Music Sketch

ビッグバンドが似合う男を目指す、高岩遼にインタビュー。

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インタビューしていてもその声に惚れ惚れしてしまう、高岩遼。フランク・シナトラを敬愛し、スタンダード・ナンバーを数え切れないほどそらで歌えてしまう28歳だ。彼の華やかなステージを見たら、「こんなエンターテイナーが日本にいたの?」と驚き、すぐに魅了されるだろう。

ジャズ・シンガーとして成功したいという夢を抱えて10年前に上京。音楽大学での歌の勉強と並行して、さまざまな音楽活動をしながら経験を積んできた彼が、今秋、待望のソロ・デビューを果たした。ビッグバンドを従え、また、時代の最先端を行く「Tokyo Recordings」のYaffle(ヤッフル)をプロデューサーに迎えた、さまざまなジャンルを含有したポップなアルバム『10』は、構想10年、制作期間468日という数字に偽りのないこだわりの強いアルバムになっている。

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フランク・シナトラを敬愛するシンガー、高岩遼。

最先端のもので、まったく誰も予測していなかったことをやろうと。

――今回のアルバム制作に関して、事前に決めていたことは何ですか?
高岩遼(以下T): Yaffleもディレクターも僕も間違いなく、最先端のものを作ろうと頑張っていましたね。楽曲はもちろん、高岩遼という日本男児がこういうことをやるという面白さ、全体のパッケージを含めて、誰もまったく予測していなかったことをやろうとしていたのが、共通理念というか、イデオロギーだった気がします。

――2つ目は?
T:高岩遼が常にニュートラルでいること、他でやっているバンドとは違って、ここではシンガーに徹していましたね。3つ目は……何だろう?

――自分の中で「これだけはやりたくなかった」というのでもいいですし。
T:逆に、「これはやらない」っていうのを作りませんでした。それから、レコード会社のジャズ・セクションからのリリースなんですけど、ジャズ・アルバムにはしたくなかった。自分の中ではポップスですね。ただ内容はすごいブルースで。望むのは、「このアルバムでとりあえず高岩遼を知って欲しい」ということです。

自分の歌がスタンダード・ナンバーとなっていくように。

――音楽面はYaffleさんからの刺激が大きかった?
T:そうですね。楽曲の面では全部。

――歌詞の面では苦労したのではないですか? というのも、高岩さんが好むジャズやブルースは人生や人生観が歌われているものが多く、だからこそ、自分もスタンダードになるような歌を書きたいと思っているでしょうし。
T:そうですね。

――そこで自分の人生をどう歌っていくかという。実際、離婚した父親への思いや大好きだった祖父母のことを想って書いた歌も入っていますし。他でやってきたバンドでの歌詞と比べて、言葉を選んだのでは?
T:はい。歌詞のことを指摘してもらえて、めちゃめちゃうれしいですね。

――ジャズにしてもブルースにしても、人生だなぁと思う歌ばかりなので、高岩さんも歌詞にこだわったのではないかと。
T:その通りです。そういう風に伝わっているのはすごくうれしいです。

――最初に「これならいける!」と思った曲は?
T:「ROMANTIC」はちょうどいい収め方。あまり自分の人生観は出さないけど、俺が思っていることを含めた大衆的な歌詞になって、いい落とし所だったと思いますね。

――ダンスナンバーとしても軽快で気持ちがアガります。メロディや歌詞、音色などもすべてに魅力があって、バランスも取れているし、いい曲ですよね。ここからいい流れが生まれていったんですね。「Sofa」は前からある曲だそうで。
T:はい。SANABAGUN.(サナバガン)の元になる高岩遼ヒップホップサイドというバンドで実はやっていて、22歳頃に書きました。みんな「いい曲じゃん」って言ってくれて、1~2回やって終わりましたけど、それを引き出しの中にずっとしまっていて、このアルバムで取り出したんです。

――ラブソングは書きやすかったですか?
T:結構大変でした(笑)。近い女性に贈るのか、幅広いロマンスを与えられるのか、どっちなのか。音楽的なことは別にして、僕はこのアルバムのテーマは僕の中のブルースなので、そういう意味では、近辺の物事を詰め込んだつもりです。

――インタールードには語り(MC)が入っています。最初からのアイデア?
T:いや、これはできあがる直前で。オリジナル曲とフランク・シナトラのカバー曲の境界線にYaffleがとても頭を悩ませていて、どうしたらいいのか最後まで考えている中で、家に呼ばれて、「MCしてくれない? これを入れたら素晴らしいアルバムになると思うんだよね。こうやることで高岩遼のよさが生きる」と言われて、彼のアイデアで加えました。

――実際のライブでもこういう感じで喋って歌っていく流れなの?
T:僕のジャズのライブは結構こんな感じですね。

――楽しそう! シナトラのカバー曲もとても良かったです。
T:ありがとうございます。

地元の神社に参拝した時の音から始まる、人生を詰めたアルバム。

――いままで以上に歌詞に自分を表現したくて、家族のこともアルバムに収録したかったとか。
T:そうですね。横浜から宮古に引っ越したんですけど、Yaffleとディレクターと僕とで地元へ行って。1曲目の「Black Eyes」のオープニングはよく行っていた神社で参拝した時の音から始まっているし、途中で鳥の鳴き声が入りますけど、あれも3人で舟に乗ってフィールドレコーディングしたもの。3人でご飯を食べている時に「お母さん録音しますね」ってYaffleが自分の自宅で録った母親の声も入っています。そのアイデアもYaffleで、すごい引き出してくれて。

