Music Sketch

Tempalayの小原綾斗が語る、『なんて素晴らしき世界』。

Music Sketch

Tempalay(テンパレイ)の最新ミニアルバム『なんて素晴らしき世界』は、明らかにこれまでと違う。顕著だった、意表を突く展開の連鎖が感情を揺さぶりながら外へ吐き出させるものだとしたら、最新作は同じくエモーショナルでありながらも、自己と対峙させるようなインプット性の強いものだ。アルバムのリリースタイミングでの記事のアップを逃してしまったので、ワンマンツアー前に掲載しようと予定していたら、すでに大阪・東京公演はソールドアウトとのこと。人気はますます加速している。ここで過去2回にわたって紹介してきたTempalayだが、今回はフロントマンである小原綾斗(Vo&Gt)の魅力を追求してみた。

181126-A)-DSC02766.jpg

Tempalayの作詞・作曲、Vo&Gtを担当する小原綾斗。ギタリストとしてのセンスも秀逸だ。

■コンセプトアルバムが生まれた理由。

冒頭に書いた変化が生まれたきっかけは、コンセプトアルバムということもあるだろう。過去にはアメリカツアーを経て生まれた曲を中心に構成されたEP『5』があったが、今回は“誕生から滅亡まで”というストーリー。最初に聴いた時は、小原本人でなくても、身近な人に子どもが生まれたのかと思ったけれど、そうではないそうだ。

——ミニアルバム『なんて素晴らしき世界』が生まれたきっかけを教えて下さい。
小原綾斗(以下O):コンセプトとしては、始まりから終わりまでの普遍的なもの。皮肉じゃないですけど、こういう世の中にも美しい瞬間があるとしたら、生まれることぐらいかなと。そのいちばん無垢な状態の美しさとか、そういうものが不条理な中にもちゃんとあるというところを書きたかった。

——何か思うところがあったの?
O:夜景とか見ていると、ビルやマンションには人が住んでいるけれど、その人たちと僕は一生交わることは多分なくて、それでその人が死のうが僕には関係ないんですけど、でもその並行世界でみんながこう過ごしているわけじゃないですか。そういうところに尊いなというか、きゅんとしてしまう。そういうループしていくものを表現していきたかったんです。

——ストーリーとして歌詞を付けていくのは大変でした? 前から「自分の音楽に歌詞は不要だと思っている」と話しているし。
O:そうですね。でも日本においてはそうはいかないので、付けるとなると、すごく内省的にはなってくるかなと。外に向けて何かを思うほど、まだ自分たちに余裕がないし、無頓着なので、もっと自分たちが発する言葉とかに影響力とか出るようになったら、多分物の見方がそれと比例して変わっていくと思うんですよ。

■小原綾斗の根底にある“切なさ”と“刹那さ”。

——私がTempalayの音楽に惹かれる大きな理由のひとつは、宇宙感あふれる楽曲に、必ずユーモアや切なさが共存しているから。サイケデリックだけどメランコリックで、その刹那的なグルーヴの気持ち良さに癒されるんですよね。おそらく前のアルバムの時に(小原)綾斗さんが「深海より」を作りながら曲にハマっていったのも、自ら音楽に癒されていたのかな、と思って。
O:その指摘は結構うれしいですね。自分でも切ないなと感じているので、癒されているというか、自分でも言葉で言い表せない感情があるんです。絶妙な寂しさを常に持っているような、すごい切なくなる顔の人がいるんですよ。その人の顔を見ていると、キューンとなる感情が呼び起こされるというか。そういう自分も歌詞を書いている時に同じようにウニュ〜ってなる時があるんです。

——歌詞に「さよなら」という言葉が多く出てくるのもそうですよね。瞬間瞬間を生きているようで、それは刹那さの象徴のようにも思える。私はそこにも惹かれていて。
O:何かポツンとしているんですよ、ずっと。僕は曲「Last Dance」のAメロを書いているときにすごく切なかったんですけど。悲しくなって。そういうものに美しさを感じるので、うまく言えないです。

——私もそこにウルっときて(笑)。もしかしたら自分の音楽を作りながら癒されているのではなく、解放されているのでもなく、気持ちがいいからそこに佇んでいたいという思いで曲を作っているのかもしれないですね。
O:そうかもしれないですね。確かに。(しばらく沈黙)孤独にめっちゃ怯えているのかもしれないですね。

——「さようなら」という言葉には照れのようなもあります? たとえば別れの時間が来た時に、相手からそう言われるのが嫌だから、自分から口にしてしまうように。全体に漂う切なさはいつから心に棲み付いているの?
O:今回のコンセプトがあったのでそれが出てきたのかもしれないですが、僕は無意識なんですけど、死生観のようなものをずっと引きずっているんです。僕は四国の出身なんですけど、小学生の時に広島の原爆や戦争についての授業が毎日あって、原爆の映像を観て、図書館には『はだしのゲン』(中沢啓治著)の漫画が並んであって、毎年千羽鶴を折って広島に行くという行事もあった。だから、小学生の純粋さゆえなんですけど、その戦争が明日にも起こるかもしれないという恐怖とめちゃくちゃ戦っていた。未だに人が死んだり、死ぬ瞬間とか、殺す側とか、その状態や精神にすごく興味があって、でも自分は身内でまだ誰も死んだことがないので、人を亡くす苦しみとかわからない。だからすごく怖い。どれだけ自分は大切な人の死に崩れてしまうのか、とか考えると、それも想像でしかないんですが。だから本当に、孤独に怯えているんでしょうね。

