Music Sketch

SOIL&"PIMP" SESSIONS『DAPPER』の楽しみ方

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ソイル・アンド・ピンプ・セッションズ(SOIL&“PIMP” SESSIONS)のニュー・アルバムが繰り返し聴いてしまうほど、とても良い。2016年10月にサックス奏者が脱退し、新体制5人組になってからの第1弾はTBS金曜日ドラマ『ハロー張りネズミ』の主題歌「ユメマカセ feat. Yojiro Noda」、そしてその劇伴アルバム『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』を17年8月に発表。今回のオリジナルアルバム『DAPPER』は意気込み新たに完成した会心の1枚となった。

「ユメマカセ feat.Yojiro Noda」

野田洋次郎に続く、ゲスト・アーティストの名前を収録順に挙げると、Awich、三浦大知、Nao Kawamura、Shun Ikegai、Kiala Ogawaという気鋭の若手シンガー達に、付き合いの長いEGO-WRAPPIN’という豪華なラインナップ。とはいっても、彼らは話題集めのために多数招いたわけではない。それをいうなら、2006年に椎名林檎とコラボした「カリソメ乙女(DEATH JAZZ ver.)」をリリースした時の方がずっとセンセーショナルだった。とはいえ、この人選には個人的に歓喜しかないし、どの曲も新たな魅力に溢れている。バンドの中心メンバーの1人が抜けた後、どのように曲や音を構築していったのか気になったので、社長(Agitator)とタブゾンビ(Tp)の2人にインタビューした。

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左から:みどりん(Dr)、タブゾンビ(Tp)、社長(Agitator)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(Ba)

◼大人っぽく心地よく聴けて、自然と体が揺れる音楽を

—歌ものなどコラボ曲が顕著ですが、どのような方向性で制作していったのですか?

社長(以下、S):新生ソイルとして、“2回目のデビュー盤”という意識で軸を統一することと、耳触りがいい、心地よく聴けるというのは意識していましたね。ガシガシ踊るのではなくて、ゆったり聴きながら揺れちゃってるみたいな、そういうちょっと大人っぽい感じの切り口でまとめたいなというのはありました。

タブゾンビ(以下、T):「サウンドトータビリティを整えた方がいいね」という話からスタートして、今回は社長がプロデュースというか、全部を社長のヴィジョンでやるということで進めていきましたね。

S:コラボに関してはミーティングの際にいつも名前が挙がる方とか、今回は曲を書いて行く過程で「これはこの人がイメージなんだよね」とか、「この曲にこの人の声が合うんじゃない?」とか、意見交換の上で声を掛けさせていただきました。

「comrade feat. 三浦大知」

サポートのサックス奏者の栗原健さんはどのようにして決めたのですか?MOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO、Jazztronikでの他にも、福原美穂さんやクラムボンなどでも吹いていますよね。

T:栗原さんしかありませんでした。去年一緒にヨーロッパ・ツアーに行ったし、前からレコーディングとかでもよく一緒になっていて、相性がいいのはわかっていたので。

相性がいいというのは?

T:音楽的に共有できる部分、例えば“テーマがこう入った時は小さく吹く、ここは大きく吹く”というのが意思の疎通なしにできるとか、そういう音楽的感覚の一致というのがすごく重要なんです。ただ単に縦のラインを揃えればいいというだけではなくて、例えばテーマがビタッと揃いすぎるとつまらない音楽になるので、だったら“お互いの歌い方で”となった時の、その個性の出方とかニュアンスの感じとか。多少ずれていたり、各々が歌っていた方が音楽的に良かったりもするんですけど、そういうのを感覚的に共有できるのが大きい。

確かに。

T:それに彼はアートのセンスも凄い。例えば彼が描く絵とかすごく好きだし、発する言葉やチョイスとかも(話していると自分の中に)すごく入ってくるし、トータルな部分じゃないですかね。今までももっと注目されてもいいくらいの人なんです。

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◼トランペッターとしてより、音楽をトータルに捉えて

少し前にTV番組『関ジャム 完全燃SHOW』の管楽器特集にタブさんがトランペット奏者代表として出演したのを拝見しました。『SONGS』の小沢健二さんの回では2人きりで共演していたし、他にもレコーディングなど多々参加していますよね?

