連載【石井ゆかりの伝言コラム】第17回「スーツ」&「ダイヤモンド」

石井ゆかりの伝言コラム

第17回「スーツ」&「ダイヤモンド」

今回のお題、「スーツ」はすぐにピンときたのですが、「ダイヤモンド」は少し考えてしまいました。4月の誕生石ですね。なるほど。

就職活動から入社式、新人研修くらいまで着用するのがリクルートスーツだと思いますが、かくいう私も20年ほど前、お世話になりました。
といっても、当時は紺色が主流で、黒やグレーなどもOKだったので、今ほど「完全一致」な感じはなかったと思います。私が選んだのはチャコールグレーのスーツでしたが、ほかにモノトーンの千鳥格子の、ロングスカートのスーツも持っていて、両方を面接に着用していました。今の就職活動の風景を見ると、「私は自由だったなあ……」と思います。
あの頃の私は、まさか20年後の私がどんな打ち合わせでも基本的にジーパンで出ているなんて、想像もしませんでした。
人生、何が起こるかわからないものです。

学生時代は化粧っ気もなく、ラフな格好で通していたのですが、最初に正社員として入った会社でのマナー研修で「メイクは礼儀である」というようなことを言われました。大変憤慨したものの「まあ、ちょっとやってみるか」と、ファンデーションと口紅を購入して塗ってみました。すると、驚いたことに、唇がまるでオバQのように(たとえが古くてすみません)、ぼかんと腫れ上がってしまったのです! どうも、私は口紅はもとより、色つきリップクリームを塗っても唇が腫れる体質だということがわかりました(どういうわけか、最近はそうでもなくなりました。成分が変わったのでしょうか…)。
さらに、金属アレルギーを発症しました。ベルトのバックルがお腹に当たり、お腹の真ん中がひどくかぶれました。ゆえに、指輪やピアスなどのアクセサリーも身につけにくい、ということが判明したのです。

一応スーツは着ているものの、メイクもアクセサリーもだめなのです。そういうものが特に好きだったわけではないのですが、何か非常に損をしているような、理不尽なものを感じました。

たとえば「指輪」というとたいてい、シルバーやゴールドといった金属の台に、宝石が填め込まれている、という形になっています。それが「ダイヤの指輪」「ルビーの指輪」というふうに呼ばれます。
しかし、私は金属アレルギーで、「ダイヤの指輪」の金属部分が困るのです。
つければかゆくなるアクセサリーの売り場に立ち、
「そもそも、本当に『ダイヤの指輪』であれば、指輪全体がダイヤモンドでできている、くらいの勢いが欲しい!」
と私は思いました。
「本当の本当にダイヤの指輪なら、ちくわ的に、パインアメ的に、全体的にダイヤであるべきだ!」
と思ったのです。
ダイヤモンドのパインアメ……いったいいくらくらいするのか、想像もつきません。

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そんな折、ぶらぶらと歩いていたユザワヤの店内で、私は貴石のビーズ売り場に迷い込みました。そして、そこにあったムーンストーンのビーズに目が留まったのです。このビーズは四角い形をしていました。
これを見て私は突然
「これをテグスで連結し、指輪を作ったら、本当の『ムーンストーンの指輪』ができる……!」
と、ひらめいたのです。
「金属の台に石を添えた指輪」ではなく、徹頭徹尾の、石のリングです。ちくわ的に、パインアメ的に、「ムーンストーンの指輪」になります。
そうだ、それしかない。

私は適当数のビーズを買い込み、繋ぎ合わせて指輪を作ってみました。小学生が遊びで作ったみたいなものが出来上がりました。想像したようなカッコイイものにはなりませんでした。でも、これは安心してつけられる、純粋にムーンストーンでできた、私の指輪です。
これを仕事につけていった当時の私は、度胸があったなあと思います。どういうセンスをしていたのか、我ながら謎です。

おそらく、それはファッションセンスのような意味合いではなかったのだろうな、とも思います。社会人になったばかりのあの頃の私は、巨大な「社会」と闘っていくために、何か防具や、お守りのようなものが欲しかったのだろうと思うのです。若くて、エネルギーに満ちあふれていましたが、同時に、強烈に緊張し、怯え、不安でいっぱいだったのです。その不安を、あの小さなビーズの指輪に、少しだけ救ってもらいたかったのだろうと思うのです。「溺れる者は藁をも掴む」と言います。藁を掴んだって溺れるのには変わりないのですが、それでも何か、掴めるものが欲しい。それがあの指輪だったのかなと思うのです。

肥って着られなくなったリクルートスーツは早々と処分しましたが、あのおかしなビーズの指輪は、なんとなく処分できないままに、今もとってあります。

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illustration : SHOGO SEKINE

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