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スパイク・リー監督入魂の、社会派エンタメ映画『ブラック・クランズマン』

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今回のアカデミー賞は、多民族から形成された本来あるべき姿のアメリカ合衆国らしく、各国のさまざまな関係者が受賞していた。なかでも最も感動したシーンのひとつは、スパイク・リー監督が『ブラック・クランズマン』で脚色賞を受賞し、壇上に登場した時だ。

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(写真左から)潜入捜査をするフィリップ(アダム・ドライバー)とロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)。

■先にアカデミー名誉賞を受賞していたリー監督が、待望の脚色賞を受賞。

スパイク・リーは、アフリカ系アメリカ人の映画監督の先陣としてだけではなく、巨匠と呼ぶにふさわしい活躍をしてきた。しかし、『ドゥ・ザ・ライト・シング』が1990年に脚本賞にノミネートされ、『4 Little Girls』(日本未公開)が1997年に最優秀ドキュメンタリー映画にノミネートされるなど、いく度か候補に挙がってはいたもののアカデミー賞の受賞経験はなかった。

2015年には名誉賞を獲得したものの、俳優部門の候補者20名が2年連続で白人のみだったことを理由として、授賞式を欠席。それゆえ、今回はリー監督が授賞式の会場にいることだけで感激しているプレゼンターがいたほどだ。今回の5度目となるノミネートでようやく受賞。出席者が皆スタンディングオベーションし、壇上の彼を讃えていた光景がとても美しかった。

受賞スピーチでは、監督の祖母は奴隷の娘だったにも関わらず、名門女子大学を卒業し、しかも約50年間の年金を貯めて監督をニューヨーク大学(NYU)の映画学科に進ませてくれた話をしていた。リー監督は、最初にマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の母校であるアフリカ系アメリカ人の名門モアハウス大学に進み(賞のプレゼンターを務めた俳優サミュエル・L・ジャクソンは大学の先輩)、そこからNYUへ進学している。

■学生時代から、論議を醸し出す社会派の映画を撮り続けてきた。

有名なエピソードとして、監督はNYU在学中に、白人至上主義を讃えた有名な映画『國民の創生』(1915年)のリメイクをアフリカ系アメリカ人の監督が任されるという内容のショートムービー『The Answer』(1980年、日本未公開)を製作し、学内で大問題になったことがある。当時からずっと人種問題をテーマとした社会派の映画を作り続けてきたのだ。

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演技指導をする名匠スパイク・リー監督(写真左)

スピーチの最後で2020年に迫っているアメリカ大統領選挙について言及し、「愛と憎しみの間で、道徳的な選択をしましょう」と、『ドゥ・ザ・ライト・シング』にかけて、“Let’s do the right thing!(正しいことをやろうぜ!)”と呼び掛けていたのも心に響いた。とにかく、長年待たれた受賞だったのである。カメラが途中でジョン・ルイス下院議員を映していたのも、受賞の意義を深めていた。

私はパブリック・エナミーを主題歌に起用し、人種間の対立と暴動を描いた『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)を筆頭に、『モ’・ベター・ブルース』(90年)、『ジャングル・フィーバー』(91年)、『マルコムX』(92年)……と、斬新な音楽センスと合わせて社会に対し警告を続ける作品に刺激され、当時は新作が公開されると直ぐに映画館へ行っていたし、ニューヨークへ行った時には彼が設立した映画制作会社「40 Acres and a Mule Filmworks」のショップへ行き、ロゴが入ったキャップを購入したものだ。受賞のシーンを見ていて、当時の興奮がよみがえってきた。

