Music Sketch

ジェイソン・ムラーズ、最新作『YES!』について語る

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ジェイソン・ムラーズに初めてインタビューしたのは、2005年。『Mr.A-Z』が発売され、「Wordplay」が大ヒットしていた頃だった。忘れもしないのは、その頃アラニス・モリセットの《"Jagged Little Pill"Acoustic Tour》のオープング・アクトに起用され、その時の様子を訊いたところ、「ケータリングが充実していて、全部ベジタリアンなんだ。おかげでそれまでのハンバーガーにビールのような食生活が改善されて健康的になり、無事にツアーを乗り切れたのさ」と話していたこと。その3年後の『We Sing, We Dance, We Steal Things』(2008年)発売時に取材した時には、「3年前からサーフィンを始めて健康管理に留意するようになり、野菜を加熱すると、本来持っている栄養や酵素が失われるから、ベジタリアンかつ、ローフード・ダイエットも徹底している」と話すほど。今や自宅のアボガド畑にはソーラーシステムを導入しているというこだわりぶりだ。この7月に最新アルバム『YES!』をリリースした彼に、電話取材した。(協力:鈴木美穂さん/LA在住)

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ジェイソン・ムラーズ、37歳。アコースティック・ギターを軸にしつつ、ソウルミュージックやファンク、R&Bやレゲエを取り込んだポップソングが魅力。サーファーの音楽シーンでも注目されている。

* * * * *

■ レイニング・ジェーンとコラボした最新作

―素晴らしいアルバム『YES!』が完成しましたね。アルバムタイトルからしてポジティヴな印象を受けます。

ジェイソン・ムラーズ(以下、J):「そう言ってもらえて、嬉しいよ。ありがとう!」

―どのようなモチベーションで取りかかったのでしょうか?

J:「モチベーションになったのは、僕のコラボレーターたち。僕はこのアルバムを、レイニング・ジェーン(Raining Jane)という名前の4人の素晴らしいミュージシャンたちとクリエートした。彼女たちと過去8年間一緒に曲作りをしてきて、その曲を振り返ってみたら、美しいアルバム(になるほどの数)になっていたんだよ。ポジティヴな曲をパフォーマンスするのが大好きな僕としては、これらの楽曲は僕の総合的な使命にすごくフィットすると思ったから、こうして取りかかったんだ」

―全ての曲で、曲作りから一緒に作業したの?
 
J:「最終的に、アルバム中9曲か10曲は彼女たちと書いた曲で、その他に僕がこれまでに作った曲で、このアルバムのテーマにフィットすると思った曲を入れたよ。でも、レコーディングは全部彼女たちと一緒にやった」

―そもそも一緒にやるようになった経緯を教えて下さい。彼女たちの楽曲「From Me To You」でもコラボレーションしていましたね?

J:「僕たちは某大学で同じショウに出演したんだ。彼女たちのステージを見て、そのアティテュードと観客とのやりとりがすごく気に入って。自然と僕たちは親友になって、それ以来ずっと一緒にジャムしている」

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7月に来日した時のイベント出演時の模様。Raining Janeのメンバーも2人同行。


―コラボすることで、あなたのどのような面が引き出されたと思いますか?

J:「彼女たちは、喜び、幸せ、感謝、安定感を僕から引き出してくれた。彼女たちの演奏って多様で、エンジェリック(天使のよう)なんだ。それが僕の心を開いてくれて、僕が違う風に歌ったり、演奏したりするように導いてくれた。それで楽曲もジェイソン・ムラーズだけのものじゃなくなって、5人のものになった。彼女たちはファミリーの感覚と、チームワークとコミュニティをもたらしてくれたと言っていいと思う」

―レイニング・ジェーンの魅力について教えて下さい。

J:「僕は彼女たちの音楽に対するアプローチが大好きなんだ。全員がマルチ・インストゥルメンタリストで、自分たちの音楽にすごく情熱を持っている。しかもそのやる気を音楽で見せるだけでなく、他の若い女の子たちをインスパイアして、力を与えている。そうやって、インディペンデント・ミュージックを15年間も持続しているんだ」

「LOVE SOMEONE」


■ レコーディングにミント・ティーは必須

―『YES!』を聴いていると必要最低限のサウンドやコーラスで演奏されていながら、ペダル・スティールやオルガン、ウルリッツァ、シタールなど、そしてあなたの息をふっと吐き出すようなヴォーカル・スタイルまで、絶妙で素晴らしいサウンドスケープを生み出しています。特に「Love Someone」「Long Drive」のような音の世界観はどのようにして具現化していったのでしょう?

J:「サウンドスケープは、僕とレイニング・ジェーンとの強味とアイデンティティを軸にして創られた。この4人組は素晴らしいシンガーたちであり、クラシックを学んだシタール奏者もいるし、チェロ奏者もいるし、ペダル・スティールにエレクトリック・ギターと、何でも演奏できる演奏者もいる。だから、通常は全員が楽器をピックアップして、ジャムを始める。そして心を開いて、ストーリーを語り始める。そうやって僕たちの心を動かすパートや曲にフィットするパートを、全員が一緒に創っているんだ。だから最初から最後まで僕たち全員の本当のコラボレーションで、即興と、ジャムセッションと、いろいろ改良しながら曲をクリエイトしていったんだ」

―レコーディングの際に、スタジオの雰囲気や食事など、気をつけたことはありますか?

