Le cercle Chanel

シャネルの羽細工やフラワーを担うアトリエ、
ルマリエ。

Le cercle Chanel

卓越した職人技を誇る、シャネルのアトリエを3回にわたって紹介。今回は、繊細な羽細工や、ガブリエル・シャネルとともにツイードのカメリアを生み出したルマリエにフォーカスする。

ルマリエのアトリエで現在行われていることは、大きく3つに分けられる。羽細工、フラワー、そしてクチュールだ。もっとも創業した1880年は、羽細工が出発点だった。羽で飾り立てた巨大な帽子をこよなく愛したパルミール・コイェットという女性が創業者である。この時代のファッション画を見れば分かるように、女性たちにとって帽子は外出時に不可欠なファッションアイテム。そして、それらの帽子は豪奢に飾り立てられていた。ガブリエル・シャネルのモード界でのキャリアの始まりは、1909年に開いた帽子アトリエ。なぜ彼女が帽子を作ったのかといえば、飾りのない帽子が欲しかったから、というから、1996年にルマリエがシャネルの傘下に、というのは、ちょっぴり皮肉な巡り合わせかもしれない。

180110_chanel_01_02.jpgルマリエのアーカイブに保存されている羽細工の多彩な見本より。photos : Julie Ansiau

ルマリエが創業された当時は、いまと違って羽細工のアトリエがパリには多数存在した。その中でルマリエが名声を得て、いまも存続できているのには理由がある。それは、ルマリエならではのテクニックを開発し続けていたからだ。例えば、羽のマルケトリー。寄せ羽細工と呼べばいいだろうか。さまざまな種類や色の羽を用いて、絵画のように模様を描く手法である。遠目にはプリントの服に見えてしまうほど、手の混んだ精密な技術が必要とされる。これができるのは、ルマリエだけ。このように革新を求めるメゾンの精神は、シャネルの傘下となってからも変わらないどころか、カール・ラガーフェルドによってより強められている。

羽細工が持つ、無限の可能性を追究。

パリ郊外のパンタンにあるルマリエのアトリエには、羽細工の過去の見本が多数ラックに並べられている。これらが新しい組み合わせやモチーフなどをクリエイトするための貴重で刺激的なベースとなるのだ。羽でできることの可能性の大きさは驚くばかりで、フラットなマルケトリーとは反対に、羽だけで立体的なモチーフを仕上げることもある。あるクチュールメゾンのコートのために、羽を刈って羽毛だけにしたものを無数に使うことで、ゆらゆら揺れる柔らかなファーのような印象を与える羽細工もクリエイトした。キューバの首都ハバナで発表されたシャネルの2016/17年クルーズコレクションでは、羽だけで作られた蜂が無数に飾られた透明なコートを発表。もっとも、これはあまりにも繊細で時間がかかる手作業ゆえに、とても高価なものになってしまう、ということで商品化は見送られてしまったとか。

180110_chanel_03.jpg2016/17年クルーズコレクションのために制作された、蜂の羽細工の見本。© Chanel

羽細工で特筆すべきは、すべてが糊付け作業で行われるということだ。ごく普通の糊で、1枚ずつ1枚ずつ、という手仕事。プレタポルテにおいては羽はしっかりと糸で縫い付けられるけれど、クチュールにおいては糊なのである。

アトリエの地下倉庫には大量の羽根が保管されていて、その中には極楽鳥の羽もあるという。これはあいにくと出番なし。というのも、ワシントン条約ゆえに、現在使用できる羽は食用の鳥の羽に限られているからだ。つまりカモ、アヒル、鶏、ダチョウといった、ごくベーシックな鳥の羽しか使えないことになる。幸いにも羽は染色にとてもよい反応を示すそうで、そうした普通の羽が美しい色を纏うことで、極楽鳥にも負けぬ魅力的な羽へと変身できるのだ。 

180110_chanel_04.jpg倉庫で保管されている羽は乾燥している。職人たちが扱う前に、スチームをあてて羽本来の柔らかさを取り戻すのが作業の第一歩だ。photo : Julie Ansiau

180110_chanel_05.jpgドレスの裾、胸元を飾る羽。職人たちは図面に従って、羽のサイズを測り、1本ずつ糊付けしてゆく。photo : Julie Ansiau

2017年12月6日に発表された2017/18年メティエダール コレクション パリ-ハンブルクでは、シックなマリンルックがいくつも登場し、その中には黒と白の羽を組み合わせたマリニエールもあった。その製作においては羽を1枚ずつ手に取り、サイズを測り、モダニティを与えるべく羽をカットし、それから糊付けする、という作業が繰り返し、繰り返し……。ショーでは一瞬のうちに通り過ぎていってしまう美しいドレスだが、それには慎重、几帳面、根気といった言葉を思い浮かべずにはいられない、人間の手による気の遠くなるような技が秘められている。

180110_chanel_06.jpg黒と白。羽でマリンストライプを描いてゆく。photo : Julie Ansiau

180110_chanel_07.jpg2017/18年メティエダール コレクション パリ-ハンブルクのショー前のフィッティングより。ルック84のドレスにかかった羽仕事の時間は、164時間。なおこのドレスには、さらに65時間をかけてモンテックスのアトリエにて刺繍が施されている。
photo : Benoît Peverelli / Chanel

>>年に4万個もの多彩なカメリアが生まれる。

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年に4万個もの多彩なカメリアが生まれる。 

ルマリエでカメリアが作られるようになるのは、パルミール・コイェットの孫の代になってから。ガブリエル・シャネルと一緒に、花弁16枚でできたツイードのカメリアを生み出したのである。現在毎シーズン40種のカメリアをルマリエが提案し、シャネルのクリエイション・スタジオがそこからコレクション用にセレクションをする。素材はツイードに留まらず、レザー、プラスチック、ファーなどリミットなし。このアトリエで、年に4万個のカメリアが手作りされているという。