T:呼ばれることは多いけど、セッションには自分から行く感じではないですね、シャイなんで(笑)。“何で俺なんだろう”と思うことが多いです。でも個性という点でいえば相当あると思いますよ。あまりトランペットのイメージからトランペットをやっていなくて、音楽の一部でカッコ良ければいいと思っている。そのへんの考え方は他の人たちとちょっと違うような気がしますね。小学校のブラスバンド部からトランペットを吹き続けていますけど、“トランペットトランペットした作品”はあまり音楽的でないこともあって嫌いなので。

マイルス・デイヴィスはどうですか?

T:大好きです! あとロイ・ハーグローヴも。2人とも音楽トータルでカッコイイという。ショーマンでステージに立ってるだけですごく様になる。2人ともトランペッター以外の人が聴く音楽なんですよ。他のトランペッターって、トランペッターしか聴かない(音楽をやっている)人が多いと感じています。

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会場が沸点まで熱くなる大人気のパフォーマンス。左から3人目がサポートの栗原健。2017年11月15日@赤坂BLITZ 撮影:後藤 倫人

「Deform Reform」での前半と後半でトランペットの音の違いなど聴き甲斐がありますけど、そういうお話を伺うと、ソイルでのタブさんの立ち位置も全体の中にあるサウンドになっていますね。

T:そうですね。僕ができるのがトランペットでしかないので、トランペットをやってるだけなんですけど。

S:一緒にやっていて、トランペッターであると同時にプロデューサー的な視点の俯瞰で音楽を見られる人なので、全体像というのをすごくこだわりますね。その中で自分はどう吹くかという、全体から自分がやることをちゃんと判断するというタイプの人です。

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タブゾンビと社長。同じ大学で出会って以来の仲という。

ソイルは超個性派による集団で、ライヴは格闘技の如く演奏の応酬も楽しめますが、確かにテクニックをひけらかすというより、音楽としての楽しさを全面に出しているグループワークの良さも感じるんですよね。

S:丈青も結構ソロに目が行きがちだけど、実はバッキングもすごく上手くて、ソリストを引き立てるためにどうするかをすごく考えている。

T:あと、「これは俺が弾かなくていいんじゃない?」って言える人がすごい人だと思う。「これは俺は弾かない」とか「俺は吹かない」と言えるのが結構大事。新体制になってホーンがメインという感じではなくなってきていますが、音楽的に良ければ、それでいいなと思っていますね。それこそ「Glitch feat. Shun Ikegai, Kiala Ogawa」は最初の1分10秒くらいまでホーンの音が出てきてなくて、やっと出てきたら一音だけですから。その一音に意味を持たせる引き算の美学というか、そんなにトランペットであることが重要でなくなってきたという感じです。

「Glitch feat. Shun Ikegai, Kiala Ogawa」

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◼お題を出すようにしたり、ひと仕掛けしたりしながら曲を作る

「Method」のドラムンベースなドラムに対する、流れるようなホーンと自由なピアノがカッコ良かったです。

T:この曲は、たぶんバーン!と丈青がピアノを弾き始めて、それにドラムがこういうイメージで叩いていって、最後にホーンを“じゃぁ、こういうイメージで”って割って入れていった。

S:ドラムンベースといった意識は作っている時はなくて、丈青が弾いたリフに対して、みどりんが合わせたのがそのビートだった。結果的にドラムンベースの仕上がりになってますからね。

これまで消化してきた音楽の中から、意識しないで出てきたんでしょうね。

S:“誰かが出したお題に対してみんなが答える”といった出来上がり方ですね。

「Method」

タブさんが作曲した「Pride Fish Ball」は、前半はジャズなのに後半にガラッと変わって同じ曲かと思えない展開がいいですね。

T:鹿児島県出身なので、さつま揚げのFride Fish Ballに引っ掛けた曲名(笑)。4つ打ちの部分は、最初に「ニコラ・コンテのキックが強いフォービートをもっとダサくした感じのをやりたいんだよね」って言ったのをずっと覚えていてくれたのか、でもハードなトランスみたいな感じに仕上がってて。

S:ディープ・ハウスみたいな。

T:今までにない音楽になって良かった。ライヴではそこから「Papa's Got A Brand New PigBag」(著者注:PigBagの代表曲で、ジェイムス・ブラウンの曲をカヴァーしたナンバー)に行くことがありますね。

常にアイデアが多々あって、それをどう曲に入れていこうかという感じですか?

