編集KIMのシネマに片想い

フランスと日本を映画で繋いだ人、吉武美知子。

編集KIMのシネマに片想い

こんにちは、編集KIMです。

2019年6月14日、とても大切な、敬愛する映画人が逝かれました。吉武美知子さん。パリにずっと暮らし、フランスと日本を繋いだ映画愛の人です。

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この笑顔、背は小さいけれどエネルギッシュ、なのにトーンはのんびりしていて、会った途端になじんでしまうような、そんな人でした。
葬儀はパリのペール・ラシェーズ墓地で行われたそうです。フランスを代表する俳優ジャン=ピエール・レオーや、ドキュメンタリー映画作家のニコラ・フィリベール、諏訪敦彦監督らが列席されたそうです。でも、ここ日本だって吉武さんへの想いをどうしたらよいかわからず悲しんでいた映画好きの方々がたくさんいます。そんなみんなの気持ちを汲み取ってくださった映画人たちが、「それぞれの吉武美知子さんを語る会 Chacun a sa Michiko」を8月7日に渋谷のユーロライブで開いてくれました。

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会場には吉武さんプロデュースや配給サポートなど、深く関わった作品のポスターと、その時の思い出についてコメントが添えられていました。
『汚れた血』(1986年)には、本人談で「すべてはこの映画から始まった」と書かれていました。以降、レオス・カラックス作品にはなくてはならない存在に、と付け加えてありました。会場にいらしたアテネ・フランセの松本正道さんが「吉武さんはいっときパリから日本へ帰国なさろうとしていたのではないか。でも、留まるきっかけとなったのはレオス・カラックスとの出会いだったのではないだろうか」とおっしゃっていたのが印象的でした。

190830_2.jpg©DR

『汚れた血』 ●監督・脚本/レオス・カラックス ●出演/ジュリエット・ビノシュ、ドニ・ラヴァンほか ●1986年、フランス映画 ●125分 ●アンスティチュ・フランセ東京の追悼特集で上映あり  

190829_02'-ボーイミーツガールboy_meets_girl.jpg©DR

『ボーイ・ミーツ・ガール』●監督・脚本/レオス・カラックス ●出演/ドニ・ラヴァン、ミレーユ・ペリエほか ●1983年、フランス映画 ●104分 ●アンスティチュ・フランセ東京の追悼特集にて上映あり

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『ユキとニナ』(2009年)に関して、来日した時に作品について熱く語る吉武さんとごはんを食べたことを思い出しました。

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『音のない世界で』(1992年)はフィガロジャポンでも特集を組んで大きく紹介されていました。KIMが編集部に配属される前のことです。ポスター下のコメントには「この作品に惚れ込み、日本の配給を実現。ニコラ・フィリベール監督との交流は生涯続いた」とありました。この作品に惚れ込む、ということは、人間に対しての尊敬と可能性への信念の人である証明だと感じます。

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フランソワ・オゾン監督の『まぼろし』(2001年)は、吉武さんがオゾン監督とタッグを組んだ最後の作品です。コメントには、「新人だったオゾン監督を日本に紹介し、ユーロスペースとの共同製作をした立役者」とあります。

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『ライオンは今夜死ぬ』●監督・脚本/諏訪敦彦 ●出演/ジャン=ピエール・レオー、ポーリーヌ・エチエンヌ ●2017年、フランス・日本映画 ●103分 ●PFFにて追悼上映あり(9月15日)
©FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS  LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinema

ペール・ラシェーズでも、渋谷での語る会にもいらした諏訪敦彦監督の『ライオンは今夜死ぬ』には、もちろんプロデューサーとして吉武さんの名前がクレジットされています。諏訪監督が語った吉武さんは、時間に必ず遅れる人でした、というくだりでみなさん微笑みながらうなずいていました。「映画を創るということは、果てしない人と人とのやりとりであり、吉武さんはそれをやり続けてくれた人」。エピソードのなかで、『History』(2001年)への出演依頼をしにいこうと吉武さんが監督をベアトリス・ダルのもとへ引っ張っていき、通訳として会話を繋いでくれた時のこと……フランス語はわからないけれど、なんとなくその言葉を直訳したのではなく、B・ダルが言っていないことを吉武さんは諏訪監督に伝えてくれているのではないか、と感じたとおっしゃっていました。映画が創れるように、素晴らしい映画人たちの気持ちを応援するために、そんな意訳をしていたのだろうなあ、と聞いていて思いました。

