虹の刻

【新連載 虹の刻】村上虹郎、山田智和、又吉直樹、3人が競演。

虹の刻

映画にならなかった感情、言葉にならなかった詩――。曖昧なものこそ美しく、情熱的な瞬間がある。表現を探求し続ける3人のクリエイターが生み出す物語の幕開けは、奄美大島から始まった。

フィガロ本誌3月号より始まる新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、文筆家の3者を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。

章ごとに変わる文筆家の第1回目には、撮影地である奄美大島の血を引く、又吉直樹が登場。連載のスタートを記念して、又吉がイメージした”とある瞬間”とは――。
本誌に掲載した「島の話」とは別の、もうひとつの物語を特別公開。

 

ジャケット¥81,000、パンツ¥37800/ともにワコマリア(パラダイストウキョウ) ベルト、シューズ/ともにスタイリスト私物

 

バスに乗った」 又吉直樹

一人でバスに乗った。バスに乗る習慣がない自分には新鮮だった。まずバスの窓が想像していたよりもかなり大きい。バスの種類にもよるのだろうけれど、こんなに大きいとは知らなかった。たまに幼い顔しているくせに横に並んでみたら背が高くて驚かせてくる人がいるけど、そんな感じだ。ほかに気になったのは手すりがオレンジ色だったこと。「頭とかぶつけてしまう人がいっぱいおったからやろうな」と推測するが、一人だから伝える人がいない。

仕方がない。運転手に気づかれないようノドの奥に指を無理やり突っ込む。下腹部から熱い塊がせり上がってくる。音でばれないようにバスのブレーキ音に合わせて、自分を産み落とした。車窓から見える看板で言葉を教えた。息子が最初に覚えた言葉は、「モータープール」と「学生ローン」だった。それらを組み合わせて、「ローンプール」という恐ろしい言葉や、「モーター学生」という格好良い言葉が口癖になった。

息子の成長を見届けずにほかの乗客達は途中で降りてしまった。僕はバスに乗ることが目的だから、終点まで乗るつもりだ。僕達親子しか乗っていないバス。運転手のアナウンスは僕達だけのものだから、一応、イヤホンを片方はずして、ちゃんと聞く。息子は反抗期なのか、ずっと街の景色を眺めていてブレーキがかかったときも手すりを使わず体重移動だけでなんとかしている。終点に着く頃、「バスの運転手になりたい」と息子が言った。運転手の背中を見て育ってしまったか。そんなことより、もう一人分料金を払うべきだろうか?

 

監督・山田智和
Tomokazu Yamada

1987年生まれ、東京都出身。クリエイティブチーム「TOKYO FILM」主宰。サカナクションや水曜日のカンパネラなどのミュージックビデオをはじめ、CMやドラマ、映画などのディレクションを行う。WIRED CREATIVE HACK AWARD 2013グランプリ受賞、ニューヨークフェスティバル2014銀賞受賞、GR Short Movie Awardグランプリ受賞。
俳優・村上虹郎
Nijiro Murakami


1997年生まれ、東京都出身。カンヌ出品作『2つ目の窓』(2014年)で主演を務め、俳優デビュー。17年公開『武曲 MUKOKU』で、第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。18年には、『犬ヶ島』、『ハナレイ・ベイ』、『銃』などに出演。映画『チワワちゃん』が公開中のほか、5月には舞台「ハムレット」にフォーティンブラス役で出演予定。
文・又吉直樹
Naoki Matayoshi


1980年生まれ、大阪府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年、同期の綾部祐二とお笑いコンビ・ピースを結成。15年、文芸誌「文學界」にて発表した『火花』(文藝春秋刊)で第153回芥川賞を受賞。著書に、13年『東京百景』(ワニブックス刊)、17年『劇場』(新潮社刊)など。

 

●問い合わせ先:
パラダイストウキョウ
tel:03-5708-5277

réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : TP SOUND, acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : NAOKI MATAYOSHI, stylisme : RYOHEI MATSUDA, coiffure et maquillage : TAKAI

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