
【TAO新連載vol.1】ダイエットと体型についてPart 2 痩せているは誉め言葉?
TAO'S NEW YORK NOTES
ファッションモデル、女優として活躍中のTAOが、ニューヨークに生活の拠点を移して10年。現在、ハリウッドを中心にさまざまな作品への出演を重ねている彼女が、アジア人として、モデル出身の女優として、日々抱く想いを綴る新連載がスタート。連載1回目パート2では、パート1で綴ったペスカテリアンダイエットのことから、体型と健康の話へ――。
しかしモデル出身という肩書きのためか、食生活について聞かれることは昔からすごく多い。その度にどう答えていいのか困っていた。
皆が知りたいのはどういうヘルシーな食生活をすればモデル体型になれるのか、ということなのではないかと捉えている。
ただ私は、オーガニックか否かというところは気になっていても、カロリーや栄養を気にした「意識高い系」の食事は摂っていないので、皆にありがたがってもらえるような興味深い回答はできなかった。
そもそも、これも聞き飽きているとは思うけれど、モデルには大きく分けて2パターンの体型があると思っている。ひとつは女性らしい丸い身体つき、もしくは筋肉がつきやすいなどサイズアップがしやすく、常に体重が増え過ぎないように管理をしているタイプ。もうひとつは生まれつき細身で、脂肪も筋肉もつきにくく、管理しないとすぐに痩せ過ぎてしまうタイプ。そして私は後者のタイプなので、みんなが聞きたがるようなアドバイスはできない。
かといって「何もしていません」は嫌味だと言われるし、「太れるように夜中に甘いものたくさん食べています」は推奨するべきアドバイスではないと思う。
だからこそ、前者タイプのモデルや意識の高いファッションリーダーたちに、みんなが憧れるような食生活やエクササイズを提案してもらう役割を担ってもらい、私はこの手の話題に触れないようにしてきた。
ここでちょっと複雑なのが、モデルはみんな常に過酷なダイエット(この場合は痩身)をして体型をキープしていて、それが不健康な女性の悪い手本になっているという偏ったイメージがついてしまうことだ。
いまでこそプラスサイズモデルたちが人気だけど、基本的にハイファッションの世界ではサンプルサイズを着こなせる体型というのがモデルに求められる条件である。
身長が高いぶん細く見えがちだけど、実際のモデルのサイズはメジャーで測ってみると、平均身長の日本人女性のスリーサイズよりもずっと大きい。
そして世界中でバッシングの対象になるムーブメントが、痩せ過ぎモデル問題。
エージェントやデザイナーたちが無理やりダイエット(痩身)をさせるために不健康で拒食症になってしまうモデルがいて、そのモデルたちを起用することで、「細い=美」という観念を世の女性に植え付けてしまっているという話だ。
プラスサイズモデルとして活躍中のアシュレー・グラハム(中央)が、その功績を国連で表彰された授賞式にて。Photo/Getty Images
もう一度言うけれど、私はもともと痩せ過ぎ体質なのでエージェントから無理にダイエットをすすめられたことはない。逆に太れないことに「だから仕事がもらえないんだ」と傷つくことを言われたりすることはあった。
結論から言えば、エージェントや業界関係者からの体型に対するプレッシャーは、どちらのタイプにせよ絶対にある悲しい現実だと思う。ただ太らせないように食事を与えないとか、日々の食事を細かく管理するなど、無理強いするケースはごく稀だ。
エージェントの友人から言わせると、そこまで強制してつなぎとめなくてはいけないほど、モデルという職業は人材に困っているわけではなく、実際にいまも昔も比較的人気の商売なのだから、嫌がる人に無理やりやらせる必要はないのだ。
でも、ほんの一握りだけれど、周りや自分自身へのプレッシャーに打ち勝てず、拒食症になってしまうというモデルがたまにメディアに取り上げられる。
マスコミにとっては格好の話題になってしまう。
私はどこへ行ってもガリガリひょろひょろとからかわれてきた。そんなコンプレックスの塊の女の子が、ありのままの自分で評価してもらえる場所を見つけたのだ。
モデル業は心の拠りどころだった。
きっと夢を持った若いモデルたちにケアレスな言い方で精神にダメージを与えるエージェントや業界関係者はたくさんいる。そんな状況は変えていく必要があるし、変わってきていると信じたい。
