Music Sketch

アレサ・フランクリンの1972年のライブが映画に!

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ゴスペル史上最高のライブ・アルバムとして知られるアレサ・フランクリンの『アメイジング・グレイス』(1972)だが、そのパフォーマンスの様子が映画として公開されることとなった。それが、1972年1月13日、14日、LAのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会での様子を収めた『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』である。

こんなにも公開が遅れた理由は、意外なことからだった。撮影したシドニー・ポラック監督は『ひとりぼっちの青春』(1969)などで注目を集めていたが、当時ライブ撮影は初めてだったため、収録後に画像と音声を合わせるためのタイミングの目印となるものを記録していなかった。そのためライブ映像として完成できず、お蔵入りとなっていた。しかし、昨今の最新デジタル技術を駆使することによって、音声と画像を一致させることに成功。29歳のアレサ・フランクリンの、幼少期から父親の教会で歌ってきたという真骨頂のパフォーマンスを目の当たりにできる運びとなった。

210521_A.jpgソウルの女王と呼ばれたアレサ。2008年8月に76歳で死去。

キャロル・キングの「ナチュラル・ウーマン」もゴスペルに。

アレサは、デビュー当時はレコード会社の意向もあってポピュラー系のシンガーとして売り出していたが、66年にアトランティック・レコードに移籍してからはオーティス・レディングのカバー曲「リスペクト」で全米第1位に輝くなど人気を博し、スターの座に躍り出る。ソウル・ミュージックに詳しくない人でも、キャロル・キングが書いた「ナチュラル・ウーマン(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」、バート・バカラックの「小さな願い(I Say A Little Prayer)」、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋(Bridge Over Trouble Water)」等は耳にしたことがあると思う。

アレサの数年前にデビューしていたニーナ・シモンと比較するならば、ニーナは、元々はクラシックのピアニストを目指していた。しかし人種差別から音楽大学に入れず、生活費を稼ぐために歌い始めたバーで、ジャズやゴスペル、ブルースやフォーク、ポップスなどを曲に取り入れることを覚えていく。そのオリジナリティの強いスタイルから一時は人気を博したものの、60年代の人種差別運動に傾倒してからは扇動的なプロテストソングを発表するようになり、70年には離婚問題や活動の場が狭まるなどしてアメリカを離れてしまった。

210521_B.jpgサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊が参加。

アレサも公民権運動に参加し、黒人の平等の権利のシンボルとなったが、「リスペクト」や「ナチュラル・ウーマン」等を歌いながら、人種差別はもとより、女性の生き方について、闘いながらもわかりやすく、励ますように歌っていった。歌への取り組み方については、アレサの父親が有名な牧師だったことに加えて、デトロイトにある自宅に、ゴスペル歌手の大スターたちが頻繁に遊びに来ていたという環境も大きかったと思われる。

アレサの音楽センスの素晴らしさは、メドレーの「プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド/君の友だち(You’ve Got a Friend」を聴くだけでもわかるだろう。しかも、ゴスペル育ちの情感溢れた歌いっぷりはストレートに響く。さらに映画の中で、“声を出すことが生きている証”としているのを観ていると、昨今のコロナ禍におけるライヴ環境への辛い思いと対峙する。ハンドクラップも重要だが、やはり互いに声を出し、反応し合う、コール&レスポンスの大切さを痛感してしまう場面がとても多いのだ。

ポジティブ&ハッピーを感じながら、ゴスペルに託す思い。

話は変わるが、17年ほど前にARC・ゴスペル・クワイアというNYのハーレムにある薬物中毒厚生施設(Addicts Rehabilitation Center)で結成された合唱団を取材したことがある。団長も団員も元もしくは現ドラッグ患者ながら、規律を厳守しているなかから選出され、連日の厳しいレッスンや教会で歌うことで心から鍛えられ、早く更生できる人が多いという。
 
ゴスペルは、聖書の言葉を引用した讃美歌から発展したものが主で、ゴスペルという語源も“福音=良い知らせ”を意味するところから来ている。ARCの団員も、「ゴスペルは黒人が奴隷として働かされてきた時代から自分たちの心を“解放するもの”として継承し、今も神に日々の生活を報告する歓び、つまりポジティヴ&ハッピーを感じながら歌っている」と話していた。

210521_C.jpg

ミュージシャンには コーネル・デュプリー(Gt)、チャック・レイニー(Ba)等が参加。

また、シングル・マザーの団員が、「子育てに自信をなくし、さらに恋人から虐待され、いつからかドラッグに染まってしまった。しかしARCでずっと大好きだった歌を歌うことで本来の自分を取り戻し、今ではその日その日のさまざまな感情をゴスペルに込めることで“自分はひとりじゃない”と幸せに思えるようになった」と話していたことも思い出す。一緒に歌うことで、ひとりでないことを確認できるのである。

アレサの父親やミック・ジャガーの姿も。

アレサ・フランクリンの歌は彼女の人生であり、その場にいる彼女そのものでもある。その自在さにも魅せられるが、ちょっとした音やアレンジへのこだわり、パフォーマンス前後に見せる繊細な表情、また自分の歌を乗せていく演奏や場の雰囲気への気遣いにも見入ってしまう。そして、このライブ会場となった教会にいる人々はアレサの歌を浴び、声を上げて参加することで、最終的に自身を浄化しているようにさえ感じられるのだ。

教会の後方にミック・ジャガーらしき姿を見つけ、その後の場面で本人とチャーリー・ワッツだとわかった時は、アーティストのオーラの凄さに感心してしまった。また、男手で育ててくれた、アレサと父親とのやりとりも微笑ましい。ほかにも当時の彼ら/彼女たちの個性あふれるファッションも楽しむこともできる。2日間のうちの見どころがたっぷりと収められている、これは貴重な音楽映画である。

『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』
●撮影/シドニー・ポラック
●出演/アレサ・フランクリン、ジェームズ・クリーブランド、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、ケニー・ルーパー(オルガン)、パンチョ・モラレス(パーカッション)、バーナード・パーディー(ドラム)、アレキサンダー・ハミルトン(聖歌隊指揮)他
●2018年、アメリカ映画 
●90分 
●配給:ギャガ
2018©Amazing Grace Movie LLC
2021年5月28日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー。
https://gaga.ne.jp/amazing-grace/

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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