
奇才チリー・ゴンザレス、最新作『Solo PianoⅡ』について語る②
Music Sketch
----自分にとってチャレンジングだった楽曲があるとしたら、どの曲で、どのあたりに新しさを加えられたと思いますか?
「最も難しかった曲は、『Ivory Tower』を通じて発展させた技術を適応させた曲だ。フィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒなどのミニマル音楽や電子音楽の影響を受けていて、それらの要素を近代のピアノの演奏方法と合体させたんだ。『Ivory Tower』からの曲をライヴで、ドラムマシーンやオーケストラなしで、たった一人で演奏しなければいけない場合もある。ビッグサウンドをとてもドラマチックに演奏しなければいけない。だから、ピアノをドラマチックにパワフルに演奏する方法を見つけなければいけなかった。近代風に弾かなければいけなかった。それが『Solo Piano I』と『Solo Piano II』の最も大きな違いだ。『Solo Piano II』の「White Keys」や「Train of Thought」のような曲は、『Solo Piano』ではありえなかった。だから、このアルバムでは楽曲として比較的変わった「White Keys」を1曲目に持ってきたんだ。『Solo Piano』と同じ親密性はあるが、同時にそれとは非常に違った作品であるということを人々に伝えたかったんだよね」
----なるほど。確かにミニマルらしい細やかな旋律の繰り返しが印象的なナンバーです。
「そうなんだ。『White Keys』は完成までにとても苦労した。この曲を弾くのに要する技術は僕が発明したんだが、ミニマリズムには繰り返しがとても多く、そのためには比較的高い集中力が必要とされる。聴き手にも退屈に感じさせないように演奏しなければいけないからね。2分半の間に、エネルギーを徐々に高めていき、最終的にエネルギーがどの地点に向かっているのかをしっかり把握していなければいけない。『White Keys』のメロディも、表現力が高いメロディともいえるものではない。だから、曲の形を形成するためにメロディに頼ることもできない。とにかく、繰り返しを多く使用して表現力のある音楽を作るというのは、僕にとって新しい技術だった。だから、チャレンジングだった楽曲は『White Keys』と『Train of Thought』、そして『Evolving Doors』だ。技術的な面と解釈的な面からの話だけどね。音楽を形成していくのに、比較的時間がかかった楽曲だ」
----『Solo Piano』を発表してからの8年間を振り返り、ソングライター/ミュージシャン/プロデューサーとして進化したと思う点があれば教えて下さい。
「『Solo Piano』が意外にも僕にとってのブレイクスルーになった時、"もし自分が頑張れば、ピアノが自分にとって最も大事な活動になり、時の人としてやっていけるかもしれない"と、思ったんだ。そして僕は、自分のユーモアのセンスとラップ音楽に対する情熱をピアノに関連付けるという方法をとった。その2つの要素が僕を現代の人にしてくれていると思っている。この8年間はそういった活動をしてきた。たとえばドレイクと一緒に仕事ができたのは、僕がラップをしたことがあり、ラップ音楽業界と繋がりがあったから、そういう現場に行っても仕事がしやすかったからだと思う。彼は僕をラッパーとしてではなくピアノ演奏者として起用した。ちなみに彼は僕がラップすることを知らないんだ。彼が僕について知っているのは『Solo Piano』で、僕のことをピアノ演奏者だと認識している。おそらく誰かから僕がラップすることは聞いているかもしれないけど、そこは認識していないようだ。僕が今の時代の人だったからこそ、ドレイクのピアノ演奏者として一緒に仕事ができるというわけだ」
----ファイストのアルバム『レット・イット・ダイ』をプロデュースして、それが第50回グラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバムなど計4部門にノミネートされましたが、ファイストの「1,2,3,4」がiPodのCMに使われただけではなく、その後、あなた自身のソロ曲「Never Stop」がiPadのCMに起用されましたね?
