齊藤工 活動寫眞館・弐拾伍 ロシアの俳優たち。
「齊藤工 活動寫眞館」について
俳優、斎藤工。そして、映画監督、齊藤工。表舞台であらゆる「人物」を演じ、裏方にまわり物語をクリエイトしていく。齊藤工がいま見つめるものとは、何か。彼自身がシャッターを切り、選び出す。モノクロームの世界に広がる、「生きた時間」を公開していきます。今回は、『ソローキンの見た桜』に出演した3人のロシア人の俳優たちが登場。
3月22日、角川シネマ有楽町の控え室は熱気にあふれていた。この日は、齊藤が出演した『ソローキンの見た桜』全国公開の初日。その舞台挨拶に臨むために、日本とロシアのキャスト・スタッフが集結していたのだ。
1回目の挨拶を終えたキャストたちが、「緊張した?」などと声をかけ合っている様子は、とても和やかな雰囲気。2回目に登壇するまでのつかの間、撮影は行われた。
最初は、ソローキンを演じたロデオン・ガリュチェンコ。エレベーターの前に佇むロデオンを、至近距離から齊藤が撮影。彼らの周りだけ、心地よい緊張感が漂っているようだ。
映画では愛媛のロシア兵捕虜収容所に、ある任務を持って収容されている将校を演じたロデオン。シリアスな表情は解かれ、柔和な雰囲気を纏っていたのが印象的だ。
撮影が終わると、男の子が齊藤に近づいてきた。井上雅貴監督と、監督の妻でプロデューサーのイリーナ氏の愛息だった。齊藤が彼にカメラを向け、シャッター音を聞くたびに男の子は動く。カメラ越しに会話をしているような微笑ましい光景。
続いて撮影したのは、アンドレイ・デメンチェフ。映画ではロデオン扮するソローキンと行動を共にするロシア兵のひとり、ミルスキーを演じている。映画の前半で、松山の少年にコニャックを買ってきてくれないかと頼んでいるのが彼だ。
僕の中で彼はとても有名な俳優なんです、と齊藤が言った。以前、アンドレイが出演した、全編が主人公の視点から撮影された実験的な映画『ハードコア』(2016年)を観て以来知っていたという。
凛とした強い眼差しを向けるアンドレイを撮影する齊藤の肩越しに、ロデオンもアンドレイをスマートフォンで撮影していた。
2回目の舞台挨拶の時間となり、キャストとスタッフは劇場へと向かう。
「活動寫眞館」第21回にも登場した主演の阿部純子は、物語にちなんだ桜の文様と色の着物姿で登壇。インタビューでも着物が大好きと語っていた阿部は、スクリーンでは錚々たる共演者の中で堂々と主演を務めたが、舞台上の彼女はとても可憐な印象。恋人役を演じたロデオンとも笑顔を交わした。
ロデオンさんは普段はとてもお茶目な方で、カメラを向けると仮面ライダーのようなポーズをとってくださるんです、と阿部が話すと、阿部とは恋人同士の役なので、打ち解けた雰囲気を作りたいと思ってそうしていたのだと、ロデオンは照れたように笑いながら明かした。
齊藤は、特にロシアでの現場が印象に残っていると語り、一緒に登壇していたイワン・グロモフ(写真左)についても言及した。
「ワーニャ(イワン)は俳優であると同時に、ロシアでのシーンの撮影も手がけていました。彼は創造性にあふれていて博学。とてもクリエイティブな現場でした」
捕虜収容所の河野所長を演じたイッセー尾形は、「活動寫眞館」第19回に登場。以前から松山の捕虜収容所のことを知っていたという尾形。“塀のない収容所”という、信じられないような状況が、果たしてうまくいったのかとずっと疑問だったが、映画を通して感じたのは本当の人間と人間との付き合いだった、と振り返る。
尾形は劇中で、アレクサンドル・ドモガロフ扮する実在の人物、ボイスマン大佐と対峙する場面が多かった。ドモガロフさんがボイスマンとして存在してくれていたから、自分は河野になれた、と語った。
そのアレクサンドル・ドモガロフについて、阿部も印象に残っているエピソードを披露した。彼がロシアの国民的俳優であると聞いており、リハーサルルームに彼が入ってきた時に空気がピンと張りつめたように感じて、とても緊張したという。撮影が終わり、彼がこれまで見たことのないような笑顔でハグしてくれて、まるで大きなテディベアに包み込まれているようだったと話して、会場を沸かせた。
舞台挨拶終了後、最後に齊藤が撮影したのがアンドレイ・ドモガロフだった。スクリーンでの姿と最も印象が違っていたのが彼で、それだけでも演じる役柄の幅広さを感じさせた。
楽屋で座る彼に、齊藤が静かにカメラを向ける。緊張で空気が張り詰めたような数分間。いつものごとく、齊藤の撮影は速く、瞬時のうちに被写体の魅力をとらえていくようだ。写し取られていたのは、微かに微笑んでいるようにも見える穏やかな表情だった。
「ロデオンさん、ドモガロフさん、アンドレイさんとお会いするのはこの日が初めてでしたが、皆さん本当に魅力的な人柄で、すべてがナチュラルでした。
彼らはまるで異国にいる感じがなかった。撮影で訪れたサンクトペテルブルクで、私もそうでした。“映画”が繋いだのだと思い、井上監督に感謝いたします。彼らのファンになりました。今後また国際的なプロジェクトで再会できることを夢見て」
『ソローキンの見た桜』
2019年10月1日(火)よりロシアにて劇場公開、10月23日(水)にはBlu-ray&DVD発売が決定。豪華版Blu-rayには、齊藤工撮影による特別番組やメイキングも収録!
●監督・脚本・編集/井上雅貴
●出演/阿部純子、ロデオン・ガリュチェンコ、山本陽子、アレクサンドル・ドモガロフ、斎藤工、イッセー尾形
●2019年、日本・ロシア映画
●配給:KADOKAWA
https://sorokin-movie.com
©2019「ソローキンの見た桜」製作委員会
Rodion Galyuchenko
1987年、ロシア・モスクワ生まれ。2007年映画デビュー。ロシアをはじめウクライナやベラルーシなどでも多くの映画やドラマに出演。コメディからシリアスな作品まで幅広い役柄をこなす、注目の若手俳優。
アレクサンドル・ドモガロフ
Aleksandr Domogarov
1963年、ロシア・モスクワ生まれ。舞台や映画、テレビなどで幅広く活躍するロシアの国民的俳優。歴史上の人物を演じる役者として定評がある。2007年、アーティストの栄誉称号である「ロシア人民芸術家」授与。
アンドレイ・デメンチェフ
Andrei Dementiev
1988年、ロシア・エカテリンブルク生まれ。映画や舞台で俳優として活躍。主な出演作はイリヤ・ナイシュラー監督『ハードコア』(2016年)。
TAKUMI SAITOH
移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰。監督作『blank13』(18年)が国内外の映画祭で8冠獲得。昨年12月、パリ・ルーヴルでのアート展『Salon des Beaux Arts 2018』にて写真作品『守破離』が銅賞を受賞。NHK大河ドラマ「いだてん」第2部に出演中。企画・プロデュース・主演を務める『MANRIKI』が11月29日に公開。企画・脚本・監督・撮影を手がける『コンプライアンス』が2020年2月公開予定。 www.b-b-h.jp/saitohtakumi