Music Sketch

要注目!気鋭のクリエイター集団、ニコニコタンタン。

Music Sketch

最近、幾度もリピートして聴いているアルバムは、ニコニコタンタン(NIKO NIKO TAN TAN:以下ニコタン)の『微笑(ほほえみ)』。玉手箱を開けたようにいろいろなタイプの曲が流れてきて、どれもがツボにハマるし、曲のなかで繰り返されるループが少しずつズレてきて、その違和感から新たな景色が見えてくるのも面白い。音楽だけでも多面的な魅力を持ち合わせているのに、このバンドにはビジュアルチームもいるので、それぞれの曲に動画を作成している。ライブなど音楽面で表舞台に立つオオチャンとアナベベ、歌詞や動画など作成しているサムソン・リーとドラッグ・ストア・カウボーイに話を聞いた。

210304-musicsketch-02.jpg写真左から、オオチャン(Vo, Key, Gt, Samplar, Composition, Lyrics)、アナベベ(Dr. Cho.)。

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種子島でスタートした曲と映像制作。

――結成のきっかけを教えてください。

サムソン・リー(以下S):ちょうど種子島に移住して映像制作をやっていて、音やナレーションを必要としたため、友人のオオチャンに連絡し、種子島での滞在制作を依頼し数日間一緒に制作をしたことがきっかけです。その隙間時間で、「ふたりで何かやろうか」となって。当初は映像と音楽を同軸で作ることができないかとか、東京~種子島の遠隔でやりとりをし、実験的なことをしていました。その過程で作りたい事の幅が増えて、アナベベとドラッグ・ストア・カウボーイを誘い、今の形になりました。

「キューバ。気づき Short.Ver」


――オオチャンさんとアナベベさんは前にも一緒にバンドをやっていましたよね?
オオチャン(以下O):関西で知り合って10年以上一緒に演奏しています。サムソン・リーはアナベベの高校の同級生なんですよ。4人が集まったのは2019年初めくらい。その前から全員顔なじみで、全員同い年という共通点もありました。

――4人は音楽の趣味も共通していたの?

アナベベ(以下A):マーズ・ヴォルタですね。
O:「何だこれは⁉」っていう感じが衝撃で(笑)。

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好みの音を求め、自らシンバルを切ったり、穴を開けたり。

――ライブの映像を見ていたら、シンバルの上に小さいシンバルを乗せていて、ハイハット(ドラムセットのひとつで、2枚のシンバルをセットにして音を鳴らすもの)とは少し違う音を出していますよね。「生まれゆく鮮明脳内」ではとても乾いた音があったり、どの曲を聴いてもドラムの音に非常にこだわっているのが感じられます。

O:アナベベはシンバルを自分で切ったりしているんですよ(笑)。

――えっ!その発想はどこから?

A :シンバルが割れたんです。割れている鐘の音も好きなんですけど、割れたところが擦れ合って鳴らないので、「切ってみたらどうなるんだろう」「穴を開けてみたらどうなるんだろう」となって。それでサンダーでギーッと穴を開けてみたら、音は枯れているけど、音色が復活した。「これ、めっちゃいいわ」ってなったのがきっかけですね。

210304-musicsketch-03.jpgアナべべが望んでいる音が出るように、自らシンバルをカットしたもの。

――「祭囃子鳴っているわ」の“壊したいもの 消したいもの 憂さばらす 状態”あたりのドラムがズラして叩いている感じもすごい好きで。

A :うれしいですね(笑)。あれは同期音を聞きながらではなく、オオチャンが当て振りしていた(頭を縦に振るようにして鍵盤を弾いている真似をする)、その動きに合わせて叩いて録ったんですよ。

――歌を入れる前にドラムを先に録音して、あとから歌詞をつけて歌を録音したという?

O :歌詞も詳細は決まってなかったですね、“祭囃子 鳴っているわ”とか、ワンフレーズは決まっていましたけど。

リンダ・リンダ


――そこが凄いと思って。メロディは覚えやすいのに、そこのズレが一番印象に残っているという(笑)。「リンダ・リンダ」の、間奏含めたドラムの緩急もとても好きですね。

A:めっちゃうれしい。家族がみんな音楽をやっていて、家でイエスとか流れていたんです。なので、子どもの頃からプログレとか聴いて育ったので、ポップスとか聴いてもテンションが上がらない。そういう影響で、複雑というか変なドラムも要素として入れたいという。

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音楽制作ふたりと映像制作ふたりによる多彩な楽曲と動画制作。

――私もプログレ好きです(笑)。このバンドで、音楽面や演奏面で自分の才能がより引き上げられたと感じるのはどのような時ですか?

A:ライブでの即興性ですね。普通のロックバンドのラインとはちょっと違って、曲間とかを切らずにそのまま即興演奏へ持っていって、しかも打ち合わせをしない、ぶっつけでの演奏になっている。

O:歌うことと、これまでやったことのないふたりでのセット。これまではフィジカル的な演奏スタイルだったけど、ここではラップトップをいじりながらやるという、音で見せていく新しいスタイルなので。今後はライブでも映像とミックスさせていきますし。

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ステージに立つ音楽チームのふたり。左から、オオチャンとアナベベ。

――ニコタンを結成したことで、特にやってみたいと思っていたことはありますか?

S : 映像と違って音楽はライブという生モノがあるので、そのライブの中でいろいろ仕掛けたいと思っています。具体的には言えないのですが、特に映像以外の仕掛けを目論んでいます。
ドラッグ・ストア・カウボーイ(以下D) : 無駄遣いできる自由な制作費があれば、もっと大掛かりなおバカ映像を作りたいです。

「パラサイト」

――音楽とリンクさせながら映像ができた例をひとつ挙げてもらえますか?

