【Weekly連載 24】ある古城の「繋ぐ」お話。
caoの心の育て方。
今月はツナグをキーワードに幾つかお話を紹介させていただきましたが……
みなさん飽きたのでは?
正直、わたしは飽きましたよ
でも――、今回もツナグお話にお付き合いください。
まっ、飽きたら読み飛ばしてくださいねっ
わたしなら読み飛ばすかも……フフッ
さて、今回のツナグお話は、
のどかで、風がゆるやかに流れるところにある古城を訪れた時のことを。
キッカケは、とあるオークション会場で声をかけられたことから始まったの……
確か背後からつぶやくように
" あなたにお願いしたいしたいことがあります "
と声が聞こえた気がして。
振り返ると背筋のピンとした紳士さんがうっすら笑みを浮かべ、わたしから目を離さずに軽い会釈をして真っ直ぐみつめてくるので、ついつい調子に乗ってしまい、話をしてしまって……
"わたしが?"
"あなたが"
"はっ?誰に??"
"城に"
"はぁ~?"
こんな突拍子もない会話を弾むようにしてしまい、後に続く話を想像して後悔。
しばらく紳士さんを怪しい視線で見つめながら沈黙……
この沈黙を紳士さんは、はにかむような笑顔でのぞき込み
"お話を進めても構いませんか"と一言。
紳士さんの笑顔最高――
わたしの興味を一気にかきたてたのを憶えています。
お恥ずかしい、わたしって単純。
ハハッ
でね、紳士さんがおっしゃるには、そのお城は歴史が古く、お城が人を選ぶため、いわゆるポルターガイスト現象があるようで、変な物音がしたり勝手に窓が開いたりと、誰も怖くて寄り付けないんですって。
わたしも近づきたくないなぁと思って、何度か丁重にお断りしたのですが、あの笑顔で、ある距離を保ちながら持久戦を持ち込んでくる紳士さんにさらに興味がわき、こんなこともご縁と無理やり意味付けて、ルンルンでそのお城に連れていかれることに。
お城を周りながら、当時の情景がいろいろと視えてくる。
おもしろーい
お城の亡き主は、広くこの地を治めていたようで皆から恐れられるようなタイプの方だったみたい。
村人たちは彼を非常に怖がって、震え上がるくらい。でもそれは、怖がらせて彼らに近づけないようにしていた、とも言えるようね。
守るためには対外的に強くあらねばならない時代でもあったから、周りから戦争を仕掛けられないように、必要以上に怖いイメージを植えつけていた、そんな主だったみたい。
孤独を選び、治安を選んだのね。
紳士さんはこのお城の主さんを支えていらした執事さんってことね。
ほーっ
ポルターガイスト現象を起こしているのは紳士さんじゃんね
まるで誰かがしているかのようなニアミスでいってくれちゃっているけども。
笑顔って怖いわ
騙されたわ
おっと、話を戻しまして――。
で、そうあらなければならないから、彼は、長く独り身を通したようだけど、政略結婚で妻をもらうことに。
お相手の方は敵国の娘、歳の差は20歳ほども離れた、まだ子どもような女性。嫁いできた時、彼女もまた彼のことがとても怖かったらしい。
何年もそれぞれ別の部屋で暮らしていたみたいなんだけど、ある日、彼女はふと、人目を避けるようにして隠れて涙を流す彼を見かけ、亡くなった人をしのび、声をひそめて泣いている彼の姿をみてから徐々に心を通わすようになり、次第に彼を陰ながら支えるようになったそう。
城の外を、中をと歩きながら、そんなお城の歴史を楽しんでいるなか、一つだけ不思議な隠し部屋を発見。
主がその部屋だけは、決して誰にも見させまいと頑なに守り抜いてきたようなんですけれども……
フッ
甘いな、わたしにバレてるじゃないか。
こら紳士さん、いいのかい?
バレた以上は、容赦なく開けちゃいますよ。
ん?
このお部屋を見つけられるか、もしかして試した?
"やはりみつけましたね"と、うれしそうに、またあの笑顔で。
これまで開けられた様子がないその部屋の扉をそっと開けてくださると……
中にあったのは、生き生きとした家族の品々。
パッと目に入ったのは、奥様に贈ったドレス。これがもう目を釘付けにさせるほど綺麗なレースに、刺繍に、宝石にと、見事に装飾されている素晴らしく繊細なドレス。
そのほか子どものベビーベッドや、おもちゃがあったり、家族で大事に使っていたようなものが、小さいものから大きいものまでたっくさん。
この部屋を見ると、彼がいかに家族を大事に思い、大切にしてきたのかが分かる、とてもあたたかい部屋。
世には怖く恐ろしい顔を見せている彼が、奥様の前で一瞬だけ見せる別の素顔。その素顔の彼が、すべてその部屋に凝縮されているかのよう。
お城に住む人がすべて亡くなって、何世紀経っても、このお城を思う気持ちや品々を思う気持ちが、当時を残していく。
ホコリはあっても、なにひとつ欠けることなく、その時のまま輝いている隠し部屋。
その部屋は再びそっと閉じて、出てきました。
開ける前以上に、誰にも見つけられないような工夫もして……
紳士さん、これが目的だったのね。お役に立てたならうれしいけど。
お城にたくさんの歴史があり、大切にしたい気持ちは息づいてゆくものですね。
歴史って、言い伝えられているものより遥かに言い伝えられていないことの事実の方が多い。
でもね、言い伝えられていないことの事実があるからこそ、たくさんの想像を楽しむことができて、その歴史にはまるのではないだろうか。
どう思います?
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illustration : MARIKO ENOMOTO