Music Sketch

奇跡の50歳、J・ロペスのパワーをもらえる『ハスラーズ』

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この2月2日にマイアミで開催されたNFLのスーパーボウルのハーフタイム・ショーで、シャキーラや自分の娘と共演し、大成功を収めたジェニファー・ロペス。2019年のグラミー賞授賞式でのモータウン・トリビュートで、ラテン系の彼女が舞台の主役を務めたことで批判的な意見も飛んだが、彼女は気にも留めなかった。モータウンの音楽が大好きなことに自信はあるし、誰よりも歌って踊れる自負もあった。その背景には映画『ハスラーズ』の存在もあった。昨年のグラミーの頃には、アメリカでの映画公開(2019年9月)、そしてハーフタイム・ショーへの出演に向けて着々と流れが作られていたからだ。

200207-hustlers-a.jpg左から、チームを組むアナベル(リリ・ランハート)、ラモーナ(ジェニファー・ロペス)、メルセデス(キキ・パーマー)、デスティニー(コンスタンス・ウー)

『ハスラーズ』は実話が元になっている。2008年のリーマン・ショック後のニューヨーク・ウォール街で、ストリップクラブのダンサーたちが裕福な男たちからお金を巻き上げる事件があり、監督を担当したローリーン・スカファリアが脚本も書き上げた。

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■ポールダンスのために、シルク・ドゥ・ソレイユのダンサーに師事。

主演はデスティニー(コンスタンス・ウー)だが、ダンサーチームのボスであるラモーナ役には、スカリファ監督は当初からジェニファー・ロペスを頭に描いていたという。そして、ジェニファーはすぐに出演をOKし、さらに作品に強く興味を持ち、製作総指揮にも名を連ねた。そして、監督が大ファンで出演交渉を辛抱強く続けていた、元ストリッパーである人気ラッパー、カーディ・Bを、同郷のブロンクス出身だからと自ら説得してOKをもらう。いっぽうで、ポールダンスを修得するためにニューヨーク、ロサンゼルス、マイアミの自邸に携帯用のポールを持参し、シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーであるジョハンナ・サパーキーから指導を受けてマスターしていった。

ジェニファー・ロペスがポールダンスをマスターするまでの様子。

ジェニファーにこれまで3度取材したなかでいちばんの印象は、彼女は自分を鍛えること、磨くことをとても楽しみながら、徹底的に自己管理すること。「目標達成のためには努力を決して怠らない、完璧主義者なの。地道に努力して克服していくのが好きで、食事制限なんて気にはならないわ」と笑っていたほどだ。たとえば30代後半の頃は、体型維持のために朝食は卵白だけのスクランブルエッグ&コーヒーと決め、アルコールもほどほど。その分、「潤いを保つためにたくさんの水を飲み、肌に刺激を与えたいから、化粧水も定期的に変えているわ」と語っていた。最近の記事を見るとカフェインは控えているようで、さらに健康意識を高めているようだ。

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人気ラッパーのカーディ・B(左)は、彼女が大好きなリアーナの名曲を想起させるダイヤモンドという役名で出演。

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■ラモーナ役にはジェニファー・ロペス自身と重なる部分も。

ジェニファーの意向が強く出たのか、ラモーナには本人と重なる部分が多い。ファッションデザイナーとしても活躍する点もそうだが、特に注目してほしいのは終盤で、エリザベス(ジュリア・スタイルズ)と話す時のラモーナが、取材時のジェニファーを想起させる表情や会話になっていることだ。7月生まれであること、姉妹の話をしていた部分がそうであり(三姉妹の真ん中)、肌を褒めるところもそうである。私も取材中に肌のこと聞かれている。もしかしたら、劇中で娘を思う気持ちにも自分を重ねていたかもしれない。

ジェニファーを語るのに欠かせないのはラテン気質の楽観的かつ情熱的な性格で、それは彼女をいつも明るく輝かせているように感じる。「常に前向きに生きていたいし、私の人生のポリシーは“ラブ&パーティ”よ。私はロマンティックで情熱的、しかも感情的なので、いつもドラマティックな人生を歩んでしまうの」と語っていた。バツ3であることからわかるように恋多き女性として知られ、現在は元MLBの人気選手アレックス・ロドリゲスと婚約中が続いている。ただし、この映画でのラブは、同志である女性たちとの“シスター・フッド”を意味している。

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■シスター・フッドを強調した、女性たちの生き様を描いた映画。

かつてアメリカではシスター・フッドというと、アフリカン・アメリカンの作家トニ・モリソンなどの小説に象徴されるように、弱者の絆のように捉えられがちだったが、昨今はダイバーシティ化しているように感じる。近年、ハリウッド映画は多国籍の多様な人々が出演するようになり、最近は#MeToo運動やLGBTQムーブメントの影響もあるのだろう、『ハスラーズ』も主演のウーは台湾系アメリカ人、ジェニファーはプエルトリコ系、トレイシー役のトレイス・リセットはトランスジェンダーの女優など、多彩な顔ぶれが登場する。さらに、前回書いた“ボディ・ポジティビティ”を提唱するリゾがダンサーとして登場していることも、そのメッセージ性を強めている。

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グラミー賞で3部門受賞するなど人気のリゾは、劇中でも得意のフルートを吹く。アッシャーやGイージーがカメオで登場するシーンもある。

全編を飾る音楽がとにかく楽しいが、ここにもロペスの意図を感じる。オープニングに流れるのはジャネット・ジャクソンの「Control」(1986年)で、ここにはコントロール好きの自身とも重ねているだろうし、仲間と乾杯して絆を深める場面でも同様に「Miss You Much」(89年)を使っている。彼女にとってジャネットはダンスに音楽、女優と多岐に活躍する憧れの人だし、駆け出しだったジェニファーが「That’s The Way Love Goes」(93年)のミュージックビデオで共演できたことへの感謝もあるのだろう。それは、エンドロールで再び「Miss You Much」が流れることでもそれは十分に伝わって来る。音楽からも情の厚さを勝手に感じてしまうほど、ラモーナにもジェニファーにも胸を熱くしてしまうシーンが満載なのである。

個人的には、ラモーナの登場にはフィオナ・アップルの名曲「Criminal」(96年)が、フーディーを被ったラモーナが捕まるシーンにはロードの代表曲「Royals」(2013年)がピタリとハマって鳥肌が立った。

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■ハーフタイム・ショウでもポールダンスを披露。

ゆえに『ハスラーズ』は、50歳とは思えないジェニファーが、自分の魅力である美貌とダンスと姉御肌キャラを前面に出したシスター・フッド映画としてみると、とてもわかりやすい。しかも、そこからスーパーボウルのハーフタイム・ショーでコロンビアの国民的人気シンガー、シャキーラと共演した際のパフォーマンスを見ると、より納得できるのだ。

先日、ジェニファーばかりが助演女優賞を17受賞していて(2月5日現在)、主演のコンスタンス・ウー(18年の『クレイジー・リッチ』の主役で一躍世界的に名を広めた)はご機嫌斜めらしいという噂を聞いた。とはいえ、これは誰が観てもジェニファーのための映画であり、彼女からパワーをもらうために観る映画なのである。

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写真左から、デスティニー(コンスタンス・ウー)とラモーナ(ジェニファー・ロペス)。

『ハスラーズ』
監督・脚本:ローリーン・スカファリア
出演:コンスタンス・ウー、ジェニファー・ロペス、ジュリア・スタイルズ、キキ・パーマー、リリ・ラインハートほか
2019年 アメリカ映画 110分
配給:リージェンツ
2月7日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
http://hustlers-movie.jp

*To be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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