新世代ミュージシャンに注目! #02 ストリートから磨き上げた個性派集団SANABAGUN.

Culture 2016.09.30

ジャズにヒップホップなどをミックスさせたSANABAGUN.は、ユニークな集合体だ。ヴォーカルの高岩遼を軸に徐々に今のメンバーが揃ったが、それぞれが別に好きなことを個々にやっているために、バンドを結成したという意識はなく、自営業の8人が集まったような形態という。

SANABAGUN.は、個々に活躍する8人が音楽を楽しむ場

今回インタビューしたのは高岩遼(Vo)、髙橋紘一(Tp,Flh)、小杉隼太(Ba)の3人。「もともと“バンド組もうぜ!”みたいな、バンド思考があまりないですね。バンドって意識は今もあんまりないし」(髙橋)、「始まり方が段々だったから。“よし!活動スタート!”みたいな感じではそもそもなくて」(小杉)と話すように、気の置けない仲間が集まるに従って、SANABAGUN.の音楽性も明確になっていった。ストリートでの演奏から始まり、インディーズを経て、現在はメジャーシーンへ登場。ストリートで培われたパフォーマンスは誰もが楽しめるエンターテインメント性の高いものであり、常に進化しているその音楽性からも目が離せない。

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左から、隅垣元佐(Gt)、澤村一平(Dr)、櫻打泰平(Key)、高岩遼(Vo)、岩間俊樹(MC)、谷本大河(Sax,Fl)、小杉隼太(Ba)、髙橋紘一(Tp,Flh)。

高岩は、22歳の頃にフランク・シナトラのような音楽をやりたくてビッグバンドを結成。そこに参加したのが髙橋と谷本大河(Sax,Fl)だった。ただ、中学高校生の頃はB-BOYな面もあったため、それを形にすべく、次なるバンド、高岩遼ヒップホップサイドをスタートさせた。

「2012年の11月頃でしたね。そこから彼らもブラックミュージックやヒップホップが好きだったので、“そういう音楽をやろうぜ”って話になって。スタンダードばかり歌っていても日本のジャズの界隈というものがすごく小さくて、僕らが夢見ているスターダムに絶対にそれだけではいけない。それだったらオリジナルで面白いことやって“アメリカを倒しに行こう”みたいな心持ちで、高岩遼ヒップホップサイドができて。ただ、クルーとかポッセみたいな部分にすごく憧れていたので、“チームみたいにしようぜ”ってなって、2013年の2月ぐらいにSANABAGUN.と名前をつけたところで始まりました」(高岩)

「居酒屋JAZZ」 1stアルバム『メジャー』に収録。

その時はまだ髙橋と谷本と澤村一平(Dr)しかいなかったが、知り合いのミュージシャンに声を掛けてセッションするうちに、徐々に今のメンバーが集まっていった。そうするうちにSANABAGUN.のスタイルが出来上がっていく。

「最初はジャズのスタンダードをヒップホップアレンジみたいな感じでやってたんですけど、日本語としてオリジナルが欲しくて。僕はラップもできますけどラッパーではないので、古くから友達の岩間俊樹に“ラップしてくれないか”って頼んでから、オリジナルみたいなのができていきました」(高岩)

最初の頃にできた曲にはジャズ色が強く、「里」にはレイ・チャールズの歌でも知られる曲「ジョージア・オン・マイ・マインド」、「さっちゃん」は、ジャコ・パストリアスで知られるスタンダード曲「インヴィテーション」が挟まれているなど、凝った作りになっている。

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ヴォーカリスト、高岩遼

最新作は歌を重視して、わかりやすさやユーモアで

通称赤盤のメジャーデビューアルバム『メジャー』で2015年にデビュー。それに比べると最新アルバムの『デンジャー』はバラエティに富んだ内容になり、曲も歌の内容も間口が広がった。その理由について説明してくれた。