180110_chanel_08.jpgルマリエのアーカイブに保存されているさまざまな素材のカメリア。photo : Julie Ansiau

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カメリアの花弁の数は16枚が基本。イニシャルCCが花の上に載せられる。photo : Julie Ansiau

ルマリエのフラワーは、カメリアだけに限らず、またブローチだけに限らず。フラワーのアトリエに行くと、 古い道具が整理された壁一面の棚がある。それらは花弁の抜き型、そして丸みをつけるコテ。バラ、オーキッド、スミレ、マーガレットなど花の種類もさまざまなので、合計約3,000〜4,000点近い道具の数だという。シャネルのクリエイション・スタジオがこの世に存在しない架空の花をデザインした場合も、既存の道具で造れる花弁を組み合わせて対応するということができる十分なベースがここにあるのだ。

180110_chanel_10.jpg型抜きやコテは造花作りのための貴重な財産である。型はナンバリングされていて、後の製造のために使用型の番号が必ず記録に残される。photo : Julie Ansiau

180110_chanel_11_12.jpg抜き型でプレスして花弁を切り取り、その後、花弁にコテをあて、圧力と熱でフォルムをつけ立体にする。photos : Julie Ansiau

もっとも、これらの多彩なフラワー用の道具はルマリエだけが持っていたのではない。シャネルは2006年に、ルマリエと同じように装飾用のフラワーを作るアトリエであるメゾン・ギエを傘下におさめている。1896年の老舗であるギエもまた、所有する型抜きや花ゴテはとても豊富。そのギエが存続の危機に面したときに、シャネルは買収することによって道具の散逸を防ぎ、いまそれらがルマリエのアトリエで活用されている、というわけである。

型抜きされ、フォルムが付けられた花弁は、この後上のフロアへと。そこには羽細工、花造りのアトリエがあり、大勢の女性が黙々と作業を続けている。

2017/18年メティエダール コレクション パリ-ハンブルクのためのカメリアは、大変に手の込んだもの。例えば、シルクの花弁に白い羽を重ね、そこに筆で黒いストライプを1本ずつ手描きしてから、花に組み立てて、といったように。美の誕生の裏にこれほどの手仕事が隠されているのも驚きであり、それを可能にするアトリエがいまの時代に存在しているということにも驚かされる。

180110_chanel_13.jpg2017/18年メティエダール コレクション パリ-ハンブルクではカメリアにも羽を多用した。photo : Julie Ansiau

180110_chanel_14.jpg手描きで1枚1枚の花弁に黒いストライプを描いてゆく。photo : Julie Ansiau

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上の写真とは別のマリン・カメリア。左側のカメリアが白と黒の羽の位置を示す参考用で、これをベースに作業をする。photo : Julie Ansiau

>>シャネルの服のパーツを仕立てるクチュール部門。

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シャネルの服のパーツを仕立てるクチュール部門。

ルマリエの3つめの部門である、クチュールについて説明をしよう。クチュールといってもここは服を仕立てるのではなく、その前段階の仕事をするアトリエ。ここで用意された服のパーツが、シャネルのアトリエに送られて服に仕立てられるのだ。

シャネルの傘下として、ルマリエとロニオンは名前を並べているが、正確にはロニオンはシャネルの傘下のルマリエに属している。 ただ、ロニオンがプリーツ細工の歴史と強いアイデンティティを持つゆえに、独立したメティエとしてシャネルは扱っているそうだ。前回紹介したロニオンのチーフであるクレールが、ルマリエのクチュール部門で7年近く仕事をした後、ロニオンへの移動を希望できたのも、こうした背景ゆえである。

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クチュール・アトリエの壁に掲げられた、カール・ラガーフェルドのデッサンと羽仕事の見本。羽で構成されたマリン・ストライプなどのベースが、ルマリエのクチュール・アトリエで型紙に沿った服のパーツに仕立てられるのだ。photo : Julie Ansiau

ルマリエのクチュールのアトリエでは、ロニオンでプリーツされた素材を多く扱う。2017/18年メティエダール コレクション パリ-ハンブルクから、上の写真の右下にあるデッサンの「リュバン・ビエ」がプリーツされた黒のシルクサテンのジャケットを例にとろう。
ロニオンで「リュバン・ビエ」のプリーツが施された布は、シャネルのアトリエではなく、ルマリエのクチュール・アトリエに届けられる。ここで綿入れがなされ、そしてプリーツの交差部分が縫い止められ、こうして立体的な素材に変身するのだ。

180110_chanel_17.jpgロニオンでプリーツ「リュバン・ビエ」が付けられたシルクサテンは、ルマリエのクチュール・アトリエで綿入れされる。ジャケットに仕立てるのは、シャネルのクチュール・アトリエ。なお、プリーツの名前の意味は、バイアスのリボンである。この写真を見ると、その命名に納得できるはずだ。photo : Julie Ansiau

小さなアトリエだったルマリエは、カール・ラガーフェルドからのリクエストが多く、いまや常時80名が働くシャネル傘下のメティエダール最大のアトリエに。自分のプレタのブランドも持つクリステル・コシェが、8年前からアーティスティック・ディレクションを担当している。新しい提案を余儀なくさせるカールのデッサンにより、ルマリエもほかのアトリエと同じく伝統をベースに革新を続けている。

180110_chanel_18.jpgメゾン・ミッシェルの帽子にルマリエが羽細工を施し、マサロのウェディングシューズがルマリエで羽に覆われて、というようにメティエダール間でもコラボレーションが行われている。photo : Julie Ansiau

réalisation : MARIKO OMURA, graphisme du titre : KAORU MASUI ( [tsukuru] )

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