アジアのアートシーンに浸った「アートバーゼル香港2025」と、GWのおすすめ展覧会。

Travel 2025.04.23

毎年、国際級アートイベントが集中して開催される3月後半の香港。2025年も世界中のアート業界関係者やアートラバーが、世界最高峰のアートとの出合いを求めて香港に集結! アートに興味のある人なら見逃せない、贅沢な体験を楽しんだ。

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アートバーゼルのために準備された迫力あるインスタレーションが並ぶ「Encounters」のコーナー。こちらはベネズエラのナディア・ヘルナンデス(Nadia Hernandez)が移民体験からのサバイバルとそれにまつわるアイデンティティの複雑性を表現したファブリックアート『El Segundo Verso』2025年。photography: Miyako Kai

今年の売り上げナンバーワンは、草間彌生のあの作品

その主役と言えるイベントが、今年15回目を迎えた「アートバーゼル香港」。例年どおり湾仔の香港コンベンション&エキシビション・センターで開催され、3月26日~27日をプレビュー、3月28日~31日を一般公開日として、全世界から約9万1000人が訪れた。特に今年はコロナ禍後、来場のタイミングを見合わせていたヨーロッパのギャラリーやコレクターが完全に戻ってきたという好感触があったそう。

作品の売り上げは世界的な経済不安でやや陰りは見えたものの、やはりスケールが大きい。2025年の最高売り上げ額を達成したのは、草間彌生作品『無限の網』の350万米ドル(約5億2500万円)! その他各所で、億越えのセールスが続々と生まれていた。

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草間彌生のライフワークともいえる『無限の網』シリーズ [ORUPX]は、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、香港に拠点を置く有名ギャラリーDavid Zwirnerが出展。2013年 油絵。Courtesy of Art Basel

出展ギャラリーは世界42の国・地域からの240軒で、その過半数がアジア太平洋地域から。かつての「アートバーゼル香港」は、欧米作家やギャラリーをアジアのコレクターに紹介するお披露目の場的な印象が強かったが、いまではすっかり多様化が進んで様変わり。

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北京出身のベテランアーティスト朱金石(Zu Jinshi)によるダイナミックな抽象画。photography: Miyako Kai

これには2021年に、香港でアジアの現代美術を俯瞰するビジュアル・カルチャー美術館「M+(エムプラス)」が開館したことも相乗効果となって、香港をハブとしたアジアのアートシーンへの関心が世界的に高まっていることも影響しているのかもしれない。

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香港出身の若手作家トーべ・カン(Tobe Kan)は、野性味と寂寥感が漂う植物画を数多く描いている。photography: Miyako Kai
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京都の美術家、金氏徹平の作品『Games, Dance and the Constructions #4』2015年。スクリーンプリント。ソウルのギャラリーOne and J. Galleryからの出展。photography: Miyako Kai

アートバーゼル香港ディレクターのアンジェラ・シヤン・ルー(Angelle Siyang-Le)も、「アジア太平洋地域のアーティストの活動を積極的に後押しする使命を担っている」と、この流れを強く打ち出すコメントをしている。

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フィリピン在住のアメリカ人アーティスト、ジェームズ・クラー(James Clar)による『Where the Horizon Breaks into Color (Wayfinding Home)』2025年。水と光という自然の要素がテクノロジーに影響されて変化していくさまを描いている。photography: Miyako Kai
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大胆なコスチュームのパフォーマーが練り歩くのもアートバーゼルらしい光景。photography: Miyako Kai

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出展総面積30,000平米という広大で活気あふれる会場は圧倒的なボリューム感があり、すべてを見つくしたいなら、歩きやすい靴を履いて、時間に余裕をもって訪れたい。

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イランから初参加のDastan Galleryは、イラン人女性作家の力強い作品を多数紹介していた。photography: Miyako Kai

世界各地から来た多数のギャラリーが、自国での伝説的アーティストや新進作家をアジアのオーディエンスに紹介する一方、たとえばロンドンのギャラリーがアジアの作家の作品を独自の解釈や評価を交えて紹介したり、海外作家の目に映った日本やアジアの文化を描いた作品もある。あらゆる方向と関係性が絡み合っているところが、とにかく刺激的で、それを国際的なオーディエンスが目を輝かせながら満喫する姿も、会場のエネルギーと、ここからさらに深い文化交流が始まり、化学反応が生まれるという期待感を高めてくれる。

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日本でも有名な英国人アーティストで浮世絵コレクターでもあるジュリアン・オピー(Julian Opie)による『日本八景より 国道52号線から南部橋をのぞむ』。鳥が飛び、鳴き、車が通り過ぎるなどして、動きのある現代の浮世絵と言われるLSD作品。photography: Miyako Kai