O:たとえば、「パラサイト」のループ感ですね。いちばん芯の部分はループしていながら、ちょっと景色が変わっていくみたいな。仕掛けのあるような曲を作りたいということで、それに合わせて映像も繰り返しの映像、だけどヴィヴィッドなカオスな感じで景色がどんどん変わっていくみたいな作りにしました。奇妙な感じの世界なんですけど、何かひとつループしていて、また言葉のループ感もあって、という。

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歌詞のアイディアはシナリオハンティングをしながら。

――サムソン・リーさんは作詞をする時点で映像のこともイメージしているのでしょうか?

S : 作詞するときは頭の中でストーリーの映像を浮かべて、字コンテみたいな感覚で文字を起こしています。楽曲によりそのまま映像化したりもしますが、綺麗に収まりが良すぎると壊したくなり、全く違う世界観の映像やまったくベクトルの違う映像を作りたくなるときがあります。映像のアイデアはデモ音源の段階で出したりして、なるべく同軸でアイデアを出すようにしています。

「恍惚と不安 feat. Botani Short Ver.」

――歌詞の世界観にセンシュアル、どこか触れ合っているような、エロティックすぎない程度の官能的な印象を受けました。また、歌詞の主人公にジェンダーを感じさせないなど曖昧な部分であったり、現実と接点がありつつも幻想的な広がりを持たせているように感じたのですが。

S : 当初の歌詞は、自分のキャパの中で書いていたせいで経験値という制限がかかってしまい窮屈になったので、すぐに書き方を変えました。曲を聞いて、主人公を立て、映画のプロット的な物語を作ります。年齢や性別、性格やクセ、季節や場所、過去の出来事など結構細かく設定を組みます。そこから作詞作業を行うのですが、なるべく設定や物語に直接的な言葉を使わず、聴き手の経験値や感覚と交わりやすくなるよう、言葉を選ぶよう心がけています。楽曲の中での詞は韻をふんだり、音の響きや口に出しやすい言葉、文字数の制限や言葉のインパクトが大事になってくるので、そこを気にしながら作詞するのが大変です。センシュアルに感じてもらった部分は、オオチャンが作る音源がそうさせるのかなと思います(笑)。

――歌詞のアイデアはどこから来ることが多いのでしょうか?

S:シナリオハンティングみたいなことはしています。設定組んで、厚み持たせるためにそういう体験をした友人に話を聞いて、こういう時はどうだった? とか取り調べみたいな感じで(笑)。あとは、雑誌とかに載っている一枚の写真を見て、その前後のストーリーを勝手に作ったり。影響を受けているのは70〜80年代の歌謡曲、90〜00年代の日本のTVドラマとか、いまでも見返したりします。監督でいうとヴィンセント・ギャロやハーモニー・コリン、グザヴィエ・ドランとか好きですね。

「東京ミッドナイト feat.ボタニ

――ボーカルの声質から触発されて書いた歌詞はありますか?

S:ゲストボーカルのボタニに歌ってもらった曲全て、声質に合わせて作詞しています。アダルトだけどセンチメンタルな声なので、物語の内容など年齢高めの経験値濃いめみたいな感じで書きました(笑)。オオチャンもボタニの声に合わせて音源を作っていたので、ゲストボーカル曲はそれまでになかったニコタンの世界観に幅をもたらしてくれたと思っています。

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交わらないと思われるものを、あえて融合させて、いい感じに仕上げていく

――どの曲も好きですが、いちばんよく聴くのは「生まれゆく鮮明脳内」です。これは作詞作曲ともにオオチャンによるものですね。

O:歌詞にしても、ちょっと心地いい違和感みたいなものは全部入れたいなとは思っています。「生まれゆく鮮明脳内」という言葉は完全に造語ですけど、意味はないんですよ、そういう言葉がないので。鮮明という明るいイメージと脳内という内なるイメージの、ふたつの違う、交わらないものの融合というのが僕の個人的な音楽のテーマで、言葉にもそういうものを入れています。「ここにコレを入れたらおかしいだろ」っていうのを入れて、「でも、なんかいいよね」っていうものを作っているつもりです。

「生まれゆく鮮明脳内」

――最後に自分の創造性に特に刺激を与えてくれたクリエーターや、いま注目しているミュージシャンがいたら教えてください。

O:ずっと好きなのが、ゲームクリエイターの小島秀夫さん。『メタルギアソリッド』というゲームが中学の時から好きで、総合的ゲームを操作するおもしろさにプラスして、ストーリーや攻略法、音楽も魅力的で、映画の要素プラス自分が動かせるという、「こんなゲームあんねや」って当時思ったんです。
A:ジョジョ・メイヤーというドラマー。あらためて人力ドラムンベースプレイヤーとして、ここまで正確に叩けるのがすごい。いま作っている曲がそういう方向なので、改めて「やっぱりこれや」って思って。
S:映像をやりたいと思ったきっかけはTVドラマ「ケイゾク」(1999年、TBS)で、構成や言葉の選び方に感動したのは千原兄弟の「はじめTOUR 右から2番目の星に住む迷子達の声」のVHSで、羨ましいと思ったのは電気グルーヴのライブです。すべて高校生ぐらいだったと思うのですが、多感な時期に見たものにいまでも刺激を受けています。
D : 特定の人はいなくて、ネットに作品を投稿している人、過去の映画、音楽すべてです。

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『微笑』デジタルダウンロード&ストリーミングのみ

ニコニコタンタン公式HP
www.nikonikotantan.com

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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