Music Sketch

ティグラン・ハマシアンに衝撃の最新作について話を聞く。

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現代屈指のジャズピアニスト、ティグラン・ハマシアンの最新アルバム『THE CALL WITHIN』がリリースされた。彼のソロ作品『An Ancient Observer』等で展開される郷愁を誘うような孤高の音楽に対し、『Mockroot』等でのトリオ演奏では、プログレッシヴロックやヘヴィーロックの影響を多彩に感じさせるプレイの応酬が白熱する。今回はその双方が融合し、複数の変拍子もフレーズも芸術的に昇華していった内容と言えるだろう。早速メールインタビューをお願いしてみた。

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アルメニア出身のジャズピアニスト、ティグラン・ハマシアン。現在はロサンゼルスとアルメニアを行き来して活動している。

今回はリスナーに衝撃を与えるような曲から始めたかった。

――アルバム『THE CALL WITHIN』は聴き進めるほどに予想のつかない展開が繰り広げられ、さまざまな感情が呼び起こされます。高みを目指していくような、このようなアルバムをあなたが作ろうとしたモチベーションは何だったのですか?

ティグラン・ハマシアン(以下H):私が作曲したり、アルバムを作ったりする時に課題にしているのは、音楽を個人的なものにすることと、新しい発見の地平線へと自分自身を常に押し上げていくこと。そして作曲家、演奏家としての自分の立ち位置に関して、正しいと感じていることに忠実であり続けること。 私のすべてのアルバムにはある種の連続性があり、多くの曲の内容は、何年にもわたってアイデアを練り上げてきた作業の進歩の結果です。たとえば、「Vortex」という曲のメロディーの半分は、私がまだ大学にいた2005年に書いたもの。これを発展させるのには数年かかって、ようやく2年前に「この曲を完成させて世界に発表することができる」と確信しました。

――アルバムのコンセプトはどこから浮かんだのですか? また、アルバムの核となる、最初に完成した曲はどれですか?

H:アイデアは、私のトリオのために書いた曲を中心にしたアルバムを作ることでした。私はストーリーを語るのが好きで、物語性のある音楽が好き。宗教音楽や、バリー・ハリス(アメリカ・ミシガン州デトロイト出身のモダンジャズ・ピアノ奏者)が「あらゆるフレーズは話すようなものであり、作曲は物語を語るようなものだ」と説くビバップがそうであるように、音楽が物語を語るひとつの方法であった頃にさかのぼっています。だからこのアルバムの場合、すべての曲に物語性があり、曲の背後にストーリーがあります。ただ、「Vortex」の例を挙げたように時間をかけて書き上げた曲があるから、どの曲が最初とは言い切れない。いちばん古い内容は 「Vortex」だと思います。

――最初の曲「Levitation 21」は複雑なリズムが絡み合う激しくも美しい楽曲です。どのように作っていったのですか? また、アートワークに載っている詩も素敵で、あなたはいつも言葉を書き留めているのでしょうか?

H:この曲は実際にはスタジオに入る2週間前に3、4日で書けました。普通は書くのに時間がかかるんですけどね。でも、こういうことが起きて、すぐに形になって完成していくのは好きなのです。今回のアルバムは、いくつかの曲の中でアルバムの世界観の洞察を深めるために詩を書いた、初めての作品。詩は音楽と非常に繋がっていて、特に「Levitation 21」は曲のリズムに基づいています。

――曲順はどのように決めていったのですか?

H:アルバムのプロジェクトにはそれぞれの世界があるので、そのタイプによって曲目の決め方が変わってきます。今回はリスナーを捉えてすぐさま衝撃を与えるような曲から始めたいと思っていました。たいてい私は、アルバムの中にクライマックスをふたつ作るようにしています。中盤にひとつ、最後に向けて別の大きなものをね。多くの場合、激しい曲と穏やかな曲とのバランスを取るようにしていますが、今回のアルバムは特にハードな曲を続けて収録しているところもある。私はこういうエネルギーの連続性がある演奏が好きなんです。

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音楽、芸術、舞踊、建築、詩、自然などはすべて繋がっている。

――この圧倒されるような音楽に適したアートワークも素晴らしくて、印象深いです。ナナ・チチュアにデザインを依頼した理由と、その際にあなたの方で何かリクエストをしたのか教えてもらえますか? 写真を撮ったのはあなたの奥様ですよね?