中でも今回の参加ギャラリーからのコメントで目立つのが、「アジアを中心とした各地域の美術館が、コレクションとして作品を購入してくれた」というもの。旅行中に訪れた美術館でひときわ目を引く作品が、ここ香港のアートバーゼル出身となるかもしれず、アジアのアートシーンにおける潮流の震源地に立つワクワク感で心が満たされてくる。「アートバーゼル香港」は、毎年3月末に香港訪問予定を組み込んで損はないイベントとして、心に刻んでおいてほしい。

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「Encounters」の中でもひときわ目を引いたのが、上海生まれの女性アーティスト陸揚(Lu Yang)が自らのアバターであるDOKUを主役にして、商業主義、デジタル文化とアートの境界線を果敢に攻める『DOKU the Creator』。photography: Miyako Kai

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アートウィークのもうひとつの花「アートセントラル」

アートバーゼルとほぼ同時期に、毎年中環のセントラルハーバーフロントで開催される「アートセントラル」も、この時期の香港を訪れるなら見逃せない。今年は3月26日~30日までの期間、これぞ香港という華やかな景色に囲まれた環境で、アートの祭典気分がさらに高まる様相となった。

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香港人アーティスト、ウィルソン・シェ(Wilson Shieh)の『Flowers on the Brocade』は、伝統的な中国の絵付け文様にインスパイアされた作品。photography: Miyako Kai

こちらも2025年は40カ国・地域からの108のギャラリーと500人以上のアーティストが参加し、今年は1970年以前に生まれたアーティストを集めた「LEGEND」カテゴリー、知られざる新進作家やギャラリーの作品を集めた「NEO」カテゴリーの二本立て。

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香港政府観光局とキュレーターのシャーキー・チャン(Shirky Chan)のコラボレーションによる『Studio Central』は、香港と広州の3人のアーティストが「中環と上環」、「油麻地」、「深水歩」の3地区を再解釈して表現した特別展示。photography: Miyako Kai

これに加えて地元香港を押し出した展示も多く目に留まり、カジュアルな気分で楽しめる。今年はPhotographyも大きなテーマのひとつとして扱われていた。

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Photographyカテゴリーの中でも強烈な眼力に誰もが吸い込まれたのが、2024年に逝去した戦後の偉大な日本人写真家、細江英公による『Ordeal by Roses #32』(1961)。photography: Miyako Kai

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以上の2大アートの祭典は3月末で終了したが、ゴールデンウィークに香港を訪れる方のために、地元美術館からおすすめの展覧会をいくつか紹介しよう。

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アートセントラル会場前のビクトリアハーバーフロントからは、M+の巨大LEDファザードが見渡せる。photography: Miyako Kai

「M+」巨匠ピカソとアジアの作家の対話
Picasso for Asia-A Conversation(~2025年7月13日)

パリのピカソ美術館から貸借した60点以上の傑作を、M+に収蔵されたイサムノグチら30人以上のアジア系アーティストの作品との対話形式で展示する意欲的な特別展示。こちらに付随した見どころのひとつが、台湾系アメリカ人アーティストのリー・ミンウェイ(Lee Mingwei)による、ピカソの1937年の傑作『ゲルニカ』を砂で再現したインスタレーション(~6月28日)。会期最終日には、アーティスト自ら、砂を掃いて作品を消滅させるイベントもある。

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M+地下の一角に作られた砂のゲルニカ。photography: Miyako Kai

M+
38 Museum Dr, West Kowloon, 香港
開)10:00~18:00(火~木、土、日)、10:00~22:00(金)
休)月
https://www.mplus.org.hk/en/

「香港故宮文化博物館」中国王朝の食いしん坊の歴史を悠大に物語る。
Moveable Feast: The Culture of Food and Drink in China(~2025年6月18日)

中国史における食文化の重要性は誰もが知るところであり、私たち日本人も強い影響を受けている。旧石器時代からの5000年にもわたる悠久の時の中で、移動を伴う食、つまり儀式、宴会、旅、ピクニックなどの場面で使われてきたことを軸とした国宝級の遺物110点を、知的好奇心を刺激してくれる力の入ったキュレーションで見せる、故宮ならではのユニークな展示だ。

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1731年に清朝の雍正帝が特注させた、ひょうたん型のピクニック用重箱。ひょうたんの円形部分がポットになって、くぼみ部分に皿を重ね、下の箱に多数の椀や皿、箸などが入るように精巧にデザインされている。photography: Miyako Kai

香港故宮文化博物館
8 Museum Drive West Kowloon, Tsim Sha Tsui, 香港
開)10:00~18:00(月、水、木、日)、10:00~20:00(金、土)
休)火
https://www.hkpm.org.hk/en/home

取材協力:香港政府観光局

editing: Miyako Kai

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