Music Sketch

サントラも秀逸、『パリに見出されたピアニスト』

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ピアノを弾くことが好きでたまらない青年が主人公だ。ただ、クラシックの名曲を演奏するピアニストというと、どこかフォーマルな出で立ちの人物を頭に浮かべそうだけれど、この主人公マチューは違う。裕福ではない家庭に育ち、普段からフーディと革ジャンの重ね着にスニーカーという服装で過ごす。ラップを聴いている遊び仲間にはクラシック音楽が好きなことを隠しているが、家にピアノがないことから、パリの北駅に置いてある誰でも自由に弾くことができるピアノで演奏する時間をとても大切にしていた。

190926-A-MAIN.jpg主人公マチューを演じる、21歳のジュール・ベンシェトリ。

■舞台はパリの北駅と名門音楽学校コンセルヴァトワール。

そんな彼の才能を見抜いたのが、パリの名門音楽学校コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)でディレクターを務めるピエールだった。ピエールは、どうしても自分の果たせなかった夢を彼に託したく、多くの反対を押し切り、“女伯爵”の異名を持つピアノ教師エリザベスにマチューのレッスンを依頼する。

何かを抱えて生きているのはマチューだけではない。登場人物のいろいろな思惑が交錯しながらストーリーは展開していくが、奇をてらった出来事というより、なるべくしてなるようにして物事は流れていく。たとえば、マチューに部屋が与えられたら、そこが所有者にとってどんなに大切な部屋であろうと、ガールフレンドを誘い入れてしまうように。

190926-B-SUB1.jpg写真左から、マチューの才能に惚れ込んだピエール(ランベール・ウィルソン)、マチュー、そしてピアノを指導したエリザベス“女伯爵”(クリスティン・スコット・トーマス)。

撮影のロケーションに使われたのは、日本人建築家、坂茂が手がけたラ・セーヌ・ミュージカルをはじめ、クラシック音楽の殿堂サル・ガヴォー、人気スポットであるサン・マルタン運河沿いのエリアや、ノートルダム大聖堂など。まるで観る側もそこに一緒に居るかのようにして、彼らの日常が描かれている。

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■スコアを担当したのは、新進気鋭のアリー・アローシュ。

マチューの心情を表出していくのは、バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻第2番 ハ短調 BWV.847」、ショパンの「ワルツ 第3番 イ短調 Op.34-2」、ショスタコーヴィチの「ピアノ協奏曲 第2番 へ長調 Op.102」、リストの「ハンガリー狂詩曲 第2番 嬰ハ短調」といった楽曲。そしてコンクールに参加するためにピエールが課題曲に選んだのは、抒情的に始まりながらドラマティックに展開し、感情の高ぶりと合わせて超高度な技術を要求されるラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18」だ。

そのいっぽうで、劇中に流れているサウンドトラックもとてもいい。映画音楽を手がけているのは、パリ生まれの若きピアニスト、作曲家、プロデューサーであるアリー・アローシュ。14歳の時にロックバンドでドラムを叩くようになったのが音楽キャリアの始まりだが、その後はこの映画の舞台となったコンセルヴァトワールで作曲を学ぶ。2017年からはパリにある私立文化施設シネマテーク・フランセーズで無声映画の即興演奏を手がけるなどし、同年にドキュメンタリー映画『Le cinéma dans l’oeil de Magnum』で初めて映画音楽を担当。今回がオリジナルスコアとして2作目となるが、「Mathieu」や「New York」といったアルバムを占める繊細な小品にも彼自身の演奏にも、安堵感をもたらす優しさや美しさがあふれている。

190926-MAIN.jpg『AU BOUT DES DOIGTS(ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK) 』(輸入盤発売中)

資料によれば、マチュー役のジュール・ベンシェトリのピアノを指導したのは、現在イシー=レ=ムリノー音楽院でピアノ指導も行っているピアニスト、ジェニファー・フィシュ。サウンドトラックには、劇中でも流れたフィシュの演奏そのまま、バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻第2番 ハ短調 BWV.847」とラマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18」が収録されている。

最後に、誤解を恐れずに書くと、終盤は映画『セッション』に似た緊迫感を感じられた。もちろん、ストーリーの展開も主人公と指導者との関係性も違うけれど、それに近いドキドキ感が迫ってくるのだ。また、ストリートでたむろする若者を描いていることもあり、スクリーンには今風の音楽や、ピクシーズの名曲「Where Is My Mind?」がアレンジされて流れ、クラシック音楽の魅力もポップミュージックの魅力も体感できるようになっている。芸術の秋に、オススメしたい映画のひとつだ。

『パリに見出されたピアニスト』

●監督/ルドヴィク・バーナード
●出演/ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、ジュール・ベンシェトリ
●2018年、フランス・ベルギー映画
●106分
●配給/東京テアトル
●9月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開
https://paris-piano.jp

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

*To Be Continued

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伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。2018年より日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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