「そうなんだ。ようやく僕の努力が報われてきた。iPadのコマーシャルでピアノが聴こえてくると、それは僕の曲だ。iPadは、良くも悪くも、我々の現代の時代の機器だ。そのサウンドトラックとして、僕のピアノ楽曲が使われているということは、僕はピアノを現代の楽器として復活させたと言えるのではないかと考える。僕は、ピアノ演奏者として現代の時の人となる、という夢を叶えているというわけだ」
----ハモンドオルガンやウルリッツア、ムーグ(モーグ・シンセサイザー)といった印象的なサウンド、そしてシンセサイザーといった鍵盤楽器が存在感を示す中で、ピアノはいつの時代もジャンルを超えて愛され続けてきました。チリーさんにとって、ピアノという楽器の魅力は音色も含めてなんだと思いますか?
「もし君が一人でピアノのDを弾くとする。僕がDを弾くとする。それは同じ音だ。ピアノの一音を表現するということはできないんだ。人間の声が一つの音を表現すると音楽が生まれる。チェロもフルートも可能だ。それらには、ブレス、ヴィブラートなどがあるからだ。ピアノ以外の全ての楽器には、そういう要素があって、一つの音で色々な表現ができる。ピアノはオーケストラのような存在になろうとしているが、実際はとても弱い。ピアノのこういった表現性に対する葛藤には詩的なものがある。作曲家は、ピアノをどのようにして使えば、あたかも表現しているような幻想を生み出すことができるかという概念に魅せられている。ピアノの表現というのは音と音の間でしか起こらない。チンパンジーが一音を弾いてもグレン・グールドが一音を弾いても同じなんだ。次の音を足して初めて、ピアノ演奏者とチンパンジーとの違いがわかる。それが多くの人を魅了させているのだと思う。ピアノのポテンシャルは巨大だが、真の表現というのはピアノでもってはできない。そこにとても詩的なものを感じる。この葛藤は人間が共感できるものだと思う」
次回の最終回では、チリー・ゴンザレスが尊敬するピアニストについて。
*To Be Continued
「最も難しかった曲は、『Ivory Tower』を通じて発展させた技術を適応させた曲だ。フィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒなどのミニマル音楽や電子音楽の影響を受けていて、それらの要素を近代のピアノの演奏方法と合体させたんだ。『Ivory Tower』からの曲をライヴで、ドラムマシーンやオーケストラなしで、たった一人で演奏しなければいけない場合もある。ビッグサウンドをとてもドラマチックに演奏しなければいけない。だから、ピアノをドラマチックにパワフルに演奏する方法を見つけなければいけなかった。近代風に弾かなければいけなかった。それが『Solo Piano I』と『Solo Piano II』の最も大きな違いだ。『Solo Piano II』の「White Keys」や「Train of Thought」のような曲は、『Solo Piano』ではありえなかった。だから、このアルバムでは楽曲として比較的変わった「White Keys」を1曲目に持ってきたんだ。『Solo Piano』と同じ親密性はあるが、同時にそれとは非常に違った作品であるということを人々に伝えたかったんだよね」
----なるほど。確かにミニマルらしい細やかな旋律の繰り返しが印象的なナンバーです。
「そうなんだ。『White Keys』は完成までにとても苦労した。この曲を弾くのに要する技術は僕が発明したんだが、ミニマリズムには繰り返しがとても多く、そのためには比較的高い集中力が必要とされる。聴き手にも退屈に感じさせないように演奏しなければいけないからね。2分半の間に、エネルギーを徐々に高めていき、最終的にエネルギーがどの地点に向かっているのかをしっかり把握していなければいけない。『White Keys』のメロディも、表現力が高いメロディともいえるものではない。だから、曲の形を形成するためにメロディに頼ることもできない。とにかく、繰り返しを多く使用して表現力のある音楽を作るというのは、僕にとって新しい技術だった。だから、チャレンジングだった楽曲は『White Keys』と『Train of Thought』、そして『Evolving Doors』だ。技術的な面と解釈的な面からの話だけどね。音楽を形成していくのに、比較的時間がかかった楽曲だ」
昨年12月からパリのスタジオPigalleに籠もり、そこで書き溜めた100以上に及ぶメロディから厳選して、『Solo Piano II』を制作したという。(c) 2012 Alexandre Isard Gentle Threat All right reserved
WHITE KEYS from SOLO PIANO II from Chilly Gonzales on Vimeo.
