
シャルル・パジ インタビュー
Music Sketch
今年もあと残すところ数日となり、思い起こすと、今年は特に新聞やラジオの仕事に追われて、特に初夏から一気に忙しくなり、全然コラムをアップできずごめんなさい。取り溜めているものがあるので、年末年始にかけてアップしていきます。
■ 歌とハーモニカで魅了

フランスから来日したシャルル・パジ、30歳。
今年6月に初来日を果たしたシャルル・パジは、1983年フランス生まれ。子供の頃からボブ・ディランを筆頭にロックやソウル・ミュージックに夢中になり、ブルースを経て、19歳からローマでジャズ・スクールに入学。その後は各国のブルースやジャズ・フェスで才能を発揮し、注目を集めていました。日本に来る際のキャッチコピーは"ハーモニカ王子"だったものの、実際に取材したところ、「確かにハーモニカ(ブルースハープ)は得意だけれど、本業はシンガー・ソングライターで歌がメイン」とのこと。「時間を気にしなくていいから」と、思いの丈を熱く語ってくれました。

デビュー・アルバム『Mainly Blue』
― 現在2枚のアルバムをリリースしていますね。
「1枚目『Mainly Blue』を発表した時はまだ22歳で、自主制作盤だったから費用も限られていたんだ。録音スタジオもドラムセットが1つ入るくらいの狭さだった。ブルースを聴き込んでいた時期だったから、音楽面ではそれが全面に出ているね。2枚目の2010年に発表した『Uncaged』は、もっとヴァリエーションを出すことができたと思う。僕の音楽はブルースの他、アフロアメリカの音楽や、イタリアのシャンソンやいろんなものが影響しているから、それが滲み出ているはず。とにかく一つのものにカテゴライズされたくなかった。僕の音楽性をグローバルに感じてもらえる1枚で、僕の人生がどんな影響を受けてきたとか、糧を感じてもらえるアルバムに仕上がったと思う」
― 1枚目はラヴソングばかりではないけど、1人の相手に向けて歌っているものが多いですね。2枚目はセルフプロデュースなので、あなたの経験が出ているのか、人生観を反映した歌が多いですよね。
「それは当たっているかも。確かに2枚目は人生観を反映しているし、テーマの広さもある。1枚目を出した時は22歳で、人生そのものにまだぶつかっていなくて、順風満帆だったしね」

アンスティチュ・フランセ東京のオフォスで取材。好感度の高い気さくな性格。(筆者撮影)
― ハーモニカに夢中になったきっかけは?
「偶然なんだけれど、16歳の頃、学校から帰る時にボブ・ディランをイヤフォンで聴いていたんだ。そうしたら乗っていたバスが故障して止まってしまい、その時に外からボブ・ディランがハーモニカで作った曲が流れてきた。で、ちょうど停車したのが楽器店の前だったので入ってみたら、ハーモニカをたくさん扱っていたんだ。ディランが使っているモデルを聞いたら、そこからハーモニカの先生も教えてくれた。それで気軽に習いに行ってみたら、この楽器が思っていたより難しいし、その分、面白いし、夢中になってしまったというわけ」

6月22日にアンスティチュ・フランセ東京で開催されたイベント「音楽の日2013」に出演し、熱演。
― 最近はエフェクターを使用して演奏するブルースハープ奏者が増えてきましたが。
「僕はどちらかというとハーモニカそのものの音が好きで、わざわざエフェクトをかけなくても、ハーモニカそのものに手や喉を使うことによってテクニックを使えるし、ブレスだけで多くの音を出せる、ヴォーカルのようなダイレクトな付き合いのできる楽器だと思う。ギターにエフェクターを使うのは好きだけど、ハーモニカでは楽器そのものの魅力を引き出すのが好きだし、そこの可能性を追求したいと思っている」
(ここで実際に吹いてみせてくれる)
― 日本では"ハーモニカ王子"という紹介をされることが多いようですが。
「僕としてはまず歌ありきで、それをどう引き立てるためにハーモニカを使っていくかを考えていくのであって、ハーモニカを聴かせるために曲作りをしているわけではない。なので、ハーモニカが入っていない曲もある。たとえばジミ・ヘンドリックスの曲を聴く時はギターだけではなく、彼のまとまった音楽性を聴く。つまり、全体としてのまとまりの中にハーモニカがあるということなんだ」

