成功させたトーニャ・ハーディングの汚れたフィギュア人生を描く。実話に基づき、彼女の半生を追う。
『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』 ●監督/クレイグ・ギレスビー ●出演/マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャネイ ●2017年、アメリカ映画 ●120分 ●配給/ショウゲート ●5月4日より、TOHOシネマズシャンテほか、全国にて公開 ©2017 Al Film Entertainment LLC. All Right Reserved.

スピーチで気になったのは……

助演男優賞受賞サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』。
「父も母も映画が好きでした。映画への私の想いはそこから始まった」

218サム・ロックウェル).jpg©Getty Images

短編実写映画賞『The Silent Child』(原題)
初ノミネート、初オスカー受賞のクリス・オーバートンとレイチェル・シェントンが手がけた作品。「耳が聞こえない、静かな世界に生きている子どもたちのことは、多くの、ふつうに生活する人々には伝わりにくいことだと思います。だからこうしてメインストリームで紹介してもらえてうれしい。今日ここでスピーチをすると、6歳の娘に誓ってきました」

撮影賞受賞 ロジャー・ディーキンス『ブレードランナー 2049』
「20年以上この仕事をやっているけれど、とっても大好きな仕事だ」。自らの仕事を、真正面から大好き、と言えることって素晴らしくないですか? WOWOWのスタジオにいる町山さんいわく、ディーキンスは13回ノミネートされて無冠。今回は14度目の正直だったそう。戦闘シーンも顔が見えなかったり、霧を使ったり、ダスティなムードに仕上げて、ディーキンスにしかない映像を創り出すことが特徴、とも。
そして彼こそ、オールブラックのスーツ姿で細身で素敵でした。KIMの偏愛ですが、撮影監督ってとてもカッコいいんですよね……

サブ_TRI-17250r.jpg

【ジャケット写真】BD ブレードランナー 2049.jpg

『ブレードランナー 2049【初回生産限定】』
●監督/ドゥニ・ヴィルヌーヴ ●出演/ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス ●2017年、アメリカ映画 ●本編163分 ●Blu-ray ¥5,122 DVD\4,104 販売・発売:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント © 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

3月10日(土)夜8時より、WOWOWにて「第90回アカデミー賞授賞式/ダイジェスト」字幕版をオンエア!
www.wowow.co.jp/extra/academy

【関連記事】2018年アカデミー賞、ここに光を当てたい  後編

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。