「まずメジャーからデビューし、僕らが思ってた以上に現実は厳しかったみたいなことを思わせられて。それまでのアルバムはラップがメインで僕がちょっと歌うみたいなバランスだったけど、ビクターのチームと話してて、今回のアルバムのコンセプトとしては“高岩が歌メロをちゃんと歌います”みたいな感じになったんです。曲で言えば、今までもっとジャズの延長戦でジャムって細かい構成とか考えつつも、あまり堅苦しく決めずに作ってた曲ばかりだったので、今回は頭を悩まして、よりヒップホップライクなトラックのような音源でカッコイイものを作ることにしました」(高岩)

「今まで体力しか使ってなかったんですよ多分。今回は頭も使ってみたっていう(笑)」(髙橋)

「もう実家帰りなよ」 SANABAGUN.路上限定アルバム”マイナー”(通称:緑盤)に収録。

『メジャー』で言えばリリックもシニカルで、SANABAGUN.的な主張やスタイルが強く出ていたと思うが、今回はヒップホップを普段聴かないお客さんも入りやすい作風で、一人でも多くの人に聴いてもらいたいという姿勢が感じられる。

「その通りですね。分かりやすさみたいな。それもまた僕らの中でSANABAGUN.がシンプルなことをやってることが皮肉みたいな」(高岩)

「サウンドもわかりやすい感じになったし」(髙橋)

中でも意外だったのが「Mammy Mammy」。この曲だけ聴いたら、SANABAGUN.とはわからなかったかもしれない。

「僕らは変な話、9割ユーモアでやってるところがあって、今回収録されている曲『メジャーは危ない』の方向性の違いにしても全部考えられる範囲の中でやっている。カンガルーのお腹のポッケは意外と実は超広くてみたいな、その中の一部な感じなんです」(高岩)

「なので今回は遼を歌わせようってコンセプトだったから、俊樹が少ない出番の中で『ア・フォギー・デイ』ではあいつなりにラップでどうパンチを、爪痕を残すかって考えてたんじゃないですかね」(小杉)

実際手ごたえはあり、新しいお客さんが増え、アルバムもより多くの人の手に届いているという。

「Mammy Mammy」 2ndアルバム『デンジャー』からのリードトラック。

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アンダーグランドでもオーバーグラウンドでも評価されたい

SANABAGUN.の魅力を直接的に楽しめるのは、何よりライブパフォーマンスだ。高岩遼はスター性抜群のエンターテイナーだし、メンバーもそれぞれいいキャラ持っていて、ヴィジュアル的に8人全員が絵になる。フリースタイルのラップでバトルするTV番組が話題になるなど、ヒップホップ人気はポピュラーになりつつあると言っても、まだやっぱり少しマイナーなイメージがある。立ち位置でその捉え方はさまざまだが、ストリートでコアに活躍してきたSANABAGUN.が大衆に向けて聴きやすいアルバムを発表したことは、今後さまざまな音楽が交わっていく意味でもとても貴重なことに思える。

「そうですね、“何でも経験して爆発的に売れて(日本)武道館まで行きました”という人が、“今はアンダーグラウンドでやってます”というのはカッコイイと思います。確かに“アンダーグラウンド=カッコイイ”みたいな感じはあるけど、“オーバーグラウンドに行ったことないくせに、何言ってんだよ”って思う。もちろんアンダーグラウンドにいられない人、行きたくない人もいるでしょうけど。ヒップホップはアンダーグラウンドなイメージがありますけど、そこにしかいられないのはダサい。俺は“今の音楽シーンを変えたい”とかはないけど、普通に“この音楽で売れたいな”と本気で思いますね。みんなが今後の音楽みたいな物をわかってくれるようになればいいな、とか。SANABAGUN.がこの音楽性で売れたらめっちゃかっけえわ〜、とか」(髙橋)

「そうなったら嬉しいですね。あと(音源を)作るのはいいんですけど、単純にもっといい作品を作りたいって気持ちより、もっといろんな人の前でライブをしたいっていう気持ちの方がデカイです」(小杉)