■ループの中で流れていく、踊れるグルーヴと美麗なメロディ。

——今回の特徴のひとつとして、曲「どうしよう」に象徴されるようにループが多い。以前は突然変化するようなトリッキーな展開が多かったのが、今回はループにも拘らず絶妙なグルーヴに言葉がうまくハマって、メロディからして綺麗で、すごく聴きやすくて、気にしていないとループって感じないくらい。ループが増えて展開が減ると、下手したら単調になりそうなのに、それも感じさせない。新しいトランスのような緩さとか音の遊びとか、魅力満載で。
O:感覚的には音楽のカッコイイものの基準が、いまは“シンプルでディテールが追求されているものがやっぱりカッコイイ”っていうタームなんだと思うんです。そこにあるしっかりとした裏付けがあれば、シンプルなものでもなんかカッコイイなっていうのがわかってきたというか。シンプルなものの良さってすごく勇気がいるけれど、それを楽しめるようになったのは、自分が否定してきた“わかりやすいものがダサい”という考えがなくなったのかもしれないです。

■同世代だから共有できたMVの感覚。

このアルバム制作中にバンドの体制が変わった。レーベルを移籍したタイミングでサポートメンバーのAAAMYYY(エイミー:Cho&Syn)が正式メンバーになったが、オリジナルメンバーの竹内祐也(Ba)が急遽抜けることになる。

181126-B)-Tempalay_photo.jpg

(写真左から)小原綾斗(Vo&Gt)、AAAMYYY(Cho&Syn)、藤本夏樹(Dr)。2014年結成。

——AAAMYYYさんがメンバーになったことで、変化はありますか?
O:たとえば「SONIC WAVE」のサンプリングのアイデアとか。昔、windowsにあったお絵描きソフトの「キッドピクス」っていうすごいサイケデリックなのがあるんですけど、AAAMYYYがわざわざ昔のパソコンとソフトを買って導入している。それはMVでも使われています。彼女は音というよりは、そういうアイデアマンなので、音楽にシフトできたらいいと思ってますね。

——「SONICWAVE」と「どうしよう」のMVが発表されていて、話題の集団でもある映像チーム「PERIMETRON(ペリメトロン)」と一緒にやっているのを見て、アイデアにしろ、感覚共有にしろ、ノリにしろ、同世代には叶わないなと実感しました。どんなに優秀な方が作ったとしても、同世代のリスナーにいちばん伝わるのは、同世代が作ったものだと思わざるを得ない作品になっているから。
O:うれしいですね。最高ですよ。でも結局「SONIC WAVE」の内容が過激だから、一部では放映できないことになって。表現の自由みたいなものがどんどん奪われていっていることも体現したというか。本当は「どうしよう」は、もっとエグイ内容にすることもできたんですけど、だいぶ抑えたんですよ。

―どこをどう受け取るかなんですけどね。
O:PERIMETRONや僕たちは表現することに飢えているから。いまはそういうカウンター的なものが回りまわってカウンターすらカウンターじゃないみたいになってるじゃないですか、何週もして。いまこそ本当に純粋に濃度の高い芸術が必要な気がするんですよ。

——現在の綾斗さんにとって、いま生きているのは“素晴らしい世界”だと思えるの?
O:諦めと反抗みたいなところはありますけどね。曲名にもある「素晴らしき世界」というのは皮肉なので。何を言ってもここで生きていかないとあかんから、そこで微妙に見える美しいもの、こういういま居る場所は混沌としていても、外から見たら綺麗だったりするじゃないですか。これが完全に自分自身の歌かといったらそういうわけではないし、ネガティブではないですよ。“諦める”って受け入れることであるとも思うので、許すことが増えたり、ある種そういう意味で諦めって言っただけですけど。

独特な感性を持つ小原綾斗にアルバムを制作時に聴いていた音楽や、彼の世界観を知るのに参考になる書籍を挙げてもらった。

181126-C)-DSC02783.jpg

好奇心のアンテナが数多で、話題の尽きない小原綾斗。

・ メリディアン・ブラザーズ(以下筆者注:コロンビアの首都ボゴタ発の超ユニークなポップ集団)
・ Cornelius(小山田圭吾率いる世界的に活躍中のバンド)
・ ブロックハンプトン(LAを中心に活動。カニエ・ウエストのファンサイトで終結した総勢15名ほどのボーイバンド)
・ DODDODO(どっどど:大阪を拠点に活動する日本の女性ソロアーティスト。ヒップホップや民族音楽などの要素を取り入れた楽曲を発表)
・ ラヴィン・ラナエ(The Internet のSteve LacyがプロデュースしたエレクトロR&B)
・ 古いものではラウンジ・リザースのメンバー、ジョン・ルーリーを中心としたプロジェクト、マーヴィン・ポンティアックも聴いていたそう。
・ 漫画『ギャラクシー銀座』(長尾謙一郎著)

「この世界を見て“マジで大好物や”と、最近ハマった漫画なんです。アルバムを作った後に読みました。質感が、『ロッキー・ホラー・ショー』とか『ファントム・オブ・パラダイス』とか、ああいうおどろおどろしい世界観なんですけど」(小原談)

tempalay_jacket.jpg

『なんて素晴らしきツアー』Oneman show!!

12月5日(水)大阪Shangri-La (SOLD OUT!!)
12月6日(木)名古屋upset
OPEN 19:00 START 19:30 TICKET 前売り¥3000(1Drink 別途)
12月11日(火)東京 LIQUIDROOM (SOLD OUT!!)
------
12月15日(土)香港 TNN
12月16日(日)台北THE WALL
tempalay.jp

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。