H:アルバムのビジュアル面について数カ月ほど考えた後、このアルバムには新たに創られたビジュアルの世界が必要だという結論に達し、コラージュのアイデアが浮かんできました。妻と話していた時に、妻がロサンゼルスのジュラシックテクノロジー博物館(本当に素晴らしい博物館ですよ)で出会ったグルジアの素晴らしいアーティスト、ナナ・チチュアを知っていて、彼女なら私が話したこの世界を創れるだろうと言ってくれたのです。

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ナナ・チチュアによる『THE CALL WITHIN』のアルバムジャケット。中のブックレットも全ページが非常に凝った作品になっている。輸入盤で発売中。

――ロサンゼルスで知り合ったのですね。

H:そうです。こうして私と彼女は会い、何カ月もの作業を経て、『THE CALL WITHIN』の世界を創作しました。ナナはアルバムに収録されている各曲のストーリーと世界を表現するために10以上のコラージュを創作してくれました。これらの作品を制作する過程で、私たちはこのコラージュをアニメーション化しようと話し合っていて、ウェイド・アイビーが彼の素晴らしいアニメーションでこれらのコラージュを新たな次元へと増幅させてくれました。そうそう、ナナが使った写真は妻が撮ってくれました。ナナがディレクションして、特別に撮影をしました。

――この「The Dream Voyager」のミュージックビデオもとても好きです。この曲は“夢の中で行ったことのない場所を見る能力を持つ”というあなたの父親へ捧げた曲だそうですね。あなたにどのような影響を与えた人なのでしょうか?

H:父の影響はとても大きいですね。私が生まれた時からヘヴィーロックやクラシックロックを聴かせてくれました。だからある意味、私の曲の中に聴こえるロックやメタルの影響は、私の子どもの頃の経験から来ているといっていい。

――あなたのウェブサイトに「彼は詩、キリスト教やキリスト教以前のアルメニアの民話や伝説、占星術、幾何学、古代アルメニアの意匠、ペトログリフ(岩面彫刻)、映画撮影術などを探求しています。このアルバムは、歴史的な現実と空想の世界の間の線をブレンドしている」と説明がありました。どのようにブレンドの魔法を使っていったのか教えてもらえますか?

H:私にとって音楽、芸術、舞踊、民芸品やデザイン、建築、詩、自然はすべて繋がっています。動きと歌のない音楽はない(たとえそれがインストゥルメンタルミュージックであっても。補足:楽器が歌っていることだから)。音楽の中で最も古い形式である民族音楽もそうですが、その人々の生まれ育ったその土地や自然、そして彼らの個性が、彼らが作る音楽、彼らが創る建築、彼らが語るストーリーや、絨毯や陶器のデザインといったものを形作っているのです。

トリオのメンバーは、エヴァン・マリエン(Ba)と、これまでもティグランと活動してきたアーサー・ナーテク(Dr)。「Vortex」にはアメリカのテクニカル・メタル・バンド、アニマルズ・アズ・リーダーズのギター奏者トーシン・アバシ、「Our Film」にはフォーク・シンガー/ストーリーテラー/ピアノ奏者のアレニ・アグバビアンと、ティグランと同郷のチェロ奏者、アルティョム・マヌキアンが参加。

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オダギリジョーの映画のために音楽を書いたことは素晴らしい経験。

――話は変わりますが、2018年にあなたの故郷を題材にしたEP 『For Gyumri』を発表しています。穏やかな作品の中に、「Self-portrait」という曲があり、この曲だけ、少し荒々しい筆使いを感じました。でも、これはあなたを描いているのですよね?

H:幼少期の経験は私にとって本当に大切なもので、私が信じているそこで形成されたものは、その後の行動やふるまいとなっています。なので、私は自分を育ててくれた故郷へのオマージュを作りたかった。そうです、「Self-portrait」はアルバムの中で最も個人的な曲ですね。

――昨年はオダギリジョー監督作品『ある船頭の話』(2019年)の映画音楽に携わり、サウンドトラック『They Say Nothing Stays the Same』を完成させました。この仕事はいまのあなたにどう影響していますか?

H:私が本当に好きなのはアートシネマだけなので、オダギリジョーと一緒に仕事をして、この映画のために音楽を書いたことは素晴らしい経験でした。また、観客が本当にそのシーンに没頭できるように、特定のシーンを盛り上げるような、何か個人的なものを書くことも、私にとっては挑戦でした。私はBGMのアイデアが好きではありませんし、そのような音楽を作ることもしません。このアイデアと大きな挑戦は、聴く人にとって個人的な何かになるものを作ることであり、映画がなくても聴くことができて、同時に音楽があることに気付かないようなシーンのために特別なものを作ることでした。

――最後の質問です。ミュージシャンとして、あなたはどのような目標に向かっているのでしょうか?

H:私の目標は、小さな新しい世界をたくさん含むことができる新しい世界を創ることです。

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*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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