■実話を基にした、潜入捜査を扱ったクライム・エンタテイメント。

『ブラック・クランズマン』のストーリーは以下の流れだ。コロラドスプリングスの警察官になったアフリカ系アメリカ人のロン・ストールワースが、白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)に潜入捜査を行うべく、新聞広告に掲載されていたKKKのメンバー募集に電話をかける。言葉巧みにしゃべって幹部に気に入られるが、自分が会いに行くわけにはいかないので、同僚の刑事フリップ・ジマーマンに対面する役を依頼する。つまり、電話役はロン、KKKと行動するのはフリップという、ふたりでひとりの人物を演じることになる。しかし、メンバーのひとりがユダヤ人も殺しかねない狂信的な白人至上主義者で、入会儀式を前にして実はユダヤ人であるフリップの身も危なくなる……。

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ふたりでひとりの人物を演じるため、しゃべり方などの打ち合わせを念入りに行う。

原作者の名前は、まさにロン・ストールワール。実際に1978年にコロラドスプリングスの警察署で初めて黒人の刑事として採用され、KKKの潜入捜査を行った時の回想録が題材だ。監督はそこに大胆な脚色を加えている。原作は未読だが、映画では時代設定を実際の1978年からブラックパワー全盛期の1972年に変えたほか、さまざまな要素を絡め、最初から最後まで緊張感あふれる展開になっている。シニカルなユーモアに加え、誰でも楽しめるエンタメ性も欠いていない。

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人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クランの入会儀式の場面。

■最後に流れるプリンスの歌が心に沁みる。

しかしながら、冒頭の仕掛けは元より、ラストに畳み掛けてくる現実こそがリー監督がストレートに伝えたいことだろう。言葉を失うほど圧倒され、さらにエンドロールに流れるプリンスの「Mary Don’t You Weep」が沁みる。この歌は、希望と抵抗の意味を込めた奴隷のための黒人霊歌として古くから歌われてきたもの。アレサ・フランクリンの歌でも有名だが、今回プリンスが1983年にミネソタにあるホームスタジオでカセットに録音した音源を使用していて、締めにふさわしい世界を演出している。

同じくアカデミー賞で話題を集めた『グリーンブック』と、今回の『ブラック・クランズマン』とは、同じ人種問題を扱う映画として共通点がある。どちらも勇気ある行動をとった実話を基に製作され、前者は公民権運動が盛んだった時期、ワシントン大行進の前年の1962年が舞台だ。しかもアフリカ系アメリカ人と白人がバディを組んで展開するストーリーで、片方にさらなるマイノリティの要素が加えられている点も同じだ。当時の現実から目をまったく背けていない一方で、ウィットに富む笑いも含めている。しかし、監督の先祖や自身が実際に差別を受けてきたかどうか、という点から、根底にあるメッセージは同じでも、作品から感じ取る叫びの度合いは異なる。

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主演のジョン・デヴィッド・ワシントンは、リー監督の盟友である俳優デンゼル・ワシントンの息子だ。

アメリカ合衆国のネイティヴィズム(移民排他主義)やヴィジランティズム(自警主義)について調べていくと、自警団や、そこから発展したKKKなどの人民主義や地元主義から生まれる暴力は、正義という名の下で残虐になるばかりで、見ていられない写真が数多あった。『ブラック・クランズマン』にはそのようなシーンはないものの、KKKの狂信的な信者や、『國民の創生』を会員全員で見ているシーン、そしてリー監督が挿入した現実の映像などから、いまも終わらない恐怖を目の当たりにした。

今年のグラミー賞では、チャイルディッシュ・ガンビーノの「This is America」が主要部門ふたつを加えた計4部門受賞と高く評価されたこともあって(これについては次回紹介)、ハードな内容のこの映画が作品賞を受賞するかと思ったが、そこまでは難しかったようだ。最後には心温まる『グリーンブック』と、最後に現実を突きつけてくる『ブラック・クランズマン』は、共に今年を代表する傑作。ぜひ、2作品セットで観ることをオススメしたい。

ブラック・クランズマン

●3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
●監督・脚本/スパイク・リー 
●製作/スパイク・リー、ジェイソン・ブラム、ジョーダン・ピール
●出演/ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィンほか
●配給/パルコ 
●2018年 アメリカ映画
https://bkm-movie.jp
(c) 2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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