お裁縫サスペンスからジャッキー・チェン主演最新作まで! 2026年の幕開けにぴったりな映画4選。
Culture 2026.01.02
世界初の"お裁縫クライムサスペンス"映画『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』はじめ、大人になることの喪失感と希望を蘇らせてくれる『グッドワン』、90分間のワンシチュエーション・ノンストップ会話劇『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』、ジャッキー・チェン主演最新作の『シャドウズ・エッジ』と今年も名作が豊作の予感。2026年の一本目に!
01.『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』
文:小沼純一 音楽批評家、詩人
糸の表情や音の重なりが、緊迫感とともに残すもの。
既製服があたりまえになっていると、裁縫しごとに、こまごまとした糸や針、糸巻きを要することを忘れている。スイスの人影のない風景とともに、何色ものカラフルな糸たちを目にした。ひさしぶりだ。ぴんと張った糸の直線、幾何学的な様子、きりきりとたつ音も。ミシンのだだだだという打撃音はマシンガンみたいに暴力的。鋭い針は布を穿ち、べつの色に染めかえてゆく。
スイスの山間の町で、亡き母が遺した裁縫店を引き継いだバーバラ。大きな糸巻きを背につけた車に乗って、顧客の家へと飛ばす。もう店もたたまなくちゃあ......。若き店主は憂鬱だ。と、ふたりの男が路上に倒れている。これって麻薬取引?「完全犯罪」「通報」「直進」、3つのことばが頭に浮かぶ。どれが正しく、どれが良く、どれが運命を変えるのか。映画は、可能世界だか多元宇宙だか、3つの解を提示してくる。口数が極端に少ないバーバラは、思いのほか力持ちで策略家、無謀で諦めない。映画はそれで駆動する。
文字どおり、細い色とりどりの糸(意図!)で宙づりになったサスペンス。サスペンスが綱渡りするのは、音。周りにひとはいないのに、ラジオから流れる音楽が、アナログなスウィッチのオンオフが、ケータイの着信音が背景に重ねられる。音楽のみごとな効果。弦楽器の、弓の木の部分で弦を叩くコル・レーニョ奏法が幾つも重なって、乾いた、不穏なリズムをつくりだす。オンド・マルトノのメロディがその上で不気味な曲線を描く。
サスペンスとカタルシス、でも残るのは、意外に、子にかかる母や父の重圧だったり。紐を引っ張ると、刺繍から、録音された声が再生される。音が、過去を浮かびあがらせる喋る肖像画─こうしたさまざまなからまりがゆえのお針子?
●監督・共同脚本/フレディ・マクドナルド
●出演/イヴ・コノリー、カルム・ワーシー、ジョン・リンチ、K・カランほか
●2024年、アメリカ・スイス映画 ●100分
●配給/シンカ
●新宿シネマカリテほか全国にて公開中
https://synca.jp/ohariko/
音楽批評家、詩人
1998年、第8回出光音楽賞(学術研究)を受賞。著書に『武満徹逍遥 遠ざかる季節から』(青土社刊)、『リフレクションズ』(彩流社刊)ほか。5冊目の詩集は『sotto』(七月堂刊)。
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02.『グッドワン』

© 2024 Hey Bear LLC.
森の空気や宵の焚き火を素肌で受けとめる旅。
マンハッタンから車で約2時間、同じニューヨーク州の景勝地キャッツキル山地に17歳の少女サムらが憩う。同伴者は父クリスと元役者のマット。マットが夜中に小腹を空かせてテントでインスタントラーメンを啜ると、熊が匂いを嗅ぎつけて娘を危険にさらす!とクリスは怒り狂う。その実、キャンプ慣れした中年世代の悪友男子っぽい馴れ合いに娘が敏感なことも気付かない。そんな反発係数の高い"大人になること"の距離を測りながら、2泊3日の旅を全身で感受するサムを新星リリー・コリアスが体現。鈍色に照り映える瞳の炎とともに、少女の澄んだ憂愁を捉えた焚き火のシーンが、特に忘れがたい。青緑色に静まる湖を心臓部にした山の拍動を、渓流が絶え間なく伝えるよう。
●監督・脚本/インディア・ドナルドソン
●2024年、アメリカ映画 ●89分
●配給/スターキャットアルバトロス・フィルム
●1月16日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://cinema.starcat.co.jp/goodone/
text: Takashi Goto
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03.『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』

©The IDEAfirst Company, Octobertrain Films, Quantum Films
恋愛と文芸創作が綾なす、言葉のデスマッチ。
知られざる映画大国フィリピン発、都会派の対話劇。脚本・演出とも緻密で無駄がなく、サイキックな恋愛サスペンスとしてゾクッとくるほどおもしろい。夜の大都市マニラ、瀟洒なレストランの小テーブルを挟んで年の差20歳の師弟が向き合う。某有名大学・英文科の学科長エリックとその教え子ランス。和気藹々のお喋りはほどなく、自殺した天才肌の作家マルコスを巡る三角関係の様相を呈する。そこに文芸創作上の野望ややっかみが影を落とす。亡きマルコスの人格に各々が憑依するように、自分だけが知っている作家の秘密を競い合う局面まで、師弟のパワーバランスは逆転、また逆転。ボーイズラブものをストイックに突きつめたワンシチュエーションドラマの切れ味、半端なし!
●監督・脚本/ジュン・ロブレス・ラナ
●2022年、フィリピン映画 ●91分
●配給/サムワンズガーデン
●1月17日より、シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開
https://someonesgarden.org/aboutusbutnot/
text: Takashi Goto
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04.『シャドウズ・エッジ』

© 2025 IQIYI PICTURES (BEIJING) CO., LTD. BEIJING ALIBABA PICTURES CULTURE CO., LTD. BEIJING HAIRUN PICTURES CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
ハイテク頭脳戦×フィジカルアクションの本領。
香港の迷宮に暗躍する強盗団VS監視網を駆使する警察隊の逃走×追跡劇『天使の眼、野獣の街』(2007年)を、社会的脅威にもなるほどハイパーテクノロジーが進化した現在形に再構築。マカオの若いサイバー犯罪集団には孤児院出身の彼らを援助してきた父親的存在がいて、この"影"のボスが名優レオン・カーフェイ演じる伝説の野獣、元ネタから不死鳥さながらに蘇った格好だ。警察隊が打つ手はもう、退職した古参刑事=ジャッキー・チェンの召喚しかないだろう。こうして仮想空間とは対極の双璧によって、鍛えた老骨が軋み合うようなリアル空間こそが密度を増す。元刑事の姪に設定された新米刑事の活用法とともに作劇の妙であり、香港映画が培ってきた技と心意気の精華でもある。
●監督・脚本/ラリー・ヤン
●2025年、中国・香港映画 ●141分
●配給/クロックワークス
●新宿バルト9ほか全国にて公開中
https://klockworx-asia.com/shadowsedge/
text: Takashi Goto
*「フィガロジャポン」2026年2月号より抜粋





