Music Sketch

『MIETA』から始まる木村カエラの次なるステージ(前編)

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10月に30歳を迎え、翌日にデビュー10周年記念の横浜アリーナ2daysライヴ《GO!GO! KAELAND 2014-10years anniversary-》を大盛況で終え、今週にはプライベートレーベルELAからの初のオリジナルアルバム『MIETA』をリリースした木村カエラ。アルバムについてインタビューするつもりが、会話が弾み、木村カエラの原点やその魅力まで話は及んだ。

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観客が1人でも見えやすいように、ステージ位置を横長にセッティングしていたのも特徴。《KAELA presents GO!GO! KAELAND 2014-10years anniversary-》10月25日公演より(写真:上飯坂一)


■ 10周年ライヴから"見えた"もの

―今回の『MIETA』は10周年ライヴを終えてからのリリースとあって、新たな気持ちが詰まっているかと思います。アルバムタイトルからして、どのようにして決めていったのですか?

木村カエラ(以下、K):「今年は10周年だからいろんなイベントも全力で駆け抜けていきたいという思いがすごく強くあって、でも先のことって見えないから、それをクリアにしていきたい......つまり透明なものが見えていく感覚、自分で成し遂げて何かが答えとして見えてくる感覚や、ステージをクリアするということで、最初は『クリア(CLEAR)というアルバムにしたい』って言ってたんです。でもライヴが近づくと、"私にしかできないことって何だろう"と深く考える時間があって、そこからのプレッシャーが凄く大きくて、そこに負けちゃう状態が訪れて」

―10年目の成長をみんなに見せないといけないというプレッシャー?

K:「ここで失敗できないという。節目って、そこを乗り越えないと止まってしまう感じがするんですよ。ベストアルバムも出すことによって、まとめに入っているというか」

―守ってしまう感じ?

K:「そう。でも自分には過去を振り返る気持ちはなくて、このライヴを成功させることでこの先に進んで行けると。でも、応援してくれたお客さんへ感謝の気持ちとかいろんな思いが重なって、しかもライヴ直前にオープニング映像が上がってきたりして準備が進むうちに緊張が高まって、今までにないプレッシャーから声が出なくて歌が歌えなくなっちゃった。その時にバンドメンバーが支えてくれて、"みんなに届けたいのに、自分が上手にやらなきゃ"とか、"自分の先のことばかり考えて、私は何をやっているんだろう"と気づいたんです」

―そこから次へのヴィジョンが明確になったという?

K:「そうですね。"これは同じ仲間としてやってきたバンドメンバーの10周年でもあるから、自分だけのイベントではない"と思った瞬間に心がパァ〜っと晴れて、『あぁ。良かった、見えた』って何か抜け出した感じで、自分の中で"見えた"って思ったんですよ。それが『MIETA』の理由の一つですね」

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2日目はオブジェに映像満載のポップワールド全開。10月26日公演より(写真:川田洋司)


■ ROCKとPOP

―なるほど。

K:「あとは、ROCKとPOPに分けて2日間でライヴをした時に、"こんなにROCKのジャンルとPOPのジャンルを両極端に分けてできるアーティストはいない!"って自分の自信に繋がった部分があって。今まで無意識にROCKとPOPのジャンルを表現してきたけど、これはもっと突き詰めていくべきだとこの先の目標もまた一つ見えて、そこで『MIETA』だなぁって、アルバムタイトルが決まっていったんですよ」

―ちなみにコンサートでのROCKと POPとはどのように自分の中で分けていったの?

K:「バンドでガツンといけるもの、で、止まらない感じがROCK。もちろん横浜アリーナのステージ上も演出も全部が変わってしまうものではないのだけど、ちょっと現実味のある世界というのがROCKな感じがしていて、POPの方はもうちょっと映像とか見せ方とかで、意外性のある展開とか、気持ちが明るくなるとか、目と耳といろんなもので世界を作れたらなというのがありました」


141219_music.jpg25日は「Rockin'ZOO」というサブタイトルのROCKの日(左)、26日は「Poppin'PARK」というPOPの日と、テーマを分けて開催。共に衣装のテーマはタイダイ。(写真:25日=上飯坂一、26日=川田洋司)


■ 木村カエラと色

―ライヴでの2日間の衣装は若干の違いはありつつ、色合いは同じでしたよね?

K:「タイダイを着たいというのがあったんですね。私の場合、アルバムやシングルを出した時に、"この曲は黄色"とか、音から感じる色味でその曲のだいたいの色を決めるんです。それに合わせて衣装も一色にして、『8EIGHT8』の時は黒だったように」

―ライヴでは蜘蛛が出てきたし。

K:「そうそうそう。"みんなの悪いものを食べているから真っ黒になって"という、黒のイメージがあって。その次のアルバム『Sync』の時は真っ白。シングル『Sun shower』で、自分の心をまず真っ白にするというイメージがあって、服もそうしました。"木村カエラに色って欠かせないもの"だなって、なんとなく10周年の時に感じていて、10年間でいろんな色を表現してきたから、ライヴではそれが混ざり合ったもの、しかも私はちょっと奇抜だったり、サイケなものだったり、ファンタジーなものが好きだったりって考えた時に、それを表現できるのはタイダイのあの模様だったんですよね」

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白のイメージだったという曲「Sun Shower」(2012年10月)のシングルジャケット


―今回の『MIETA』はどんな色になるの?