「それ、のった!」という一言が印象的だとたくさんの人が言っていました。私も、聞き覚えあり!と。よく食べる人だった。好きな花はひまわりだった。南仏の陽光を思わせるイエローは吉武さんによく似合うのです。

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『ダゲレオタイプの女』●監督・脚本/黒沢 清 ●出演/タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー ●2016年、フランス・ベルギー・日本映画 ●131分 ●PFFにて追悼上映あり(9月14日)
©2017−FILM-IN-EVOLUTION−LES PRODUCTIONS BAL THAZAR−BITTERS END

『ダゲレオタイプの女』(2016年)の黒沢清監督の「パリをそこまでよく知らない僕にとって、パリとは吉武さんそのものだった」という言葉。『大人は判ってくれない』(1959年)のアントワーヌ・ドワネルのように、よくとっくり襟の服を着ていて、クセで口元のあたりまで引き上げてしまうんだ、と。みんなが吉武さんを親しみやすい人、というけれど、(前述のような仕草から察しても、というニュアンスだった気がします)「実は人見知りだったんじゃないかな、と僕は思うんですよ」とコメント。KIMもそんな風に感じた記憶があります。

蓮實重彦さんもいらっしゃっていました。ロカルノで吉武さんを見かけ、その後カンヌで知り合い、以来パリや東京でお会いになっていたとのこと。パリでは屋根裏の、女中部屋のようなところの住まいを訪れて、その部屋でしばらく話した後に、吉武さんが気になっているレストランに出かけるのが常だったこと。
KIMもその姿を見かけたことがありますが、吉武さんは、パリではいつもスクーターに乗って移動していました。ヘルメット姿がなんとも可愛くて、見ているこっちがニコリとしちゃう。蓮實さんは「スクーターに乗ってパリを走る気分はどうか?」と尋ねたそうです。そうしたら「乗ってみて!」と言われ、小さな吉武さんのスクーターの後部シートに長身の蓮實さんが跨り、サン・シュルピュスの広場を2周したとか!

ユーロライブで、舞台にひまわりとともに映写された吉武さんの写真を観ながら、吉武さんについて映画人が語る時間。それは映画好きのKIMにとって、宝物のような時間でもありました。
後編で、フィガロで吉武さんとともに作ったページ、吉武さんについてKIMの個人的なエピソードをお伝えします。
フィガロとフランス映画と吉武美知子。

なお、吉武さんが関わった作品群の追悼上映が行われます。
第41回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)では、堀越謙三プロデューサー、黒沢 清監督、諏訪敦彦監督が吉武美知子という人物についてお話しされるパートもある映画祭内での上映です。アンスティチュ・フランセでは、15作品を一挙上映します。この機会にぜひ、フランスと日本の映画の絆を強めたひとりの女性の仕事を観てください。

『追悼・吉武美知子プロデューサー ~フランスと日本を繋ぎ続けた人~
2019年9月8日(日)13時30分~『TOKYO!』×ゲストトーク:堀越謙三

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©2008「TOKYO!」

2019年9月14日(土)17時~『ダゲレオタイプの女』×ゲストトーク:黒沢 清
2019年9月15日(日)17時30分~『ライオンは今夜死ぬ』×ゲストトーク:諏訪敦彦
会場:国立映画アーカイブ・小ホール(東京・京橋)
https://pff.jp/41st/

『追悼特集 映画プロデューサー 吉武美知子~フランスと日本の映画作家たちの架け橋』
2019年9月19日(木)~29日(日)
会場:アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
上映作品:『ボーイ・ミーツ・ガール』『メーヌ・オセアン』『汚れた血』『音のない世界で』『おせっかいな天使』『サマードレス』『海をみる』『Tokyo Eyes』『ポーラX』『不完全なふたり』『ユキとニナ』『遭難者』『女っ気なし』『ホーリー・モーターズ』『汚れたダイヤモンド』

190829_08'-.jpg© LFPLes Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions

『汚れたダイヤモンド』はプロデュース作品のカメラマンだったアルチュール・アラリが自らメガホンを取った監督作。
www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema1909190929

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