S:事前にアイデアを準備しておくというより、「Pride Fish Ball」だったら、“こうなったらカッコイイんじゃないかな”という提案というか、ひと仕掛けするみたいな。

さつま揚げは光栄ですよね、こんなカッコイイ曲になって(笑)。

「Pride Fish Ball」

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◼かっこいい音楽ってちょっとユーモアが欲しくなりますね。

極端なことをいうと今回のアルバムを聴いて、ゲスト・シンガーや音楽性の多彩さからいって、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『ブラック・レディオ』や、クリス・デイヴ&ザ・ドラム・ヘッズの最新アルバムなどを想起しました。ソイルは爆音ジャズ、DEATH JAZZと呼ばれる独自の音楽スタイルを貫いてきたわけですけど、自分たちはブレずにやってこられたと思いますか?

S:まずジャンルの意識をそもそもしたことがないのが、軸として大きいのかもしれない。みんながそれぞれ違うルーツを持ってて、でもブラックミュージックが好きなところとか共通点はあって。そういう中でこのバンドがスタートして、同じことをし続けるよりも、“今この新しい体制の5人でどういう音が出せるか”というところからこのサウンドが出来上がったという。だから、“ココ”っていうところがあるというより……。

T:ブレてるところがブレてないんじゃない? あんまり決めつけずにやりたいことをやってるというか、その時その時のヴィジョンも、今回だったら社長が指揮を取って「あっ、いいじゃない!」っていうものができるという。音楽性もね、そのDEATH JAZZから今の大人っぽいものまでを通してみたら、世間からしたらブレてるように見えてるけど、俺たちはやりたいことをやっているという。

見えてないですけどね。それこそ椎名林檎さんとやったのが12年も前だし、自由さは変わっていないし。社長が思うカッコイイ音楽とは?

S:カッコイイ音楽というか、自分たちが“今これカッコイイと思っているんだけど、どう?”って、作品ごとに提案をさせていただいている感じですかね(笑)。

T:でも、カッコイイ音楽って、ちょっとユーモアが欲しくなりますね。カッコ良すぎると痒くなっちゃうというか。本当に日常生活がカッコ良ければ音楽もカッコ良くてもいいけど、“お前、普段違うじゃん”という感じだと、“何か違うんじゃない?”って思っちゃう(笑)。

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拡声器によるアジテーションを取り入れるなど、アグレッシヴな演奏スタイルを特徴とする超個性派集団。2017年11月15日@赤坂BLITZ 撮影:後藤 倫人

ソイルは海外ツアーも多くて場数も踏んでいるので、ちょっとやそっとのアクシデントでもメゲないタフさがありますよね。

T:アクシデントだらけですよ(笑)。そういうのが面白い音楽を生むんだと思う。結局、音楽の面白さって、個人の人生観だったりすると思うんですよ。面白くない奴に、面白いものなんて生めないって思う。

それはわかります。最後に、もうツアーに入っていますが、ソイルにとって最高のライヴとはどのようなものですか?

T:まず、各会場の雰囲気に合ったセットリストを考えていきますね。昔はお客さんが止まって聴いているというのが怖くて、だから、声をあげてくれるか動いてモッシュで示してくれないと心配だったんですけど、いまは自然に体が揺れて聴いていてくれる感じがステージから見ても気持ちがいいですね。

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最新アルバム『DAPPER』。ジャズを基軸にヒップホップ、R&B、エレクトロなどを自在にミックス。
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今後のツアー日程 〈TOUR 2018 “DAPPER“〉

6月21日(木)宮城・仙台darwin
6月23日(土)静岡・浜松Live House 窓枠
6月28日(木)愛知・名古屋ボトムライン
7月8日(日)大阪・味園ユニバース
8月1日(水)東京・中野サンプラザ

そのほかのライヴなど詳しくは公式サイト

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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