
2018年アカデミー賞、ここに光を当てたい 後編
編集KIMのシネマに片想い
再び編集KIMです!
ドレスは原色が多かったような……でもエミリーのアクアブルーが。
前半でも触れたグレタ・ガーウィグはイエローのドレスでした。今年はビビッドカラーのドレスに断然目が行きます。
助演男優賞のプレゼンターだった昨年の助演女優賞受賞者ヴィオラ・デイヴィスと、外国語映画賞受賞作『ナチュラルウーマン』に主演したトランスジェンダーの俳優ダニエラ・ヴェガのドレスは鮮やかなピンク色でした。
町山さんがおっしゃるには、アメリカにおいてはピンクという色もフェミニズムの象徴だったり、ひとつのアティチュードを表しているということらしいです。
『ナチュラルウーマン』でダニエラ・ヴェガの演じるのはまさに彼女自身と同じトランスジェンダー。恋人を突然失い、差別的な人々と闘い、それでもすっくと前を向くヒロインを演じました。もともとダニエラはオペラ歌手なのです。
昨年のアカデミー賞でのベストスピーチ賞はKIMにとってはヴィオラでした! ロジェ ヴィヴィエの「ピルグリム」クラッチとともに。
『ナチュラルウーマン』のダニエラ・ヴェガのインタビューはフィガロ4月号P151に!©Getty Images
『ナチュラルウーマン』 ●監督・共同脚本/セバスティアン・レリオ ●出演/ダニエラ・ヴェガ、フランチェスコ・レジェス ●2017年、チリ・アメリカ・ドイツ・スペイン映画 ●104分 ●配給/アルバトロス・フィルム ●シネスイッチ銀座ほか、全国にて順次公開中 ©2017ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA
『オーシャンズ8』に出演予定、プレゼンターとしても登場したニコール・キッドマンの衣装はアルマーニ プリヴェ。ビーズや刺繍などではなく構築的に見せる強い色のドレスが今回は目を引きました。
©GIORGIO ARMANI
メリル・ストリープもディオールの真っ赤なドレスでした。主演女優賞にもう何回ノミネートされているんでしょうか。作品は『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』。スピルバーグ監督作です。
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』 ●監督/スティーヴン・スピルバーグ ●出演/トム・ハンクス、メリル・ストリープ ●2017年、アメリカ映画 ●116分 ●配給/東宝東和 ●3月30日より、全国にて公開
©2017Twentieth Century Fox Film Corporation Storytellar Distribution CO., LLC.
なんて書いておいてなんですが……ラブリー!と感激したナンバーワンは、エミリー・ブラントの淡い水色のドレス姿でした。こちらは同系色のアクアマリンのショパールのハイジュエリーコレクションのイヤリングと合わせていました。リングもアクアマリンを用いたものをセレクト。ブロンドヘアにもよく似合って可愛かったです。ドレスはスキャパレリのクチュールラインです。エミリーは歌曲賞のプレゼンターとしてメキシコが舞台のアニメ映画『リメンバー・ミー』へのオスカーを授けました。
©Chopard
ラテンアメリカへのオマージュ。
今年の作品賞はもちろんみなさんご存じ、『シェイプ・オブ・ウォーター』。監督のギレルモ・デル・トロはメキシコ出身で、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥやアルフォンソ・キュアロンに続いてメキシコ万歳!な結果に。アメリカ映画界におけるメキシコの貢献って本当に大きいのです。
その証のひとつが2部門で受賞したアニメ映画『リメンバー・ミー』。歌曲賞を受賞したため、ミュージカル仕立ての美しい演出が舞台上で展開するのがオスカーナイトの常ですが、今回はメキシコ人俳優ガエル・ガルシア・ベルナルがその歌声を披露しました。あんまり上手じゃなかったけれど……。
受賞スピーチの際にも、「『リメンバー・ミー』はメキシコの美しい文化と伝統がなければ作れなかった作品だ」とありました。
ガエル君が昔来日した際、現在フィガロの編集長Rが彼の大ファンで、六本木のバーに一緒についていったことを思い出しました、WOWOW視聴ルームで。そんなRもいまでは『ローグワン スター・ウォーズ・ストーリー』に出演したディエゴ・ルナのほうが好き♡なんて言ってますが……。
『リメンバー・ミー』は、madameFIGARO.jpでも、現在、日本語吹き替え版で歌うシシド・カフカさんのインタビュー記事をお届けしています。
『リメンバー・ミー』 ●監督/リー・アンクリッチ ●共同監督/エイドリアン・モリーナ ●2017年、アメリカ映画 ●105分 ●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン ●3月16日より、全国にて公開 ©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. ©2018 Disney. All Rights Reserved.