『Solo PianoⅡ』の収録曲から「White Keys」----『Solo Piano』を発表してからの8年間を振り返り、ソングライター/ミュージシャン/プロデューサーとして進化したと思う点があれば教えて下さい。
「『Solo Piano』が意外にも僕にとってのブレイクスルーになった時、"もし自分が頑張れば、ピアノが自分にとって最も大事な活動になり、時の人としてやっていけるかもしれない"と、思ったんだ。そして僕は、自分のユーモアのセンスとラップ音楽に対する情熱をピアノに関連付けるという方法をとった。その2つの要素が僕を現代の人にしてくれていると思っている。この8年間はそういった活動をしてきた。たとえばドレイクと一緒に仕事ができたのは、僕がラップをしたことがあり、ラップ音楽業界と繋がりがあったから、そういう現場に行っても仕事がしやすかったからだと思う。彼は僕をラッパーとしてではなくピアノ演奏者として起用した。ちなみに彼は僕がラップすることを知らないんだ。彼が僕について知っているのは『Solo Piano』で、僕のことをピアノ演奏者だと認識している。おそらく誰かから僕がラップすることは聞いているかもしれないけど、そこは認識していないようだ。僕が今の時代の人だったからこそ、ドレイクのピアノ演奏者として一緒に仕事ができるというわけだ」
----ファイストのアルバム『レット・イット・ダイ』をプロデュースして、それが第50回グラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバムなど計4部門にノミネートされましたが、ファイストの「1,2,3,4」がiPodのCMに使われただけではなく、その後、あなた自身のソロ曲「Never Stop」がiPadのCMに起用されましたね?
「そうなんだ。ようやく僕の努力が報われてきた。iPadのコマーシャルでピアノが聴こえてくると、それは僕の曲だ。iPadは、良くも悪くも、我々の現代の時代の機器だ。そのサウンドトラックとして、僕のピアノ楽曲が使われているということは、僕はピアノを現代の楽器として復活させたと言えるのではないかと考える。僕は、ピアノ演奏者として現代の時の人となる、という夢を叶えているというわけだ」
iPadのCMでお馴染みになった「Never Stop」(音のみ)
----ハモンドオルガンやウルリッツア、ムーグ(モーグ・シンセサイザー)といった印象的なサウンド、そしてシンセサイザーといった鍵盤楽器が存在感を示す中で、ピアノはいつの時代もジャンルを超えて愛され続けてきました。チリーさんにとって、ピアノという楽器の魅力は音色も含めてなんだと思いますか?
「もし君が一人でピアノのDを弾くとする。僕がDを弾くとする。それは同じ音だ。ピアノの一音を表現するということはできないんだ。人間の声が一つの音を表現すると音楽が生まれる。チェロもフルートも可能だ。それらには、ブレス、ヴィブラートなどがあるからだ。ピアノ以外の全ての楽器には、そういう要素があって、一つの音で色々な表現ができる。ピアノはオーケストラのような存在になろうとしているが、実際はとても弱い。ピアノのこういった表現性に対する葛藤には詩的なものがある。作曲家は、ピアノをどのようにして使えば、あたかも表現しているような幻想を生み出すことができるかという概念に魅せられている。ピアノの表現というのは音と音の間でしか起こらない。チンパンジーが一音を弾いてもグレン・グールドが一音を弾いても同じなんだ。次の音を足して初めて、ピアノ演奏者とチンパンジーとの違いがわかる。それが多くの人を魅了させているのだと思う。ピアノのポテンシャルは巨大だが、真の表現というのはピアノでもってはできない。そこにとても詩的なものを感じる。この葛藤は人間が共感できるものだと思う」
次回の最終回では、チリー・ゴンザレスが尊敬するピアニストについて。
*To Be Continued