――占い師の話も入っているし、高岩遼のストーリーがとても感じられる内容ですが、最後はどのようにまとめたかったの? 「場所変えたい」といったレコーディグ中の声も入っているし。
T:最後の曲「My Blue Heaven」は、ビッグバンドのメンバーとではないんですね。橋詰大智という大学の同期がいて、僕の中で彼はキング・オブ・ジャズマンで、彼とジャズを広めるべく、いろんなジャズクラブでトリオでやってきたんですけど、「そのピアノトリオでやりたい」と提案をして、ボーナストラック的なノリで、歌も含めて全部1発録りの音源を入れたかったんです。最後はリスペクトのあるジャズでまとめるという。マイクの位置をずらしたいという話は現場でしていて、その時の声ですね。

――まさにライブな感じで。
T:そうですね。この歌は“私のお家”という意味なので、「最後は家に帰ってゆっくりしたいよね」っていう地元への愛みたいなものを詰めたつもりです。

誰もが考えなかったスターになりたい。

――高岩さんのことは、2年前にSANABAGUN.の一員としても取材していますが、この10年間、やりたいことを実現するためにどのように進んでましたか?
T:そうですね。割と僕、突発的に何かやりたいと思ったら、その瞬間に電話して仲間を集めて、「こういうことをやりたいんだけど、やらない?」って誘うんですよ。なので、それがそのままSANABAGUN.、THE THROTTLE(ザ・スロットル)、SWINGERZ(スウィンガーズ)、KMKという形になり、ただ、いろいろ動き出してから自分の中でのしがらみみたいになってきたんですよね。

――いつ頃から?
T:25歳を超えてきたあたりで。“二兎を追う者は一兎をも得ず”という言葉もありますが、ひとつのものを追っていく強さは大事だなというか、器をたくさん作っているので高岩遼のイメージが、薄れていくというか。パキッと「こういう人です」と、世の中にわかりやすく提示すればいいものを、たとえばラップをやりつつ、ロックンロールをやりつつ、かたや表現者として劇団みたいのをやりつつ、来たので。僕はいろいろ興味がある分、それで悩んでメンバーにも迷惑をかけたり……。

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男気があり、フレンドリーな性格も人気の要因のひとつ。

――仲間をとても大事にする性格ですしね。
T:はい。

――そこから満を持してソロという流れになったのは?
T:何度か訪れていたんですけど、でも兄弟たち、バンドメンバーたちがいますから。みんなが力を貸してくれているのに、「じゃぁ、ソロをやるわ」っていうのは愛されていかない男というか、カッコ悪いじゃないですか。バンドのストーリーをしっかり作るために路上ライブをやったわけですし。それでいま、バンドの輪郭もできてきたタイミングで、「ソロを出さないの?」って今作のディレクターから打診されたので、「ソロをやるんだったらビッグバンドじゃないとやらないよ」と話して、それでできるとなったので、話が進んだわけです。

――高岩さんはステージでの印象とは違って、あまり自分の思っていることを饒舌に話す方ではないですよね。
T:そうです。実は割と無口なんですよね。

――「Try Again」という曲では“敵は自分”“仲間を信じてる”と歌っていますが、アルバム全体として何かメッセージはありますか?
T:唯一メッセージがあるとしたら、「リアルであり続けろ」ですね。自分にはその一瞬一瞬を生きている感が凄くあって、自分がちっぽけだとかなり感じているんで、自分と戦いながら生きているんです。ただ、歌手としての存在というか、誰もが考えなかったスターになりたいという、自分が目指しているものはこの10年間一切揺らいでいないですね。僕は遅咲きだと思っているので、そこは焦っていないし。

ビッグバンドを率いて東京ドームでライブをやりたい。

――10年後のイメージはありますか?
T:この10年の中で、ビッグバンドで東京ドーム公演をやりたいですね。なかなか見れないよね、という状況を作らないと。あと器量とか含めて、ビッグバンドが似合うような男になりたいです。あとは、基本的に敵は自分しかいないと僕は思っているので、「ちゃんとやれよ」って言い続けるしかないというか。

――「Till I Die (Intro)」、カバー曲の「I’m Gonna Live Till I Die」の流れの中で、占い師にあなた35歳で死にますよって言われて、“だったら死ぬまで生きてやるぞ”って語っていますよね。こんな自分だけど、死ぬまで向き合っていくぞ、っていう感じ?
T:そうですね。「現状に常に我慢しないでおく」っていうことですかね。いつの日か、人は絶対奢ってしまうはずなので。そうすると目標がなくなるなずなので。僕は今は凄く下積みを味合わせてもらっているから、これが糧になって、いつか大爆発する瞬間がやってくると思って、前に突き進んでいます。

――一度高岩さんのパフォーマンスを観たら、絶対にみんな虜になると思うんですよね。歌や声はもちろん、生まれながらのスター性を兼ね備えていると思うので、応援しています。突き進んでくださいね。

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ソロ・デビュー・アルバム『10』。

アルバム・リリース記念ライブ『10』
2018年12月12日(水)
開園:19時(開場18時15分)
会場:渋谷CLUB QUATTRO
価格:¥4,000+1ドリンク(前売り)
高岩 遼(Vo)、Yaffle(Prog、Key)に加え、総勢17名のビッグバンドがステージに立つ。


高岩遼の情報はコチラ

*To be continued

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ストリートから磨き上げた個性派集団SANABAGUN.

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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