インディ・ザーラ 取材&ライヴ《後編》
Music Sketch
引き続き、インディ・ザーラのインタビューです。ちなみに彼女の名前ですが、日本と同様に、インディが苗字、ザーラが名前になるそうです。
ライヴ会場の壁にも彼女が描いた作品が展示され、その一部はCDのブックレットの中にも掲載されています。ただ、当日展示されたものはすべて複製でした。実際にはリサイクル用の古紙やダンボールにホワイトやイエローといった色をベースとして塗り、そこに絵の具、フェルトペン、化粧品、シール......と材質に関係なく、感覚で絵や色を描いているそうです。
――「音楽を作ることは食材を煮込むようなもの」と話していましたが、あなたにとって絵を描くことも調理に喩えられるのでしょうか?
「それは違うわ。絵を描くことは刺繍をしている感じなの。時間が掛かるし、集中力もいるし、1年くらい掛かるとても大変な作業だし。どうしてそんなに時間が掛かるかというと、一気に仕上げることを目標にしていないから。私の場合、途中まで描き、しばらく私の見える場所に置いておくの。そうすることによって私が自分の絵に慣れてきて、"こういうものを描き足したい"と思う時が絶対に出てくるので、描き足しながら、徐々に完成に近づけていく。なので、私は同時に並行してたくさんの絵を描いているの」
――"曲を作ることは内面の解放であり、セラピーに近い"と言われますが、絵を描くことで、あなたの内面に何らかの変化が起きることはありますか?
「確かに曲を作ることは日記を付けるような感覚だし、セラピーに近いと思うわ。でも私にとって絵を描くことは、どちらかというと職人的なもの。そして私が癒されるというより、他の人を癒したいと思っているの」
――というのは?
「私自身は、過去にセラピーをしなくてならない問題を解決しているから。だから、絵をセラピーの方法として必要としていない。そして、誰かを癒すためには、既に自分が癒されていないといけないの。自分の問題を解決できない限りは、人を癒すことはできないと思っているから」
――どのように解決していったのですか?
「本をたくさん読んだり、他の人たちの経験談から乗り越えたところもあるわ。人生に対する愛情と好奇心が根底にあるかもしれません。芸術活動というのは、どこかでメディテーションがあり、その何かものを深く考えて瞑想する時間が、自分にとって大切なんだと思う。アルバムの制作期間中も瞑想の時間をかなり取ったし、落ち込んだことも解決への道に向かわせたんだと思うわ。あとは、ダンスね(笑)。心が健康になるには、身体を動かして、身体自体が解放されないとダメですから」
――ルーヴル美術館で監視員の仕事をしていたことは、自分の芸術にどう影響したと思いますか?
「ルーヴルは美術の歴史が凝縮されているところ。メソポタミア文明やエジプト文明......、そこでも私は文化の融合を体感したわ。私がやりたいと思っていたことはまさにそれで、再確認できたわけなの。まるでユニバーサルな料理というものが、そこに提示されている。そういう気がしたのよね」
――そうなんですね。
「あと、それぞれのアーティストが作品を表現した時には彼らが100%幸福じゃなかったかもしれないけれど、でも彼らは表現したいものを表現しているということを実感できて、そこにすごく励まされた。そしてもう1つ、メソポタミア文明の最初の法律書が書かれた時、文字ではなく、象形文字、つまりはデッサンで示された。全ての知識、芸術の根源にあるのはデッサンであるということに、感銘を受けたわ」
――インディさんはベルベル人であり、モロッコ人でもあり、フランスに13歳から住んでいるので、フランス人的な面もあると思います。それぞれどのあたりにそれらを感じますか?
「言葉を使っている時に、言葉は自分の中のルーツだから、やはりそこでベルベル人であることを意識するけれど、文学的な面で言えばフランス人は饒舌で論じることに長けていて、話すのが好きな人たちだから、私も喋っている時にフランス人らしさを感じるわ(笑)。ベルベル人は、お茶(ミントティー)を飲むのが大好きで、しかも儀式的に準備から時間をかけて楽しむの。私は一日の中でお茶を飲む時間が大好きだから、そんな時はベルベル人らしいと思う(笑)。あと、アクセサリーをたくさんつけるのが好きなのは、モロッコ人的だと思います。自分のケアを入念にするのも、モロッコの女性は大好きですね」
*to be continued