熱いパフォーマンスで、観客の視線を独占。
■ ロスト・ジェネレーションの世代

バンド仲間と掛け合いを楽しみ、会場も和やかに。
― わかりました。ありがとうございます。曲の話に移ると、2作目ではファンキーなナンバーの「Lost Generarion」や「Things Have Changed」の歌詞が印象的でした。
「実は僕は自分たちの世代のことを"ロスト・ジェネレーション"じゃないかと思っていて、僕達の両親が生きた60年代というのは、何かモデルとなるような世代だった。人類の中で稀に見る変革、短い期間に文化的、政治的な時期を生きてきている、ルネッサンスと同じような時間の変化があったと思う。なのに、そんな大きな時代の変化を僕らはわずか30年の違いで目の当たりにすることのできなかった世代だし、しかも当時と違って僕らの世代は信じるものや戦う対象が違うし、しかも戦うべき相手は両親の世代が戦い終わった後なので、その波乱の後のちょっと静かなところにひょっこり来てしまったというか。自分たちがどこにいるのかというのをはっきり感じることのできない世代だと思って書いたんだ。"歴史に大きなものは残さないだろう"という意味で、こういうタイトルにした」

セカンド・アルバム『Uncaged』
― 「Better With Butter」のように、リズムの効いた曲に、言葉数の多いフレーズを乗せて歌うのが得意ですよね? 先に曲からできるのですか?
「そうだね。ギターを弾きながら生まれてくる音楽そのものに、テーマというか表現したいものが込められているから、その上に歌詞を書く方が僕としては作りやすいんだ」
「Better With Butter」のミュージックヴィデオ。
― 「Old Lady Paris」という曲の世界観もジャズの雰囲気もすごく好きです。
「この曲のインスピレーションはパリで生まれた。パリと僕との関係は"愛があって憎しみがある"という2つの対立した関係で、時々我慢できなくなって離れる必要があると思ってしまう。パリという街やパリジャンを見ていられなくなるんだ。パリはリュクスなイメージが必要だし、お金がかかるし疲れるし、気まぐれなところがあって、生きていくのも息苦しいところに感じる。過去の栄光にすがっているような点もあるしね。住んでいるパリジャンの頭の中には"パリって凄いんだ"という意識があって、でもそれはあくまでも彼らのイマジネーションの中にしかない。そういったところから、パリを"年老いていくおばあさん"というイメージで表現してみた」

地元パリでのショット。
― 好きな小説や映画などがあれば、教えて下さい。
「特にイタリアの映画で、フェデリコ・フェリーニが大好き。父と同じ地方の出身で、映画から祖母が話していた方言とか聞こえたりする。ローカルかつ少数の人の物語を、たくさんの人々に共通するユニバーサルなものに昇華できるというのが素晴らしいし、それこそがアーティストだと思うし、彼の映画の中には彼独特のユーモアがあったり、男女の関係を品のあるものに昇華して描いているところがある。作家だとチャールズ・ブコウスキー、ルイ・フェルディナン・セリーヌ、そしてスティーブン・キング。キングは子供時代を描いたり、テーマがとても幅広い。その中で凄くフィガロ読者にお勧めしたいのが、60年代のアメリカを舞台にした母と少年の物語で、1人の主人公を巡る5つの物語で構成されている『アトランティスのこころ』かな」

「自分のキャリアを深く見つめながら話せた」と、ペジ。実際はこの記事の3倍も喋ってくれました。(筆者撮影)
■ 常に新しい視点を探して
― 最後に、次はどういう作品にしたいですか?
「もう9、10曲分のアイディアはある。新しいアルバムを出すということは、今までと違うものを出したいので、どうプロデュースしていくか考えている段階さ」
― いろいろなタイプの曲を作れる引き出しがあるので、それをまとめるのは大変ですね。
「『Uncaged』は異なる世界観を1曲1曲で巡る旅のようなアルバムになっていて、スタイルにこだわらないから全体像が見えにくくなっているかもしれない。でも今は1曲1曲バラで買う時代だから、それもありかな、と。次はジャンルを1つにまとめることはしたくないけど、方向性はわかりやすくしたいと思っているよ。マーケティング云々というより、アルバムの中での曲と曲との関係性を重視したい。まぁ、僕が飽きやすい性格だし、常に新しい視点を探していく必要性を感じているからね。実は3作目の方向性について"もっとポップにしたい"というレーベルと意見が対立していて、ちょうど悩んでいるところなんだ(笑)」
*To Be Continued.