「 板ガムーブメント~SANABAGUN. Theme~BED~居酒屋JAZZ」Live @ スペースシャワー列伝第130巻~桃源洞裡の宴~

やはりミュージシャンにとって、生演奏を聴いてもらうのが最高の場。今は音源が売れなくなっていることもあって、より集客力が求められるが、その基盤となるのは楽曲と演奏力だ。SANABAGUN.はストリートライブで鍛え上げてきただけに、その心配は全くない。そして、その時の苦労と経験が今を支えている。

「ストリートをやって糧になったのは、“音楽的に”じゃなくて、マインドの共有として、この8人でまだ23歳くらいの頃にあんだけ苦しい思いしながら人に見られて何かをやったっていう経験。部活みたいな感じだったね。もちろん音楽を楽しむっていうのもあったけど、金のためとかもあったしね」(髙橋)

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音楽がすべてではなく、人としてこう在りたいという姿勢を重視

ただ、8人全員に“有名になりたい”という思いが共通してあるわけではないらしい。冒頭に書いたように、まずはそれぞれが自立していてSANABAGUN.に依存していないのが大きいし、喧嘩することも少ないという。

「ここは拠り所ですね。俊樹はラップでなんか別の活動を始めたし、一平は一平でドラムでひとりでやってたりしてるし。紘一はDJやったり、服が好きだからそういう仕事もしている。だからみんなが各々自分の夢があって、音楽がすべてとかじゃなくて、人としてこう在りたいという姿勢をまっすぐ持ちつつ、SANABAGUN.をやってるって感じ。結局それぞれが(他の活動もしながら)大きくなったら、SANABAGUN.が凄いバンドになるわけで、っていう話で」(小杉)

「“俺の人生すべてがバンドにある”みたいな人がいないから、ある意味でいい距離感でみんなでやってるのかなって思う。だから音楽がなくても普通に親友。喧嘩してSANABAGUN.はなくなりました、みたいなのは多分ないと思う」(髙橋)

「人間」 1stアルバム『メジャー』からのリードトラック。

最後に高岩が、このバンドをどういう方向に持っていきたいかを語ってくれた。

「自分が夢見ているSANABAGUN.像は、俺らがじいさんになった時に、テレビを見ている人が “あいつもSANABAGUN.出身なんだ、スゲェ!”、みたいになったらいいという。単純に俺はスーパースターになりたい。ただ俺が目立つものを作ったとすればそこでおしまいで。それ以上の情けや思いがSANABAGUN.にも(別に活動している)THE THROTTLEにも入ってるし、この活動をすべて売らないと俺はスーパースターにならないので、命がけでSANABAGUN.を売るっていうことをやらないといけないんですけどね」(高岩)

プロフィール

ストリートにジャズのエッセンスを高い演奏力と共にちりばめ、個性とセンスを重んじて突き進む、メンバー全員が平成生まれのヒップホップチーム8人組。岩間俊樹(MC)、高岩遼(Vo)、隅垣元佐(Gt)、澤村一平(Dr)、櫻打泰平(Key)、谷本大河(Sax,Fl)、髙橋紘一(Tp,Flh)、小杉隼太(Ba)。ストリート、インディーズ時代の活動を経て、2015年10月に1stアルバム『メジャー』で、メジャーデビューを果たす。最新作は16年7月発売の2ndアルバム『デンジャー』。
http://sanabagun.jp

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最新作のセカンドアルバム『デンジャー』

今後のライブ予定

10/1 「危ないTOUR」@渋谷CLUB QUATTRO (SOLD OUT)
10/9  FM802 MINAMI WHEEL 2016@大阪・ミナミエリアライブハウス
10/14  WESS・FM NORTH WAVE共催「FONS 4up」(find out new sensation)@DUCE SAPPORO
11/25(金)  Have a Nice Day! 「The Manual」リリースパーティー@大阪・味園ユニバース

 

photos : KO-TA SHOJI, text : NATSUMI ITOH

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