J:「唯一必要なのは大量の水。それと、すごく強力なミント・ティーを持参している。刺激になって目が覚めるし、僕のクリエイティヴな意識を作動させる効果があって、それに鼻と喉にすごくいいから、飲みながら歌うのが好きなんだ」

―「Quiet」は残響音を含めて素敵な曲です。どのような環境でレコーディングしたのでしょう?

J:「この曲は書くのは楽だったけど、レコーディングもパフォーマンスも凄く挑戦だった。ロサンゼルスの2人の友人、ダニエル・オメリオとアマー・マリックと一緒に書いたんだ。僕たちはみんな小さな街の出身で、小さな街には成長する可能性があって、一生のうちに急成長することだってある。僕らはそのことを考え、それからテクノロジーがどんなに速いスピードで進化しているかを考えた。時々僕はそこについていけないことを心配しすぎて頭が痛くなるけど、この曲の中で、僕は最愛の人である彼女に、今、僕を助けてくれていることを感謝しているんだ。この曲はレイニング・ジェーンとスタジオでレコーディングしたものの、僕のヴォーカルは家で歌うことになった。だからちょっと雰囲気が違っていた。単純にこの曲のレンジと感情の関係で、数週間の間に、このパフォーマンスに落ち着くまで50回から60回は歌った。そうやって、この曲はやる度に変わるんだって気づいたんだ」

―家でレコーディングをしたのはこの曲だけですか?

J:「いや、他にも沢山あるよ。「Love Someone」、「3 Things 」、「You Can Rely On Me」、「 It's So Hard To Say Goodbye To Yesterday」 は、全部、家でやったんだよ。その後でマイク・モギスがネブラスカで加えてくれた部分を除いてはね」

「Hello, You Beautiful Thing 」


■ もっと自然環境に目を向ける必要があると痛感

―前作以上に「愛」をテーマに掘り下げた楽曲が多いですね。愛の魅力を歌う一方で、「Out Of My Hands」や「It's So Hard 〜」のような心に痛手を負った歌もあります。曲を作ることもセラピーのひとつになると思いますが、あなた自身は失ったものから立ち直るとき、どのように気持ちを切り替えているのでしょう?

J:「んー......そうだな、深呼吸して、どんな感情でもそれを感じたり、泣いたりすることを自分に許可して、それから"ありがとう"を言って、またやり直す」

―その「It's So Hard 〜」は、コーラス含めて、どこか教会音楽を思い起こしてしまうのですが、このようなアレンジにしたのには何か意味があるのでしょうか?

J:「うーん、ただ僕の頭の中でこういう音が聞こえていて、僕のハートがこう感じていたから、こういう曲として出来上がったんだ。他のヴァージョンはなく、これが僕のこの曲の解釈なんだ」

―地球温暖化の現状を知るために南極へ行ったり、人身売買を反対するための運動の一環としてミャンマーでフリーライヴを行うなど、よりよい環境作りのために幅広い活動をしていますが、「Back To The Earth」はどのようなきっかけから書くことにしたのですか?

J:「南極に行った時、僕は目を開かされて、もっと自然環境に目を向ける必要があると痛感した。それで、自宅の庭で過ごす時間を増やすことに決めたんだ。だからこの曲は、庭での生活によって僕がどんな素晴らしい気分になるかについて歌っている」

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ジェイソンのライヴはいつも楽しくて、心が温かく満たされる。


―この歌は、みんなで合唱することを意図して作っていますよね? 「I'm Yours」の大ヒット以来、観客と共に声を合わせて歌うことの重要性を感じていますか?

J:「合唱する曲を作るのが重要な主な理由は、僕がパフォーミング・アーティストだから。曲はパフォーマンスされることになるもので、観客が声を合わせて歌えてアクセスしやすい曲がいくつかあるのは、いつだっていいことなんだよ」

―このアルバムの中で、一番思い入れのある曲はどれですか?

J:「「Long Drive」が大好きだよ。僕が5ピースとしてどんなレンジをやるかということを一番良く表現している曲だから。あらゆるユニークな要素が入っていて、僕たちのコラボレーションの成果なんだ」

―最後に、アルバムのアートワークに込めた意味を教えて下さい。

J:「5羽の鳥は僕たちの象徴。レイニング・ジェーンと僕が最初に一緒に曲作りを始めた時、僕たちは「A Beautiful Mess」っていう曲を書いた。その曲は、僕の3枚目『We Sing, We Dance, We Steal Things』に入っている。その曲の歌詞に、"We will fly like birds not of this earth"っていう一節があるんだ。そして僕たちがこのアルバムをリリースするにあたって、今感じているのが、僕たち5人が一緒に飛ぶ時だっていうことなんだよ」

―また11月の日本でのコンサートをとても楽しみにしています。

J:「ワンダフル! ありがとう」

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『YES!』 真夏に優しい、涼やかで心地よくなれる一枚。

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ジェイソン・ムラーズ 来日公演

2014年11月11日(火) Bunkamura オーチャードホール
OPEN 18:00/START 19:00
全席指定 前売り:¥8,000
●問い合わせ先
SMASH Tel.03-3444-6751
HOT STUFF Tel.03-5720-9999


2014年11月13日(木) グランキューブ大阪
OPEN 18:00/START 19:00
全席指定 前売り:¥8,000
●問い合わせ
SMASH WEST Tel.06-6535-5569


2014年11月14日(金) 東京国際フォーラム ホールA
OPEN 18:00 START 19:00
全席指定 前売り:¥8,000
●問い合わせ
SMASH Tel.03-3444-6751
HOT STUFF Tel.03-5720-9999

詳しい情報はこちら≫

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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