Music Sketch

新国立劇場で観た、壮大なスケールの『アイーダ』

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シンガー・ソングライターのコトリンゴさんと一緒に、新国立劇場の開場15周年記念公演であるジュゼッペ・ヴェルディ作の『アイーダ』を観に行ってきた。『アイーダ』といえばヴェルディの代表作のひとつである上に、この公演の演出・美術・衣裳を担当するのがフランコ・ゼッフィレッリという贅沢な組み合わせ。ゼッフィレッリは、イタリア・ミラノの名門の貴族であり、映画監督、舞台演出家、脚本家として映画界で一世を風靡したルキノ・ヴィスコンティの助手を務め、のちにオペラ界や映画界でも多大な成功を収めた人物。映画監督としては『ロミオとジュリエット』(1968年)、『ブラザー・サン シスター・ムーン』(1972年)、『永遠のマリア・カラス』(2002年)などがあり、この『アイーダ』は1963年にミラノ・スカラ座での演出からはじまり、2006/07シーズンには同じミラノ座で新演出を披露するなど、彼のライフワークといってもよいほど長年取り組んでいるオペラ作品だ。この新国立劇場でも、1998年1月に開場記念公演として上映された初演時から、今回が4回目になるという。

130322_music_01.jpgファラオが支配する古代エジプト王国を舞台に再現した『アイーダ』。


まだ公演中のため、ネタバレになるようなことは避けたいが、まず特筆すべきはアイーダ役のソプラノ歌手、ラトニア・ムーアの歌声の素晴らしいことといったら! ビヨンセと同じくテキサス州ヒューストン出身の彼女は、おそらくゴスペルやR&Bを歌わせても天下一品の歌唱力をもっていることは間違いないけれど、とにかく輝き溢れる歌声と力量で一瞬にして周囲の空気を一変させる。注目されたきっかけが、2012年3月にNYのメトロポリタン歌劇場で上演された『アイーダ』で、リトアニア出身のヴィオレッタ・ウルマーナの代役として急遽アイーダ役を演じたこと。メトロポリタンでのデビュー作となったこの歌唱が、ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ大絶賛となり、その後は同年9月にサイモン・ラトル指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が演奏する『ポギーとベス』(演奏会方式)にベス役で出演し、こちらも大絶賛されて実力が認められている。若手注目株で、メキメキと頭角を現しているラトニア・ムーアのソプラノを耳にするだけで、至福の訪れを感じるほどだった。

130322_music_02.jpgアイーダ役のラトニア・ムーア。最初の独唱の場面から「ブラボー!」の声がかかるほど、圧巻の歌声。


リアリズムを提唱するゼッフィレッリの演出は、妥協を全く許さない。舞台に登場する12本の大柱は、そのビッグサイズのまま保管している銚子の舞台美術センターの倉庫から運搬され、舞台を走る2頭の馬も上演日に山梨から通ってくるという。ステージにはいちばん多い時には300人が上がり、100人ものオーケストラと共に古代の、ファラオが支配する王国エジプトの世界観を再現する。圧倒的なスケール感である。その色調も衣裳もイタリアの巨匠ならではの芸術的なセンスで彩られ、第一幕から第四幕に至るまで、その雰囲気を醸し出すために紗幕が張られているほど。

130322_music_03.jpg絢爛豪華な演出で知られるゼッフィレッリ。舞台に上がった300人それぞれの衣裳にも凝っている。


130322_music_04.jpgバレリーナに続き、馬も登場してビックリ! 馬を舞台で観たのは昨年のレディー・ガガの来日公演以来。


全四幕、休憩時間を挟んで計4時間にわたる上映時間だが、前半と後半とのコントラストも素晴らしく、個人的には第四幕をもう1度観たいと思ったほど静なる場面で歌われるアイーダとラダメスの情愛に満ちた歌声に魅了された。ラストについては書けないが、悲しみに浸りつつも一緒にいられる幸せを感じ、来るべき時を迎えていく、あの心情をあのように歌ってみせるとは、本当に素晴らしいと感動した。

130322_music_05.jpgエジプト軍の武将、ラダメス役のカルロ・ヴェントレ。真実の愛を貫く、見事なテノールを披露。


130322_music_06.jpgエジプト王の娘でアイーダの恋敵、アムネリス役のマリアンネ・コルネッティ。愛するが故に狂おしい想いに悩まされる役を好演。


ヴェルディの中でも中東のメロディを意識して作られた作品と言われているが、個人的にはアイーダ、ラダメス、そしてアイーダの恋敵であるアムネリスの3人による三重唱が聴き応え満点。ひとこと書くならば、アムネリス役の歌手がもう少し細身だったら、ライバル関係の見え方が多少違ったかもしれない。このメゾソプラノ歌手は、5月の『ナブッコ』公演でアビガイッレという烈女役で再登場する。

130322_music_07.jpg紗幕越しに見せる、舞台全体の色調の美しさにも惹き込まれる。


130322_music_08.jpgアイーダのソプラノとラダメスのテノールが織りなす、ハイライトシーン。


終演後、新国立劇場のスタッフさんに、「誰にいちばん共感しましたか?」と聞かれ、コトリンゴさんとも食事をしながら、「どうしたらもっといい結末を迎えることができたのか」といったことを話し合ってみたり。贅を尽くしたドラマを目の前で鑑賞できるだけに、それぞれの場面を現代に置き換えて考えてみるのも楽しい。あと、長丁場ではあるものの、休憩時間にシャンパンやスウィーツ、サンドイッチやコーヒーなど食べられるようになっていて、これも毎回オペラを観に行く時の、ちょっとした楽しみになっている。

130322_music_09.jpg新国立劇場ならではの、舞台装置の醍醐味も堪能。


オペラというとチケットが高額の印象があるものの、新国立劇場では当日の学生割引や高齢者割引などがあり、他にも4〜15歳の子供を対象とした《ジュニア・アカデミックプラン》、25歳以下の方を対象とした《アカデミックプラン》、26〜39歳の方を対象にした《アカデミック39》という、割引プランがあるそう。『アイーダ』はこの後、3月24日(日)14時〜、27日(水)18時〜、30日(土)14時〜と公演があるので、ぜひ興味のある方は足を運んでみて下さい。6月にはH&Mで売っているような衣裳を使い、現代劇として演出を考えたというモーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』を上演するので、こちらも楽しみだ。

新国立劇場『アイーダ』
残りの公演
3月24日(日)開演時間:14時〜、27日(水)18時〜、30日(土)14時〜
料金:S席¥28,350 A席¥23,100 B席¥15,750 C席¥10,500 D席¥5,250 
●問い合わせ先:新国立劇場ボックスオフィス Tel 03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/

Photos:三枝近志

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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