けれど、メディアが前後の経緯も無視し、おもしろおかしく描き上げる不運なモデルたちのケースを取り上げ、私たちの大半であるコンプレックスと戦ってきた「生まれつき」な女性の体型まで否定されると、やるせない気持ちになってしまう。
どうして他人に「太っているね」と言ったら失礼になると教えられるのに、他人に「痩せているね」と言うのは褒め言葉になってしまったのだろうか。
どちらも体型についてコメントしているとてもセンシティブな発言だと思うのに、痩せている人に「痩せている」と言うのは、太っている人に「太っている」と言うことと同じくらい人を傷つけてしまう言葉だと理解されないのだ。
特別なダイエットが要求される職業で言ったら、アスリートの方がもっと過酷だと思う。
ボクサー、相撲とり、バレリーナ、器械体操やシンクロナイズドスイミングの選手……内情をよく知らないのでいい加減なことは言えないけれど、成績を出すために努力をしているアスリートは「ストイックでかっこいい」とされる。
私たちだって彼らと同じように夢を追い、成功するために努力している結果なのに、美や流行を商売にするファッション界はバッシングの対象になってしまう。
ここ数年、プラスサイズモデルたちが周りから共感と支持を受けて輝けば輝くほど、太りたくても太れない自然体の華奢なモデルたちが「個性」として評価されなくなるというジレンマを感じていた。
「ありのままの自分(体型)を愛そう」なんてスローガンを見ると、「私たちひょろひょろだってそうだよ??」と言いたくなる。
モデル業を卒業し俳優業に専念し始め、体型のコンプレックスの呪縛から逃れられたと思ったけど、そう甘くはなかった。
ハリウッドでは、ファッション界以上にに細身の人はふくよかな人に比べて「魅力がない」と言われてしまうという悲しい現実にぶち当たっている。
そしてその「魅力」とは、バストやヒップの大きさで判断されがちである。女優に対し"She is too skinny"という場合は、たいがい「おっぱいが小さい」という意味だ。逆にどんなにウエストが細くても、バストが豊かであればバッシングは受けにくい。
映画のタイプにもよるけれど、メジャーとされる大きいスタジオが配給する映画のキャスティングタイプは、「人種の多様性」というものを意識し改善に向かいつつも、「体型の多様性」はファッション界の方が少しだけ進んでいるのかもしれない。
それに対して日本の芸能界というと、比較的真逆であることも興味深い。日本ではふくよかであるより、やはり全体的に細身である方が支持される気がする。
どちらでも活動していきたい私としては、またしてもジレンマを感じざるを得ない。
話が偏った方向に行ってしまったけれど、私が伝えたかったのは、見た目の体型とダイエット(食生活)では、人の健康状態は計れないということだ。
ベジタリアンやヴィーガンが肉食の人より健康かどうか、という話は常に論争の的だし、標準的体型の人が細身の人やふくよかな人より栄養のバランスが取れているかなんて見た目からはわからない。
自分にとっての「健康」は人それぞれで違っているし、年齢や環境でも変化し、ましてや他人が判断できるものではないのだ。
私の脳と身体がいきなりシグナルを出したように、そのシグナルを敏感に受け取り、ストレスなくふさわしいダイエットを見つけることが、健康で美しい身体でいる鍵だと思っている。
そして私も周りがなんと言おうと「これが自分なんだ」とコンプレックスを感じなくなるように、また、外見だけではないところで勝負できる女優へと精進していきたい。
ユニオンスクエアのグリーンマーケットにて。
photos et text : TAO, photo : TAKUMI SAITOH(TITLE BANNER)
TAO
千葉県出身、LA在住。14歳でモデルを始めた後、2013年『ウルヴァリン:SAMURAI』のヒロインとして女優デビュー。以降、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)やドラマ「ハンニバル」「高い城の男」(ともに15年)など話題の映画やテレビドラマに出演。18年はHBOドラマ「ウエストワールド」に出演、日本では『ラプラスの魔女』や『マンハント』が公開され、国内外で活躍の場を広げる。
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