>Oscar goes to……
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Oscar goes to……
©Getty Images
「Oscar goes to……」この言葉を聞くと興奮します。もちろんたくさんの賞がある。でも世の中で一般的に騒がれるのは、メインの賞です。主演&助演の男優賞と女優賞、監督賞、作品賞。この6つに輝きさえすれば、日本公開した時の興行収入にも差が出る。映画業界にいる人たちはヒットを願い、観客たちはこれから劇場に足を運ぶならどの作品にしようかな、と予想をつけます。米国アカデミー賞の、最も定番的な楽しみです。
助演女優賞は前半で紹介したアリソン・ジャネイ『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』。
助演男優賞も先に紹介したサム・ロックウェルで『スリー・ビルボード』。こちらは主演女優賞も取りました!過去に、夫ジョエル・コーエンが監督した『ファーゴ』でもオスカーを取ったフランシス・マクドーマンドです。
この化粧っけのない顔、いかがでしょう!それでも彼女は輝いていました。©Getty Images
「女性のオスカー候補たち、立ち上がってください。メリル、あなたが立てばみんなが立つわ。見渡してください。私たちにはみなそれぞれの物語があります。つまり、すべての人たちを含めて考えるべきだ、と思うんです」
この言葉が意味することは、町山さんも解説してくれましたが、この会場にいかに女性のオスカーノミネーツが少ないか、ということを示そうとしていたのです。舞台を去る時は、自身が演じた南部の人間らしくガニ股で歩いたりしたマクドーマンド。見上げた役者魂であります。現在公開中の『スリー・ビルボード』は、つい先日、日曜夜の9時台に劇場に行きましたが、けっこう席が埋まっていました。
アメリカのカルチャーを語るうえで、実はとても深い深いものがある南部が舞台です。広々とした土地に潜む閉塞感と人間の性を、真正面から描いていて、ストーリーはやるせないのに、ある種の爽やかさが宿るフシギな映画です。ぜひご覧あれ。
なお、フィガロジャポン3月号P112で、マーティン・マクドナー監督のインタビューを掲載しています。
『スリー・ビルボード』●監督・脚本/マーティン・マクドナー ●出演/フランシス・マクドーマンド、サム・ロックウェル、ウディ・ハレルソン ●2017年、イギリス・アメリカ映画 ●116分 ●配給/20世紀フォックス映画 ●全国にて公開中 ©2017 Twentieth Century Fox
主演男優賞はおおかたの予想どおり、ゲイリー・オールドマン『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』です。「長年アメリカに住んでいるけれど愛情、友情をたくさんもらい、さまざまな恵みを受けてきています。生活も、家族も、オスカーも手に入れました。サウスロンドン出身の私は映画で夢を見てきました。この夢を維持するために、たくさんの人が私を助けてくれました」
英国出身者でも、こんなふうにアメリカでの成功、ということを、国という単位で感謝するものなんだな、と思いました。そんな気持ちにゲイリー・オールドマンをさせたのは、今回の授賞式に流れるダイバーシティな雰囲気からなのかもしれません。「……ウィンストン・チャーチルが素晴らしい旅を提供してくれたのです。僕は、ジェットスキーはもらえなさそうだ。99歳になる母が自宅のソファでこの様子を見ています。愛してくれてありがとう。オスカーを持っていくよ」と最後に続けました。
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同じ作品でメイク・ヘアスタイリング賞を辻一弘さんが受賞したのは、日本人だからこそ大きなニュースでした。彼をこの作品に引っ張ってくれたのは、ゲイリー・オールドマンだったそうです。
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『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』 ●監督/ジョー・ライト ●出演/ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ ●2017年、イギリス映画 ●125分 ●配給/ビターズ・エンド、パルコ ●3月30日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開 ©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
そして、『シェイプ・オブ・ウォーター』が、美術賞、作曲賞、監督賞、作品賞の4つをゲットしました!
