
『君の名前で僕を呼んで』に執着してしまう理由とは?
編集KIMのシネマに片想い
こんにちは、編集KIMです。
フィガロジャポン本誌で、ある作品にフォーカスしてページを作った後、さらにもう一度、このブログで同作に触れることは、いままでなんとなく避けてきました。なるべくたくさんの映画を紹介したいですし!
でも、コレは避けられない――『君の名前で僕を呼んで』
後にも先にもエリオを演じたティモシー・シャラメの輝きこそが、『君僕』のヒットの最大の理由、そして世間の女子たちが執着するいちばんの理由!
© Frenesy , La Cinefacture
当初、とても甘々のボーイズラブ作品、というような情報が私に届いていました。LGBT映画の記事からスタートした「シネマに片想い」ですので、ジャンル的には好きな方向だったものの、登場人物たちが「美しすぎる」ことがかえって警戒心をもよおさせ、作品内容への期待度を薄めてしまって、飛びつくような気持ちでは観なかったのです。でも、まず自宅でDVDを観てぶっとびました……。
ふたりの俳優たちがハマリ役だったこともあるけれど、とにかく底なしに美しい!人物の美しさ、というよりも作品そのものが放つ美しさのほうに、まず惹かれました。
図工や美術の教科書をめくるように彫刻の写真から始まるオープニングで、「アカデミズムが本作の鍵ですよ」と監督から言われているような気持ちになりました。
書きなぐったようなCall Me by Your Nameのタイトル文字も……。
冒頭からディテールを練りこんで重層的にメッセージを忍ばせる演出に、ヤラれてしまいました。
ふたりが一緒に行った研究の小旅行で、水底から上がってきた彫像の手で握手。アドリブまじりのシーンだったようです。© Frenesy , La Cinefacture
ひと夏の男同士の恋の時間を描く舞台に選ばれたのは、北イタリアの小さな町クレマですが、ルカ・グァダニーノ監督の家も近くにあるそうです。そして、日本での映画公開時期(2018年4月27日)には、映画の舞台となったあの家が売却に出ていたそうですよ。
アカデミックな両親と、知性と教養にあふれながらどことなく危うい若さのエネルギーに翻弄されている主人公のティーンエイジャー、エリオ、イタリアの陽気さの象徴であるかのようなナポリ出身の家政婦マファルダ、不器用だけど家族への思いが貫かれている使用人アンキーゼ。彼らが住まう家に、アメリカの明るさと傍若無人な強さを象徴するような青年オリヴァーがやってきたことにより、この家は、夏の陽光の華やかさと、初々しい胸騒ぎで、じわじわと支配されていくのです。
このあたりの登場人物が放つ光や佇まいの描き方はとても淡々としながら、かつロマンティックで見事です。緑と、水際と、時を経た邸宅を背景に、繰り広げられる夏の時間は、爽やかな描写なのにどこか切ない。最初からふたりの恋に「終わりがある」ことは、観客も共通認識できるようなメッセージが仕込まれているように思えます。
何度も出てくる食事のシーン。この食卓にちゃんとオリヴァーが来るかどうかもエリオの大きな関心事。見守る母親役アミラ・カサールはフランスの人気女優です。© Frenesy , La Cinefacture
音楽を介して、ふたりは恋の駆け引きをします。© Frenesy , La Cinefacture
杏(アプリコット)が、知識の奥行きを試すために語源を探る話題に使われたり、エロスの強調として使われているのも素敵でした。足がはやい果実である杏は、それがたわわになる庭でみんなが戯れることになり、食卓に供される甘酸っぱいジュースとして夏の人々の喉をうるおわせます。エリオの自慰に使われて滑稽なカタチに潰れてしまったのは桃だったけれど。こんなふうに果実があらゆる意味合いで人と人を結び付けるなんて!フルーツの消費量がすごく多い(と以前新聞で読んだ)イタリアらしい。その着眼点に震えます。
まだ携帯電話は普及していない80年代が舞台であることも、多くの年代にうったえかけたのかもしれません。私は週末にサントラをヘビロテで聞いています。思い出すと笑ってしまうのが、アーミー・ハマー演じるオリヴァーが両手の人指し指を立てながらディスコティックに踊るシーン。違和感を覚えたのですが、「彼、ダンスも上手だしね」とエリオが評するのがもっとオモロイ!(いま見るとおかしな動きですよネ!)このダンスのことで、アメリカではアーミー・ハマーはさんざんからかわれて苦笑いだったそうです。
原作を読むと、エリオはまさにティーンエイジャーの女の子のごとく、オリヴァーに憧れているように描かれています。オリヴァーが今日は何色の水着をはいているか? それによって彼の気分は怒っているとか、優しいとか……。花びらを一枚一枚取っていって「好き・嫌い」と占う女の子みたいじゃないですか。
エリオを演じるティモシー・シャラメのアンニュイでメランコリックな、古臭いヨーロピアン的なルックスが、こういうためらいのある感情を表現するのにピッタリだったんでしょう。ティモシーは、現在はアメリカ本国でも超人気俳優となりました。ファッションリーダーでもあるし、異性からだけではなく、同性に恋愛対象としてモテているみたいですね。
初めてのキスシーン。© Frenesy , La Cinefacture
ティモシーがアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた決定打は、ラストシーンのおかげだと思っています。すごい長回し。なんて残酷な監督なんだろう!とびっくりしました。しかし、まさにこの長回しを情緒たっぷりに乗り切ったことが、暖炉の火にともされる顔の表情で深い感情を語りきれたことが、ティモシー・シャラメに世界中からの注目を呼び寄せました。課して超えさせる監督は、役者にもたらすものも大きいんですね。何よりもこの映画の最後のセリフ、それこそが作品タイトルとリンクしていることも、巧みな仕掛けなのです。
自宅でDVDを観ただけでなく、もちろん劇場にも足を運びました。ほかの観客の反応も見たかったですし、混雑状況や、人々の熱を直に感じたかったこともあります。客層は老若男女幅広く、すすり泣きが聞こえてきたのが、エリオの父がエリオに自身の若い時分のこと、これからの生き方について語るシーンだったことが強く印象に残っています。
このお父さん役の俳優マイケル・スタールバーグって『シェイプ・オブ・ウォーター』のヒロインの隣の部屋に住むゲイの親友役だったんです。まったく違う印象で、これまたあっぱれ。
↑ この内容、大変恥ずかしいことに間違えておりました…政府の研究所の、強面のホフステトラー博士役がマイケル・スタールバーグです! 間違った記述、失礼いたしました。 本当に赤面です。読者の方がご指摘くださいました。ありがとうございます。
涙を流す人続出のシーン。ヒューマニティにあふれるセリフにやれらます。
© Frenesy , La Cinefacture
一本の作品の中にちりばめられた、心をくすぐる仕掛け。それを味わうために、『君僕』に執着し、アディクトになってしまう人が多いみたいです♡
現在、ソフトのレンタルもスタートしました。でも一部情報では、セルの予約もすごく多かったとか!うれしいですね、いい作品に、多くの人が中毒化するのは。
なんとなんと、初回生産限定のコレクターズ・エディション¥7,344のBlu-rayです。生写真ふうのものが3点。トートバッグ、豪華ブックレットなど垂涎もの!

『君の名前で僕を呼んで』Blu-ray&DVD 好評発売中
●監督・脚本/ルカ・グァダニーノ
●出演/ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール
●2017年、イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ映画
●本編132分
●コレクターズ・エディションBlu-ray¥7,344 通常版Blu-ray¥5,184 通常版DVD¥4,212
●発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
●販売元:ハピネット
© Frenesy , La Cinefacture