K:「『MIETA』は、白とボルドーというイメージ。アルバムジャケットでボルドーのリップをしているけど、目は何もメイクしていない。ボルドーの、落ち着いている色だけど、すごく深くて燃えている情熱的な感じと、意思は強いんだけど目は素の状態みたいな感じというか」

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最新アルバム『MIETA』のジャケット


■ 自分の歌からみんなの歌へ

―今回のアルバムは自分の内面を歌うというより、ライヴを見ていつも感じている、"みんなを励まし元気づけよう""前へ進もう"と歌っている曲がとても多いと思うんですね。しかもファンの子の背中も押すけど、自分の背中も押す曲も多い。作っている時って、どんな気持ちでした? ライヴを盛り上げる曲、ファンを元気にする曲、10周年の次にくるアルバムとして自分をもっと前にプッシュしてくれる曲にしたいとか......。

K:「それ全部ですね。たとえば自分がプレッシャーに崩れそうな時に書いたのが『one more』。自分が誰かにこう言ってもらわないとやり遂げられない状態の時で、でも何かを成し遂げようとしている人たちって他にもいるから、そこへ嘘がない自分が勇気づけられる言葉や、自分が前に進もうとしている過程というのが、この曲に入っています。そこに加えて、自分が10年間やってきたことは"人を元気づけたい""幸せを感じる方法を何か導いてあげたい"といったことで。抱えてしまった問題は自分自身でどうにかしなきゃいけないけれど、私の歌を聴いて"背中を押せるきっかけになればいい"と思う気持ちが自分の歌らしさだと思うので、本来聴いてくれる人に届けたいものと、自分が思っていることがうまくリンクして、このアルバムの内容になっていきました」

―これまで内省的な曲やファンタジーな曲などいろいろありましたが、いつ頃から"自分の歌"を"みんなの歌"に、みんなを元気づける歌にしたいと意識するようになっていったのですか?

K:「はっきりと外に気持ちが向き始めたのは、しのっぴ(渡邊忍)が書いた『どこ』という曲からですね。何となく自分の歌詞を外に向けて書いていきたいと思っていた時に、しのっぴ(渡邊忍)がまた曲を作ってくれることになって、歌詞も全部書いてきて。それまで私が自分と向き合うことばかりしてきたからそういう歌詞を書く力がなかったわけで、曲が上がってきた時に軽くショックを受けたけど、自分の歌になっていくから大事に歌おうと思い、そして歌っていても外に向いているから凄い胸に響くと思ったんです。その後に、友達が結婚するというので手紙を書かなきゃって『Butterfly』を書いたら、それが人に向いている歌詞になった。そこから"人に向けるってこういうことだ""他の人にも届くんだ"ということを自分の中で理解し始めて"もっと人に届けていかないと"と、意識し始めましたね」

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デビュー当時からカエラを支えてきた1人、ASPARAGUSの渡邊忍が作詞作曲した「どこ」(2009年1月)が転機になったという


■ 想像に引っ張られていく感覚

―「one more」の歌詞に"Happy endの席は争奪戦 それが根源なんだ"とあるように、今まで以上にはっきり言い切る歌詞が増えたのは、結局は自分が頑張らないとダメだし、甘い優しさより、強く現実を突きつけた方がいいと気づいたから?

K:「そうやって思っている気持ちが自分を進ませるっていう感覚かな。"自分はやれるよ、大丈夫だよ"って想像に引っ張られていく感覚というか、"自分の未来や自分がそこに立っている姿を想像しないと、そこに実際に立った時に何も身体がついて来ない"と、私は何となく思っていて。ライヴの時も実際そうなんですね。"こうなりたい自分"というのを、口に出したり、想像していくことというのが、そこに近づく第一歩。強くいないとそこに行けない気がして、だから"自分はちょっと虚勢を張ってます"という状態だと思います」

―10年目を迎えるにあたって、目標など決めて、その言葉に引っ張られたというのはありましたか?

K:「ありましたね。10年続けるというのも、モデルが先だったので、でも自分は歌を歌いたいから、『モデルからでしょ』って言われるのが凄く嫌で、しかもその周りの大人たちに『女性アーティストで10年続けるのはホント大変だからね』って感じで脅されて。私は凄い負けず嫌いだし、『それならやってやりますよ』って思ってきたから」

―負けず嫌いでないとやっていけないと思うけど、最初の頃から取材させていただいたなかで、人に期待しなかったり、ネガティヴだったり、自分の殻に入って自分を抑えていたりして、端から見たらカエラちゃんなら全然できるのにって思いつつ、引っ込み思案なイメージがあったんだけど、その一方で負けず嫌いの自分がしっかりいた、という感じ?

K:「そうですね。本当にその通りだと思います。抑えているところがあるんだけど、見せないっていうか、何かを一定に保っている。自分の中では沸々としてていろんなことを考えていて、どうしたら10年続けられるだろう、ていうことばっかり考えていた感じがするんですよね」

―「c'mon」の歌詞にありましたよね、常にアップデートするという。

K:「一日一日を常に更新していく。そこに収まりたくないというか、常に新しいところに向かっていく状態が、私の頭の流れになっていると思います」

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デビューからの10年間の人気ヒット曲を収録したベストアルバム『10years』

後編に続く。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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