Music Sketch

過去の貴重な発言から、ビリー・ホリデイの真実を探る。

Music Sketch

映画『Billie ビリー』は、ビリー・ホリデイと、彼女に魅せられて彼女の関係者にインタビューしてまわった女性ジャーナリスト、リンダ・リプナック・キュールを扱ったドキュメンタリーである。ビリーは44歳で亡くなり、その11年後に取材を開始したリンダも、取材で危険な橋を渡りはじめたことで、38歳の若さで不慮の死を遂げた。インタビューには10年近く費やし、記録したカセットテープは125本にも及んだというが、リンダの手記によるビリーの伝記は完成することなく、貴重な素材は保管されたままとなっていた。

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不世出のジャズ・シンガーとして知られるビリー・ホリデイ(1915-1959)。photo:Getty / Michael Ochs Archives / REP Documentary / Marina Amaral 

ビリーの友人や関係者が語る生々しい内容。

この映画監督がイギリス人のジェームズ・エルスキンだったのは意外だったが、これまで手がけてきた作品が、『パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト』(2014)、『氷上の王、ジョン・カリー』(2018)、『ヒロシマ・ナガサキ 75年前の真実』(2020)といったドキュメンタリーだったことを思うと、リンダが遺した素材に興味を持ったことは想像できる。

監督はこれら過去の未聴の声を使って、ビリーが生きてきた人生のプラットフォームを築く。そしてそこに当時の貴重な映像や新聞記事、ビリー本人がラジオ番組等でしゃべっている音声などを加え、リンダが成し得なかったドキュメンタリー作品を完成させている。

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写真左から:ビリー・ホリデイとエラ・フィッツジェラルド。photo:William "PoPsie" Randolph / REP Documentary / Marina Amaral

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ビリーとビリーの人生に関係のある歌を歌う。

なんといっても、ビリーの友人や関係者が喋っている内容が生々しい。当人の性格というのは、ビリー本人がどう思っていようがいまいが、結局はビリー・ホリデイのことをありのままに見た彼ら、彼女たちがどう感じるかである。しかも亡くなった後の1971年頃から取材を開始したとあって、死人に口なしで、どちらが真実かわからない問題も出てくる。本を行間から読み取るとするならば、このドキュメンタリー映画は発言の間から読み取っていくしかないのである。

210701-main.jpg映画では、愛犬の首輪にドラッグを隠していたことも明かされる。photo:Carl Van Vechten photographs/Beinecke Library © Van Vechten Trust / REP Documentary

そこで監督は、ビリーが「私が歌うのは、自分や友人の人生に何かしら関わることよ」と語っているのに合わせて、メリーランド州のボルチモアで産まれた話には、母親のために書いたという「神よめぐみを(God Bless the Child)」を、10代の頃に売春していた話には「Saddest Tale」を、そしてクラリネット奏者アーティ・ショウ率いる白人ばかりのビッグバンドとビリーが袂を分かったことを示した後には、「私のために書かれた曲です」という発言とともに、社会的に物議を醸した人種差別を告白する歌「奇妙な果実(Strange Fruit)」を流す。多くの生声に対し、ビリーが歌で応じる構成にしているのだ。

ビリーの人生とインタビュアのリンダの人生とが共鳴。

ビリー・ホリデイの人生は生まれた時から険しい道のりだった。貧しい10代の黒人夫婦の間に生まれ、まともに養うことのできない親のもと、ビリーは10歳で性的暴行を受け、稼ぐためには売春するしかなく、またカトリックの修道院に入れられるなど、物心ついた時から壮絶な日々を生きてきた。しかし、この映画ではそこには深く触れず、シンガーとしてのビリーを描く。そして、闘う意志の強さを持ちながらも、極端な恋愛やDV、麻薬中毒、衝動に身を任せた波乱の人生を歩んだ彼女は、驚くほど顔つきが変化していったことがわかる。

210701-Sub7.jpgビリー・ホリデイの核心へと迫る。photo:Carl Van Vechten photographs/Beinecke Library © Van Vechten Trust / REP Documentary

ビリー・ホリデイとリンダ・リプナック・キュールは、まったく異なる背景を持った女性である。しかし、監督はリンダの手記も引用しながら、人種差別や性的支配といった問題の中で、闘う立場にいるお互いの人生が共鳴しているからこそ、リンダがビリーに惹かれてファンになったのではないか、と、緩やかに示唆しているように感じる。ビリー本人は、自分の人生をいちばん語っている歌として「Don’t Explain」をあげている。この映画を観た後で彼女の歌をあらためて聴くと、生きることについて深く考えずにはいられなくなるはずだ。

『BILLIE ビリー』
●脚本・監督/ジェームズ・エルスキン
●2019年、イギリス映画 
●98分 
●配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム 
2021年7月2日(金)より、全国順次公開。
https://billie-movie.jp

※ピーター・バラカンが選んだ音楽映画フェスティバル
「Peter Barakan’s Music Film Festival」(角川シネマ有楽町)で上映中。
期間:2021年7月2日(金)~7月15日(木)
https://pbmff.jp/

期間:2021年8月6日(金)~8月19日(木)
会場:京都みなみ会館、アップリンク京都
※詳細未定

*To Be Continued 

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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