©Getty Images
『シェイプ・オブ・ウォーター』 ●監督・共同脚本/ギレルモ・デル・トロ ●出演/サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、オクタヴィア・スペンサー、ダグ・ジョーンズ ●2017年、アメリカ映画 ●124分 ●配給/20世紀フォックス映画 ●全国にて公開中
©2017 Twentieth Century Fox
美術賞受賞では3人が壇上に上りました。その時に胸ポケットには、エメラルドグリーンのチーフをお揃いで飾っていました。この色は、映画の中に出てくる、美しい半魚人の色なんです。この半魚人、ぎょっとするけれど、筋骨隆々でカッコいいんですよ。
サリー・ホーキンス演じるヒロインが恋に落ちるのもわかる気もします。何より、彼女が恋に落ちたのは、この作品のテーマそのものなのですが、「彼は、ありのままの私を見てくれる」というセリフに理由があります。それは、この作品が今回作品賞と監督賞含め4つの賞を受賞した理由も含まれているような気もします。
監督賞を取ったデル・トロは「私はメキシコからの移民です。アルフォンソ(・キュアロン)やサルマ(・ハエック)のように、です。この業界にはそういう人たちがたくさんいます。感謝したいのは、2013年、フォックス・サーチライト・ピクチャーズが、この作品を作っていいと言ってくれたことです。みんな、ついてきてくれてありがとう」とスピーチで語りました。
作品賞の受賞の時には、もうほっとしたのか茶目っ気たっぷりで、自分の名前が書かれた作品賞の封筒をウォーレン・ベイティから取り、中身を確かめたりしました。
©Getty Images
そうなのです。こういうところがアメリカって楽しいな、と思っちゃったのが、昨年の「大事故」の人たち、フェイ・ダナウェイとウォーレン・ベイティを再度作品賞プレゼンターに起用しました!おまけに発表直前のCMに入る前、正しい封筒ここにあり!と言わんばかりにそれを物撮りするほど嫌みったらしい絵を流していたんですよ(笑)。いいなあ~皮肉が効いてて。
ジョルジオ アルマーニのメイド トゥ メジャーを纏ったデル・トロ監督。©GIORGIO ARMANI
「スピルバーグに言われました。もしも受賞できたら、これはレガシーだ、と。この賞を若い人に捧げたいです。あらゆる国にいて、自身の状況を変えたいと思う人たちに。私は子どもの時にこんなことが起きるとは夢にも思っていませんでした。ファンタジーを使って夢を叶えたい人たち、これは可能なんです!」
スタジオにいる町山さんが涙を流されました。ゴジラだってウルトラマンだって、こういう賞を取る可能性があるということの証明じゃないか、と。デル・トロとはオタク仲間で、彼が太り気味なことを心配していたりして。でも、映画好きって、やっぱり同志だな、としみじみ感じました。
『シェイプ~』が素敵な理由は、誰かが心の奥で感じていることが、社会に潜む問題と絡みあったりしながら、すっと他者の心に届いて響かせる力を持っているところです。すごく不思議な状況を描いていたって、ふつうに人間が感じるエモーションの部分に突き刺さります。こういう映画が最高賞を取ってくれたことは、映画好きとしてはやっぱりうれしい!
そうしみじみ感じた第90回アカデミー賞なのでした~。
フィガロジャポン4月号P150に、デル・トロ監督のインタビューが掲載されていますので、ぜひお読みください!
3月10日(土)夜8時より、WOWOWにて「第90回アカデミー賞授賞式/ダイジェスト」字幕版をオンエア!
www.wowow.co.jp/extra/academy
【関連記事】2018年アカデミー賞、ここに光を当てたい 前編